【暗闇から手を伸ばせ】359氏



何もない空間を進み、次なる目的地に向かって行く戦艦ネェル・アーガマ。
「艦長、正体不明のMSがわかりました」
「どれ…これは?」
「やはり無人のMSのようです」
「一体、誰が…」 
「わかれば苦労しませんよ」
フェイが苦笑する。
「艦長さん」
「やあ、ケイ」
「このままどこへ行くの?」
「物資の補給に立ち寄ります」
「ふーん」
「アナタもついていきますか?」
「ウン、やっぱ機体は見ておきたいし。
で、補給って誰がしてくれるの?」
「私たちの理解者…そんなところですかね」

一方、クレアは艦の中を探索していた。
「行ってないのは…あ、ここ行ってないや」
ドアをノックする。
「いるぞ」
「ヤバ、いたのね…」
ちょっとテンパるクレア
「失礼しまーす」
そこには女性がいた。赤い髪の鋭い目。
「オマエがあの…」
「ハイ、クレア・ヒースローと申します」
「そう固くなるな」
ガチガチのクレアに笑みを浮かべる。
「名前、まだだったな。
ディライア・クロウだ」
「お願いします」
軽く握手をかわす。
「早速だが―」
ディライアがにらむ。
「戦ったのはアレが初めてか?」
「ハイ…」
「そうか…一緒に来てくれないか?」
「ハイ!」

クレアを連れていくディライア。
「ココは…?」
クレアが尋ねる。
「シミュレーション室だ。
宇宙はまた一味違う。
クセを掴まないと…死ぬぞ」
すごむディライア。
「ハ、ハイ!」
たじろぐクレア。
それを見て、少し優しく接する。
「所詮テストだ。ぶつかってもいいから思い切り行け」

ネェル・アーガマはその頃、補給地にたどり着いていた。
「今日はこれだけだね」
「これだけの援護を…痛み入ります」
「恐縮しなさんなって」
「でも、どこでみつけたのです?」
「そんなもん、顔パスよ、か・お・パ・ス☆」
ニキに向かってウインクをする。
「それに、これぐらいのもの金に糸目をつけなきゃいくらでも…ね?」
「ん、艦長、誰ですか?」
「ケイにはまだ紹介してなかったですね」
「ノーラン・ミリガンよ。
この艦長さんとはもう長い付き合いになるのかな?」
「ハイスクールからでしたね…」
「へ〜、あ、失礼。
アタシはケイ・ニムロッド。
色々あってアーガマのメカニックやってます。」
「メカニックね…ケイも見に来る?」
「何ですか?」
「ひ・み・つ!」

半ば無理矢理ケイの手を引き倉庫の中に入るノーラン。
「ほら、コレ」
「これは…ガンダム?」
そこにあったのはガンダムと思われるMS。
だが、その灰色で覆われたフォルムは歴戦のガンダムとは違っていた。
「そう。見たことないでしょ?」
「確かに…」
「Mk.L」
ノーランはそう言い、表情を変える。
「ガンダムは常に戦場の華、主役を張る機体よ。ただ…」
「…ただ?」
ノーランの表情の変化を見抜いたのか、恐る恐る尋ねる。
「この子は時代が光を当てなかった。
この子が出来たとき、流れはZ、S…そしてZZにあった。
不幸な子なのよ…」
MSを息子のように語るノーラン。
ニキには共感するモノがあった。
「…ちょっと堅苦しくなっちゃったね」
テヘッ、と舌を出す。
「でも一緒なんだ…あたしたちと」
「一緒?」
「落ちこぼれってところかな?あたしもニキも、そしてこの子も」
「?」
「ニキもね、何故か軍の中でも落ちこぼれな所にいたしね」
「あれ、軍人だったんですか?」
「ウーン、説明しづらいなあ。
一応、軍は除籍してるのかな?
でも、連邦とは関係があるの」
「…なんだか複雑なんですね」
ケイはそれ以上は深く言及しなかった。

シミュレーション室では、以前戦闘が続いていた。
「…そろそろ休憩にするか?」
「ウゥ〜…」
ヘタリと座り込み、下を向く。
「まあ、そう落ち込むな。」
「五戦五敗かぁ〜」
「初めはそんなもんだ」
「ディライアさん」
「何だ?」
「あと一回!」
「その心意気、望むところ!」

「状況は?」
「任せます」
「じゃあ、行くぞ!」
暗い暗い海のような宇宙。
そこに配置される二体のジェガン。
目の前にはアステロイド帯だろうか?身を隠すにはいいかもしれない。
「どうしようかな…」
ブースターをふかし、ゆっくりと前進する。
視界にはまだディライアの機体は見えない。
なにより、無重力特有の浮遊感にはまだ慣れていない。
「弾は…四発?五発?ムダには出来ないなぁ」
そうしているうちに一体のジェガンが近付く。
クレアと違い、慣れた動きである。
そうしてかなりのスピードで来たかと思えば、バルカンを連射してくる。
「ヒット・アンド・アウェイ!?」
なんとかシールドでしのぐ。
「この程度で守りに入るな!」
ディライアの叱咤が飛ぶ。
「クレア、付いてこい!」
そうして、アステロイドベルトに進む。

