【ヒマの過ごし方】359氏



ピ,ピ,ピ…パチ,パチ…
何もない部屋に響く二つの音。
そこにはテーブルの上に一冊の本。それを挟み、向かい合いながらそれぞれ電卓とソロバンをはじく二人の女性。
「ウーン…これはマズイわね…」
「エエ、もう終ったの!?こっちはまだ終ってないのに…」
「ったく、遅いんだよ!」
ソロバンを叩く手を止め、顔を上げる。
その顔には機械への勝利から来る充実感と、これからの生活への不安が混ざっていた。
「コッチはこれだけ。ソッチは?」
「待って、あとちょっと…ウワ、これだけ!?」
「そう、これだけ…どうする?」
「どうするもなにも、一日300円…」
「それだけであと二週、生活する自信…ある?」
「ウウン!」
激しく首を横に降る。
「夜、パンの耳で良い?」
「エエー!ジャンク品でも探しに行こうよー!」
「冷蔵庫には何もないけど?それでいいの、クレア?」
「ウッ…ケイ様、ワタシが悪うございました…」
「ハイハイ、わかったらついてくる!」

「で、ケイ?」
「何よクレア?」
「本当にパンの耳貰って家に帰るだけ?」
「当たり前じゃない。もう暗いんだし」
ケイの言う通り、外はもうすぐ五時になろうかというころだが、
日は既に西に傾き、すぐにでも姿が隠せそうだった。
「それに、早くしないとパン屋も閉まっちゃうよ!」
「ああ〜!サイフ持ってきてない!」
「バカ!パン屋のオジサンにはアタシが話つけとくから急げ!」
軽くゲンコツを食らわすと二人は散々に別れた。
「イタタタタ…何も叩かなくてもいいのに…
ん?あれは戦艦?じゃあアソコには宝の山が…!
急いでケイにも教えなきゃ!」
突然、笑い出すクレア。
今月の生活苦から抜け出せるチャンスと見たらしい。
「…と、サイフ取りに行かなきゃ、またケイに怒鳴られちゃう。
待っててね、マイ・トレジャーよ!」
クレアに勝手に宝のありかにされる戦艦であった。

「で、クレアさん。これが噂の宝船?」
わざとらしく尋ねるケイ。
「そう!この中には数々のお宝が…」
「…クレアさん?」
「ハイ、なんでしょう?」
クレアが振り返った瞬間、ケイの掌底が飛ぶ。
が、その一撃はしゃがまれ避けられる。
「チッ…本当、カンだけは良いんだから」
「それだけがワタシの取り柄ですから!」
「一言多い!」
今度はコツンと言う音と共にうずくまるクレア。
「ったく、戦艦が来るって話はあっただろ!?」
「イヤ…そうですが…」
「それに軍の物かっぱらって何がしたいんだ!」
「スイマセ〜ン…」
「ったく、冗談でも言って良いことと悪いことがあるでしょ!?」
「あう〜…でも何で軍がココに?」
「さあ?軍事演習かなんかじゃない?」
実は、その戦艦は軍ではなかったりする。(たしかに、軍も来るのだが、まだ早かった)
では、その戦艦の中は?ちょっと覗いてみよう。
「…ダメです。レーダー、回復しません」
「そうですか。フェイ、少し休んではどうです?」
「スイマセン、艦長。でもあと少しですので」
「いや、構いません」
「ニキ艦長、ちょっと」
「ハルト、どうしました?」
「いや、エンジンが動かないようです。全力で直してはいるのですが…」
「困りましたね。メカニックがいなくなったのが痛いですね…」
「あ、レーダー復旧できました…艦長!?」
「今度はどうしましたか!?」
「敵反応、近づいてます!さっきのヤツです!」
「逃げきれませんでしたか…市街地に近付けないようにMSを展開してください!エンジンはまだですか!?」
「スイマセン艦長!まだ調子が…」
「クッ…このままでは…」

一方、あの二人は公園通りを歩いていた。
「ねえケイ、ケイってばー」
「今度はなんだい?」
「軍の船が来るのって今日だっけ?
「あれ、違った?」
「多分…それに来るにしても遅すぎない?」
「考えすぎなんだよ、クレアは」
「でもね、"違う"んだよ、あの船」
「何が"違う"?」
「…古すぎるんだよ。今軍の主力ってクラップ級でしょ?
なのにあそこにあった船、アーガマだと思うんだ。少し形が違うし、本でしか見たこと無いから自信はないけど…」
「言われてみれば…あの形の船は見慣れないけど…」

