【勘違いブラザース】359氏



「…もしもし、ノーラン?」
『…あ、フレイ?おはよ〜』
「ノーランがルナ2まで乗って来たのあるでしょ?」
『あー、ゴルビー?』
「そう。あれを持ってきて欲しいの」
『あれ、ルナ2で待ってちゃダメ?』
「ええ。真っ直ぐ帰るのはちょっと」
『わかった。で、ドコで?』
「今言うわね……ココでいい?」
『フォン・ブラウンの近くね〜。わかった〜』
「悪いけど、急いで!」
『は〜い。でも何で?』
「MSを運びたいのだけど…ちょっと場所が悪くてね」
『ああ、そう?』
「それと…護衛とか操縦とかに私の部下を使っても良いから」
『マジで!?感謝するよ〜』

「…よし、これでいいわね。クレア、ルナ行きましょう」
「コレ、乗ってった方が早いですかねぇ…」
「…そう、だな…」
「クレア、乗れる?」
「う〜ん…やれるだけやってみます…」
「ありがとう。ルナはエレカに乗って!」

ノーランの元へと急ぐクレアたち。しかし、逃げるのにはあまりにも大きすぎるのであった。
もちろん、彼女達の姿はすぐに目撃される。そう、あの工場によって。では、ここから誰の元へ?

戦艦、バーミンガム。ここにその答えがある。
「し、少佐!」
「一体なんだい?こっちは忙しいんだ!」
そのセリフとは裏腹に、右手にティーカップを持った男が
せっかくの時間をジャマされたとばかりに、あまりにも不機嫌に眺めていた。
「ですがニール少佐!"ポイント"に未確認のMSを発見したとの報告が!」
男の動きが止まる。よく見るとカップから紅茶がこぼれていた。
「な…バカな!?あそこを知っているのは我々だけだぞ!」
「ですが…間違いありません!30mを超えるMSとの報告が!」
「オイ…」
男の声は震えていた。
「『あそこなら、廃墟だが直せばすぐ使えるし、誰も知らない』って言ったのは…オマエだよな…?」
「ですが…今回のはまったくの以外な出来事でして…」
「ウルサイ!よくもオレを騙したな!」
「騙すだなんてそんな!」
「あそこでのモビル・ドールの生産がバレたら…今までの地位が!名誉が!栄光が!全てが失われるのだぞ!」
「も、申し訳ございません!」
「問答無用!そのMSはどこへ行った!?」
「進路からしますと…おそらくフォン・ブラウンかと…」
「そうか…出せるだけのモビル・ドールをフォン・ブラウンに向けろ!」
「そんなことをしたら…」
「街を壊しても構わん!その後にオレが復興すればいいだけだ!」
「……」
とにかく、早口でまくしたてるこの男に、部下は黙っているほかなかった。
「そうだ…オマエ、暑いところは好きか?」
「な、何の話でしょう?」
「いや、オマエをオーストラリアの砂漠地帯に移すことにした」
「そんな…いつですか!?」
「 今 だ ! わかったらさっさと出て行け!嫌なら…オレが今までやってきたこと、わかるだろう?」
ギロリ、と目を向ける。
「ハ、ハイ!」

いまだ逃走を続ける三人。このままではMSに追いつかれるのも時間の問題だった。
「ごめん、フレイさん!もっとスピード上げられる?」
クレアが焦る。レーダーに反応があったからだ。場所はさっきの方向。つまり、敵が追ってきたことを意味していた。
「クレア!エレカじゃこれが限界よ!」
「敵が来てるんですよ!」
「大丈夫!ノーランならすぐ来てくれるから!」
そうしているうちにも、レーダーの反応は徐々に近づいている。
「マ、マ、マズイって!このままじゃ追いつかれちゃう!」
「クレア!」
ルナがなだめるように言う。
「…とりあえず、ロックオン出来たらそこにあるトリガーを引け!」
「そう言っても、相手は後ろから来てるんですよ!」
「大丈夫だ!…サイコを信じろ!」
「信じろったって…」
そして、敵の影がレーダー上で大きくなる。
「ロックオンできてる!?」
クレアは言われるがままにトリガーを引く。すると、サイコの足からなにかが発射される。
「え…何コレ…?」
有線のソレは的確に、追っ手の動力部を打ち抜いた。その後、後方で爆発音が聞こえる。
「ルナさん!何ですか今の!?」
「インコムだ!クレア…聞いたことぐらいはあるだろ?」
「インコム…?あのサイコミュ兵器!」
「…クレア、使いすぎるなよ!」
「わかってます!」
続いてもう一発。先程とは逆の足からインコムが放たれ、敵に向かって撃っていく。さながら、獲物を狙う蛇のようであった。
「…見えた!クレア、ノーランよ!」
「こっちも何とかなりそうです!」
そして、エレカとサイコガンダムはゴルビーに収容されたのであった。