アステロイドベルトには小隕石が無数に広がっている。
ぶつからないように器用に避けるディライアと違い、
クレアの方はどうしてもおぼつかない。
そうこうしているうちに、二人の距離は次第に広がっていた。
「クレア、いいか!」
「ハイ!」
とは言っても、不安は残る。
何せこの五戦、クレアは全てこのアステロイドベルトで負けている。
それくらいこの場所が苦手だった。
「ディライアさん、手加減してくれないかな」
だが、そんなことを期待してはいられない。
「クレア」
ディライアが呼び掛ける。
「ハイ」
「手間取ってるみたいだな」
「ハイ…」
「そんなに隕石は意識するな。
ワタシだけを見てろ」
「うーん…やれるだけやってみます」
難しい注文だな、とクレアは思った。

「では…行くぞ!」
言うなりビームライフルを構え、発射する。
「速い、速いよ!」
すんでのところでかわす。
「ディライアさんだけを…見る!」
不思議とさっきより隕石を恐れずに進む。
「なるほど…飲み込みが早い!」
続け様に二発撃つディライア。
「避けきれないなら…!」
シールドを前にしていっきに進む。そして、
「いっけぇぇぇ!」 
ビームサーベルで切りにかかった。
「くっ!」
ディライアもビームサーベルを出し、クレアの一太刀を薙払う。
「アレ、当たらないの!?
…ウワッ!」
戸惑っている内に隕石が直撃する。
「クレア…覚悟!」
「そんな殺生な〜!」
そうして、クレアは画面に映るFailedの文字を呆然と眺めていた。

「トホホ…これで6連敗か」
口を尖らせ、人指し指と人指し指をツンツンしていじける。
ディライアはそんな彼女を励ます。
「あとちょっとだな。
その感じを忘れるな」
そして、去り際に言う。
「悪いが、ワタシにビギナーズ・ラックは通じないぞ!」

ディライアが部屋をでるとニキにばったりと出会った。
「ディライア、クレアはどうでした?」
ディライアの表情が一転する。
「艦長、それについて話が…」

部屋に二人きりになる。
「話とは?」
ニキが切り出す。
「あれぐらいの年の子がMSを動かす…今日、ワタシも追い詰められた」
「ニュータイプ…だとでも?」
「確証はない…が」
「ディライア、アナタが言うのですから」
ニキは彼女に全幅の信頼を置いていた。
アーガマのボディ・ガードであり、ある種"守り神"的存在…
ディライアの勇猛果敢な戦い振り、そして敵味方を問わぬ紳士な態度にニキは心酔すらしているように見える。
「いや、ワタシの日々の鍛練が足りなかったかも知れない」
「私は」
ニキが語り出す。
「私はアナタを信じます。アナタが、私の決めた道を信じてくれているように」
「その心遣い、感謝する。」
「いえ、アナタがいなければ、今頃…」
突然、サイレンが鳴り響く。
「敵MS、接近中!」
フェイの声が艦に響く。
「…時間だな」
「新型が来てますが」
「ガンダムが来たらしいな?」
「ええ」
「クレアに乗せてやれ」
そう言って、ドッグへと去っていった。
「…どうかご無事で」

ドックには既にクレアが待機していた。
「ね、ね、ケイちゃん!」
「はいはい、なんですか〜?」
まるで幼稚園児をあやすような猫撫で声で答える。
「う〜、そうやって馬鹿にする〜」
頬をふくらませて不快感を表すクレア。
(ったく、それがガキなんだって)
そう思うケイであった。
「それよりもアレ!ガンダムだよ、ガンダム!
ちょってカタチ違うけど、生で見れるなんてカンゲキ!」
すっかり以前のMSフリークに戻ってしまったクレア。
「アレに乗るの」
「誰が?」
「クレア、アンタが」
驚きの余り2m近く後退りする。
(あっ、ムーン・ウォーク)
しかしケイは黙っていた。
「ワ、ワタシが?」
「艦長が言ってた。間違いないさ」
「ア、アハ、アハハハハ…」
背中にイヤな汗が流れる。
夢であった"ガンダム"をペーペーな自分が乗る。
艦長はどうかしてしまったんじゃないかとすら考えた。
ただ、あの性格の艦長のことだ、そんなことは無いだろうと思い直す。
ということは、艦長は正気である。
クレアの背中のイヤな汗はますます増えていった。
「ケイちゃん」
「なんだい?」
「ココつねってくんない?」
そう言って頬を差し出す。
ありったけの力でつねるケイ。
「アイタタタ!」
涙目になる。と、いうことは夢ではないようだ。
「はい、ジョークはそれまで!」
ケイがパン!と手を叩く。
「んじゃ、いってらっしゃ〜い」
「うわ、ちょっ、待って〜!」
無理矢理コクピットに連れてこられ、そのまま乗せられ出されていった。