ガシャン。
「今の何の音?」
「もしかして…!」
「待って、ケイ。いっせーの、せで振り向こう」
「わかった。…いっせーの…」
「せっ!」
ガシャン。
「ねえ、どうなってるの!?あのMS!」
「知るか!クレア、あれ軍じゃないんだよな?」
「た、多分だよ、多分!」
「…よし、行くよクレア!」
「い、行くってどこへ!?」
「あの船だよ、急ぐよ!」

―そのころ、戦艦内部では―

「敵MS来ます!」
「近隣住民への避難勧告は!?」
「各放送局には頼んでいますが…」
「艦長、大丈夫です!三分でお願いします!」

「…皆さん申し訳ございません。
私は戦艦ネェル・アーガマの艦長、ニキ・テイラーと申します。
我々はコロニー近郊を航行中、正体不明のMSに追われ、ここに避難してきました。
ですが、あと二十分たらずでその敵機がこのコロニーに来ることがわかりました。
市街地の方々は素早い避難をお願いします。
我々も皆様に危害の無いように全力を尽します。
繰り返します、市街地の方々は避難の方を…」

「…これで、大丈夫ですかね…」
伏し目がちに尋ねる。
「フェイ、信じるしかありません。
とりあえず、各展開機は市街地の方を避けて行動するように伝えてください」

「艦長!艦の付近に誰かいます!」

「コラーッ!責任者出てこーい!」
「ケ、ケイ止めようよ」
「こういうのは言わなきゃダメなんだよ!」
「ケイ、そうじゃないって」

「…艦長、どうしましょう?」
「…艦内に入れましょう。
外に放置すると危険ですから」

「早くしろー!責任者はどこだー!」
「ケイ、あんま意味無いって…」
「オーイ、そこの二人!そこは危険だ、中に入りなさい!」
「ウッソー!?」
「ほら見たかクレア!さあ、行くよ!」

戦艦の中に入る二人。艦内は戦闘間近なせいかあわてふためいている。
飛び交う怒号の波をすり抜け、ある場所へと招待される。
そこには、突然の来訪にも動じない女性がいた。
「ようこそネェル・アーガマへ。
私が艦長のニキ・テイラーです。」
「(本当にアーガマだったな…)」
「(ウン…チョット驚いてる)」
「(クレアが言ったんじゃないか!)」
「(いやあ、まさか当たってるとは…)」
「なにをコソコソしてるんです?」
「イ、イヤ…アハハハハ」
「?」
乾いた笑いをする二人。
実際、ニキの洞察力は本物で、艦長には適任だった。
「で、アナタたちは何の御用件で?」
「エッ…!?」
たじろぐケイ。
「(ケイちゃん!何もなかったの!?)」
「(いや、あるにはあるんだけど、艦長がこんな人だったなんて…)」
「ア、エー、コホン。」
白々しく咳をする。
「とにかく、あのMSは何なんです!?
なぜこのコロニーに来たんですか!?」
「それに関しては謝らせてもらいます。
本当に申し訳ありません」
「アリャッ!?」
あっさりと引き下がるニキの態度に肩透かしを食らうケイ。
「それと、一体これからどうなるんですか?」
「あ、クレア!それはアタシのセリフ!」
人のセリフを取った取らないで険悪になる二人を、
珍しい物を見ているかのような顔をするニキ。
「これから―」
二人の動きが止まる。
「これから、敵MSが来ます。
私たちも極力街への被害は避けますが、
いかんせん敵機がどうでるか―」
「艦長!敵MS、コロニーに潜入しました!」
「来ましたか…MSの展開は!?」
「第一部隊三機、準備できています。ただ…」
「ただ?」
「第二部隊、MSは準備できていますが、
いかんせん、負傷兵の治療が」
「…ハルト、エンジンと主砲は?」
「やはり人手が不足してますね…まだかかりそうです」
「何、直せないの?ったく大の男が集まって何やってんだか!」
フン、と鼻息を荒げるケイ。
「ケイちゃん!」
「ケイさんと申しましたね?
アナタ、まさか…」
「機械いじりは得意だけどね!
アンタらみたいに勝手に人の庭にズカズカ入ってくるような奴らに誰が力を貸すか!」
「ちょっと、言い過ぎだよ!」
クレアの制止を振り切り、
ますます語気を荒げるケイ。
「言いたかないけどね。
アンタら、自分がおかしたヘマでアタシらが被害を受けるってのに、
被害者ヅラして、フザケンのも大概にしなよ!」
「…」
ただただケイの罵倒に耐えるニキ。
あらかた出尽し、シン、と静まった時に、その口を開いた。
「アナタの言うこともおっしゃる通りです。
ですが、我々も命がけなのです。
無理を承知で頼みます、ケイさんに助けていただければ、我々も早くここから出発できるのです。
…お願いします」
「な!?アタシの話聞いてた…」
「ケイちゃんにはワタシから話をつけときます。」
ケイの堪忍袋が再び切れる前にクレアが遮る。
そして、部屋に包まれていた重い空気が変わっていった。
「クレア、アンタ何言ってるの!」
「ケイちゃん、困っている人は助けなきゃ」
涙目で訴えるクレア。
「…わかった。艦長さん、どこから直せば良い?」
クレアに言われちゃたまらない、というそぶりをみせるケイ。
その様子を見てほっとするクレアだった。
「それでニキさん…」
「クレアさん、なんでしょう?」
「ワタシに、ワタシに出来ることは何かありませんか?
ケイちゃんもがんばろうとしているのに、ワタシだけ見ているだけなんてできません!」
突然の願いに驚きの表情を見せるニキ。
「MSの操縦経験は?」
「乗ったことはないですが…本とかをよく読むくらいで…」
「では…今、外の部隊が苦戦しています。支援ができれば結構です」
関係のない人に経験したことの無いことをやらせる、そのリスクは重々承知している。
だがニキは、クレアの意思を重視し心を鬼にして言い放った。
「わかりました」
「では、発進ドッグへ」
「ハイ!」

「(私は…私は正しかったのでしょうか…?)」
部屋を出ていくクレアの背中を見送った。
「大丈夫だよ」
部屋から出たニキにケイが声をかける。
「…よくわかりましたね」
「顔に『私は悩んでます』って書いてあるんだもの!」
帽子を深くかぶっているせいで顔は見えないが、
ケイは笑いを押し殺していた。
「それと…さっきは悪かった。
アタシたちの街が壊されるんじゃないかっていう不安と、
ニキさんの態度見てたらちょっと我慢しきれなくて」
「不快感を与えていたなら謝りますが…」
「いいよ、さっきから謝りっぱなしじゃないか!
それに、クレアは頑固な子だ。
止めても聞かなかっただろうよ」
「お二人はどういう関係で?」
「関係?ただのルームメイトさ。
クレアにも聞いてみな、答え一緒だから」
「ケイさんはクレアさんが帰ってくると?」
少し顔をしかめるケイ。
「当たり前じゃないか!
クレア、勘と運だけは強いからね!」
「そうですか…」
すると、ニキの顔が何かを思い出したかのように変わった。
「ケイさん」
「ん、何?」
「早くエンジンの修理に向かってください!」
「ウヒャア!し、失礼しました〜!」
颯爽と向かうケイを見てフフ、と笑う。
「良い、友人を持っているのですね…」

「発進準備、出来てます!」
「ハ、ハイ!クレア、行きま〜す!」
が、いきなり着地に失敗しズッコケる。
「ウゥ…アムロ・レイみたいにカッコヨクはいかないか…」
ブッ倒れた機体をなんとか起こし、頭を掻く。
「ま、こういうときは…気楽に行きますか」
その瞬間、目の前のジェガンが差し違え、爆発した。
「ア、アハハハハ…気楽に、気楽にね…」