「ケイ、用意はできているか?」
「ジェガンの改修、バッチリです、ディライアさん!」
親指を立てる。
「ありがとう。よし、出るぞ!」
クレアに続いて出ていく。
「敵、前といっしょ?」
見覚えのあるフォルムはコロニーを襲撃したものと酷似していた。
「それが…1,2,3…4体かな?」
目視できるのはそれぐらい。
実際はそれが三組、つまり12体いた。
そして、編隊を組んだMSが突撃をしかける。
「味方機、避難してください!主砲を発射します!」
そして、左右の主砲からメガ粒子砲が発射された。
ひし形に組まれた三組の編隊の内、両端が光の束に吸い込まれ、消えていく。
「敵機、半数の消滅を確認!」
「あと一組だな、了解した!
クレア、聞こえるか!」
「あ、ハイ。なんとか」
コロニーの時とは違い、途切れ途切れになっている。
これがミノフスキー粒子か、とクレアは思った。
「いくら主力が壊滅したといっても、このままだと多勢に不勢だ。
二対一でケリをつける!まず、ワタシが前を受ける!
クレアは死角をつけ!」
「ハイ!」
ただ、このままではディライアが四対一になる。
この賭けに失敗すれば最悪の事態になるのは容易に想像できる。

「さぁ…来い!機械の人形に墜とされるワタシでは無いぞ!」
編隊の両端からビームライフルが発射され、先頭の機体が切りかかってくる。
ライフルの交差点、そこにいるはずのディライアはもういない。
先頭の機体とディライアのジェガンが激しく交錯する。
その間も敵の援護が続く。
クレアは、全速力でバーニアをふかし進む。
そして目的地にたどり着いた。
「ディライアさん!準備OKです!」
「クレア!ワタシの正面の敵を狙え!」
「了解!」
ディライアに猛然と襲いかかるMS。
が、突如バランスを崩す。
その先にクレアのガンダムがいた。
「よくやった!一気にケリをつける!」
一太刀。そしてMSの動きが止まり、爆発した。
返す刀でもう一機を狙う。
切りつけられ、さらにそこにクレアが放ったビームが当たる。
もはやMSはただの機械の固まりになっていた。
「あと……!?」
ディライアの動きが止まる。
「ディライアさん!?」
クレアが叫ぶ。
「クレア、オマエは敵を狙え!」
それだけ言って通信を切る。
「クッ、バランサーがやられたか…」
そう、後ろには編隊の最高尾の機体が回り込んでいたのだった。
今や、前と後ろで挟みうちになっていた。
動けなくなったディライアは覚悟を決める。
「戦場で死ぬ、か…
ワタシにはふさわしいかもな…」
敵が動けない獲物に照準を合わせる。
そして、引き金は引かれた。

お手上げになっていたジェガンの腕が突如としてつかまれる。
「まだ…まだ死なせませんよー!」
クレアの泣き声が聞こえる。
機体は猛スピードで加速し、間一髪で避けられた。
放たれたビーム同士がぶつかり、相殺される。

「ディライアーッ!」
そこに、ニキの悲痛な叫びと、アーガマが放ったメガ粒子砲が同時に突っ込んでくる。
それが通り過ぎ去った跡には、残り一体となった敵がいた。
ディライアとクレアは、アステロイドに身を隠す。
「ディライアさん!腕、使えますか!?」
クレアが叫ぶ。
「ああ…何とかな。だが…」
ディライアのビームライフルは、先程の被弾の時に落としてしまっていた。
ブースターは動かない。
「コレ、使わせてもらう!」
クレアのガンダムのライフルを指差す。
「無理ですよ!出力が足りません!」
「無理も何も、やらなきゃ意味がない!」

今、敵はアーガマに狙いを絞っていた。
「艦長!これ以上スピードを上げると二人を見失います!」
「左舷被弾!主砲50%出力低減!」
「負傷した船員の治療を!」
「了解!」

「クレア、まずはワタシを支えてくれ。
ワタシが撃ったら突撃だ。わかったな?」
「ハイ…」
照準を合わせ始める。
「落ち着け…ここで外しては元も子も無いぞ…」
そして、敵に向かって照準が合う。
ビームライフルの発射口から、光の線が飛び出ていった。
「クレア、行け!」
「…ハイ!」
まずビームライフルが頭に当たった。
敵の体がその方向に振り返る。
と同時に、ガンダムのビームサーベルが貫き、動きを止めた。

クレアは敵の破壊を確認すると、急いでアーガマに通信を入れる。
「ニキ艦長!ディライアさんがアステロイドベルトに取り残されています!」
「わかった、今救出に行く!」

その後、ディライアのジェガンが発見された。
目の光は失い、機体はアステロイドとの衝突でボロボロになっていた。
幸い、コクピットは無事だった。が、ケガが酷く、当分は戦えない様子だった。
「ニキ、すまなかったな」
体中を包帯に巻かれ、本当に申し訳無さそうに答える。
「良かった…生きてて…」

「これから、どうするの?」
クレアがケイに尋ねる。
「それなら、ノーランさんが呼んでくれるらしいよ」
「ノーランさんって、あのガンダム持ってきた人?」
「うん」
「そっか…誰なんだろ?」
それはまた、次の話で。