「大丈夫でしょうか…」
出撃、即味方機の撃沈…
このショッキングな出来事に心配するニキ。
その心配はすぐに答えが出された。
「う、う…か、かんちょ〜う…」
鼻水を垂らし、涙目なクレアが通信に映った。
「艦長、敵ってどんな機体なんですか〜…」
「…私にもわかりません。」
「そんな〜」
「しかし、推測ですが…
敵は無人かもしれません」
「ど、どういうことですか〜」
敵から放たれるビームをやっとの思いでかわし、
かつ、街に被害の及ばないように逃げるクレア。
その動きはぎこちなかったが、初めてとは思えない。それくらいよく動けていた。
「先程の玉砕を恐れない姿勢、
ある程度画一化された動き…
ひょっとしたら人工知能か何かを積んでいるのかもしれません。
ですが…もしある程度想定された動きをする機械ならば、
変化に弱いはずです。」
「ちょっ、ど、ど、どういうこと〜!?」
この間も精一杯避けるクレア。
ちなみに、まだ銃は撃っていない。
さすがに避けることと通信を取ることが限界だった。
「つまり…定石はインプットされている。が、その道をはずすと弱い。
それが出来るのがクレア、アナタな訳です。」
「も〜、わっかんないよ〜」
「…今のアナタの動き、はっきり言ってメチャクチャです。
が、それでいいんです。
相手の理解不能な行動を取り続けて下さい」
きょとん、とした顔をする各ブリッジクルーの面々。
「う〜ん、わっかんないけど…
このままでいいんですね」
「ええ、そして100%当ててください!」
「ムリ!それは無理!あ、艦長!」
無情にも通信が切られた。

「ありゃ、もう追ってこないのかな?」
この時クレアはコロニーの天井近くまで昇っていた。
追ってこないのではなく、いなくなった=逃げたものだと認識されていたようだが…
「これがワタシたちの街か…」
眼前に迫るのは、まるでジオラマのように小さくなった街並み。
さらにこの街並みを守るべく必死に戦うも防戦一方なジェガン二機と、
脅かす侵略者が二機。
「ん?気付いてないって事は…これってチャンス?
ニキさんがいってた滅茶苦茶やれ、ってこのことかな?」
当たらずといえども遠からず。
実際、敵機はもはやクレアの機体を認識していないようだった。
目の前の弱者を狩るのに全力を尽していたとも言える。「とりあえず…真上から行けばバレないよね?
ソーッと、ね…」
このとき、クレアはふと幼かった頃を思い出す。

………
「クレアは今何がやりたい?」
「ケイちゃん、ワタシね、空で寝たいな」
「空で?」
「そう。空中でキャンプするの。
雲を枕にしてね、街を見下ろして…
きっと、きっとキレイなんだ!」
「ハハッ、クレアらしいや!」
………

「今のって、走馬灯ってヤツ?
ヤダ、ワタシ何考えてたんだろ」
そして、狙いを定める。
「10数えたら行こう…
10,9,8,7…メンドイ!行っくぞー!」
猛スピードで落下するMS。
「あ、止め方考えてなかった…やっぱさっきの、走馬灯だったのかな…」
そして、照準が合う。
「速度を落とすってことは…失敗したら袋叩きね…
あったれー!」
放たれた光の束が一点に向かって吸い込まれていく。
その点上には一体のMS。
見上げたときにはその束が頭から貫いていた。

「敵一機撃墜!」
フェイが驚きの声をあげる。
「やりましたね…」
ニキも内心驚いていた。
「あと一機ですね…」
ハルトが言い聞かせるように言う。
「ええ。犠牲も大きいですが…」
「艦長さん!修理できたよ!」
エンジンオイルで汚れたままのケイが現れる。
「本当ですか!」
「ああ、その場しのぎだけどね!一応動くよ!」

…流れは…傾きつつあった。

「ケイさん、クレアが」フェイがこれまでのいきさつを説明する。
「マズいね…こりゃ」
ケイの顔が曇る
「艦長さん、ちょっとクレアに会わせてくれない?」
「ええ、かまいませんが…」
そういって回線を開く。
「こら!クレア!」
「わ、わ、ケイ!」
「いい気になるなよ!」有無を言わせず回線を切る。
「ハイ、OKです」
「…なるほど」
ウンウン、とうなづくニキ。
「あ、わかります?」
ケイがニヤニヤと笑う。
「慢心させずに冷静さを取り戻させる…」
「その通り!」
人指し指をビシッ!と突き刺す。
「あ、悪い悪い」
慌てて指を引っ込める。
「ま、チャンスの後にピンチありってヤツ?」
「…そうかもしれませんね」

ケイの激励?を受けたクレアはまた逃げ回っていた。
先程の奇襲の成功から一転、今度は徹底的に狙われている。
味方機の援護もかわされていく。
そして…前からタックルを仕掛けてくる敵。
「マズい…逃げられない」
後ろには街。避けたら突っ込むのは確実だった。「受け止めたら…死ぬね、コリャ」
なかば諦め半分のクレア。
逃げてるときにライフルを落とし、
サーベルも今からでは間に合わない。
「せめて、カッコいいセリフでも残しますかね…
あれ、目の前が暗い?」
眼前には一体のジェガン。
敵はそれめがけて突っ込む格好となる。
そして…ジェガンがしっかりとタックルを受け止める。
そして敵機の後ろからもう一体のジェガンがサーベルを降りかざした。
…動きが止まる。
敵は受け止めたジェガンに掴まれたまま一緒に爆発した。
煙で前が見えない。
向こうに一つ影がかろうじて見える。
煙が晴れていくにつれ、ジェガンがはっきりと見えてきた。
「…そこのMS、無事か?」
女性の声がする。
「あ、ハイ!一応大丈夫ですが…」
「そうか…ここのヤツだったな?」
「エエ…」
「すまなかったな…」
「いえ、ワタシこそ、
アナタの仲間を…」
「言うな。みなオマエや、この街を守るために死んだのだから…」
「…ハイ」
「帰還の準備ができたようだな、
回線を切るぞ」
「あ…」
「名前、聞けなかったな…」

ドッグに戻る。
生きて帰れたこと、街を守りきれたこと。
それらを感じる以上に疲れ果てていた。
「クレア!」
声がする。おぼつかない足でその方向へ行くと、
突然ギュッと抱きしめられた。油の臭いがクレアを包む。
「ケイちゃん」
「何?」
「…痛い」
「あ、ゴメン!」
放すケイ。クレアは倒れそうになったが今度はケイの肩を掴む。
「エヘヘ…ただいま」
力なく笑う。
「疲れた?」
「うん…ちょっと休みたいな」
「わかった。聞きにいこ」
クレアをおんぶする。
「ちょっと!?」
「どうせ一人じゃ歩けないんだろ?」
何だか恥ずかしいな…と思う。
が、安堵感からかいつの間にか背中で寝ていた。
「ったく…ガキなんだから」
背中から聞こえる寝息をただただ聞いていた。

目が覚めると夜が明けていた。
「あ、目、覚めた?」
ケイが尋ねる。
「ここ…どこ?」
見たこともない、白い部屋。そのベッドの上で寝ていた。
昨日のことは夢だったかのように思えてくる。
「船の中だよ」
「あっ、そうなんだ」
布団から起きる。何故だか少し寒い。
鏡の前に立つ。
「ウワッ!」
そこには一糸も纏わぬ自分の姿。
「昨日」
ケイが着替えを持ってやってくる。
「かなり汗だくだったからさ、脱がしちゃった。
この後、艦長が話あるってよ」

部屋に行くと既にニキがいた。
「昨日はすいませんでした」
「いえ、こちらこそ」
話の糸口が見付からずおどおどする二人をケイが笑いながら見ていた。
「お願いがあるのですが」
話を切り出すニキ。
「私たちと…来てくれませんか?」
「へ?」
目を丸くする二人。
「いきなり言われてもねえ…」
悩むケイ。
「艦長」
「クレアさん、何でしょう?」
「ご飯は三食つきますか!」
微笑むニキ。
「もちろん」
以降、こんな調子の質問を繰り返す。
風呂、寝床…とにかく生活のことを質問攻めにする。そして、
「ワタシ、行きます!」
そして、ケイの方を向く。
「いいでしょ?このまま200円の生活よりは。
どうせヒマなんだし、使うなら有意義にしなきゃ!
それに、ケイちゃんは機械がイジれるし、アタシはパイロットになれるかもしれない!
憧れてたんだー、パイロット」
「ウーン…」
「ケイちゃん、聞いてる?」
「ウーン…」
「艦長」
ついにケイの口が開いた。
「こんなアタシたちでも良かったら」
手を差し出す。
「…喜んで」
握手をかわす。
「ではこれから手続きを済ませてください。
二人とも何かあるならそれも持ってきてくださいね。
午後には船を出します。そのつもりで」
「ハイ!」

こうして、旅が始まるのであった。