「ねえフレイ、なんでこんなところに呼んだの?」
「これを見てください」
「あ、これはちょっとヤバイかも…」
会話を交わす二人。どうやらこれからの予定で悩んでいるようであった。
クレアは、ゴルビーの周りをうろつく。幸い、インコムを使ったことによる影響は無いようだった。
(ワタシが、あんなものを使えるなんて…)
まだ、心では納得していないようであった。
(でも、やらなきゃね、みんなのために…)
そこに、二人の男が近寄ってくる。
「ヨッ、お嬢さん。こんなところでどうしたんだい?」
「ココにはまた戦いが起こるらしい。危ないよ」
「だから…オレ達と一緒に…」
「あの…そういうの結構です…」
男が言い切る前に、クレアは断りを入れる。
「連れないねえ…オレたちは君に教えているんだぜ」
「そっ、なんならオレたちの船に来るといいよ。ほら、あそこの」
クレアは無言で立ち去ろうとする。
「あっ、待ってよ。そんな怒らなくたっていいじゃない」
「ワタシ…ワタシはその船のパイロットです!ふざけないでください!」
珍しく、クレアが怒っていた。それぐらい、彼らの態度はナンパそのものであったし、クレアはそういったものに嫌悪さえあった。
「…と、いうことはキミがクレア・ヒースローだね?」
一人の様子が変わる。
「なら、ますますキミは乗ってはいけないな」
「な、なんでですか!?」
「それは…」
二人の息が合う。
「キミが、カワイイから!」
その刹那、クレアの右が一人の頬に突き刺さっていた。

「クレアさん、そこで何しているの?…ってコラ、あなたたち!」
「ヤ、ヤバ!」
男の一人は、ぶっ倒れたもう一人を引きずり、そして
「じゃ、ヨロシクね、クレアさん!」
そういって脱兎の如く逃げ出した。案外男を引きずって逃げる速さではない。
「ったく、あの馬鹿二人は…」
フレイが珍しくため息をつく。
「誰なんですか、あの人たち!ちょっと強引過ぎますよ!」
「許してね、クレア。ああ見えて腕は確かよ」
「そういえば、ラビニアさんの部下は皆困り者だって聞きましたが…」
「分かってくれる?彼らの実力は本物なの。でもね、ちょっと人より目立ちたがりで、女たらしなのがね…」
「何かやらかしたんですか?」
「彼ら、地球に居た時ね。なんでも敵一個師団を二人で戦って、数多く撃破したほうが女を抱けるとか、なんとか…」
「…で、それはどうなったんですか?」
「全滅とまではいかなくても、主力が壊滅したようよ。しかし、身勝手な出撃と、賭け事がばれて除隊。そこをラビニアが拾ったのだけど…」
「やっぱり許せませんね」
クレアの怒気は収まらないようだった。
「ごめんね、クレア」
「というか、あの人たちは誰なんですか?」
「バンダナを巻いてた方がトニー・ジーン伍長。切れ目のほうがサエン・コジマ伍長よ」
「ふーん…」
「それよりも、敵が来るようだけど…大丈夫?アレに乗った影響って無い?」
「エエ、それは大丈夫です。そういえばルナさんは?」
「今はノーランの元にいるわ。ノーランは目の治療を勧めているようだけど…」
「…直るんですか?」
「『元々見えていたのだから、ショック性なものだろう』って彼女は言うんだけど」
「そうだと良いんですけどね」
「もしそうだとしても、直す直さないは彼女次第だし、ワタシたちが言っても無駄なのかもね…」
「そういえば…」
「なに?」
「ルナさんと会ったときの感覚…どこかこう、暖かくて少し不思議で…言葉にはしづらいんですけど」
「分かるわ、その気持ち。みんな彼女と会ったときはそう言うの。ワタシもそうだったわ」
「でも、少し寂しい」
「寂しい?」
「なんかこう…どうしても一人になってしまう感じ」
「…なら、ルナを一人にしないであげて。アナタならできるはずよ」
「そうですか?」
「きっと…ね?さあ、もうすぐ来るわよ。準備して」
「ハイ」

出撃の準備を済ませ、部屋を出るクレア。そんな彼女の前に、再びあの男達が立っていた。
「…なんでココにいるんですか?」
クレアの声が低く響く。
「イヤー、まだ謝ってなかったじゃん?コイツも悪いと思ってるし。ホラ、サエン。謝るんだろ?」
「…先程は驚かせてゴメンネ!」
「……」
グッっと拳を握るクレア。その様子を察知したトニーはすぐ次の行動に移った。
「ホラ、今度の出撃の相手だけど、俺らはあまり詳しくは知らないんだ。だから、キミに会って話を…」
「本当にそうなんですか?」
疑いの眼でトニーを見るクレア。
「ホ、ホントホント!なあサエン?」
「ああ、そしてクレアちゃんと…」
次の瞬間、再びクレアの右が飛んでいた。
「もういいです!」
「ちょっと待ってよー!」
「なんですか、もう!アナタたちはワタシのことばっか気にしてないで、ちょっとは考えたらどうなんですか!」
「だからね…その…サエンもああ見えて気遣ってやってんだよ」
「またそんなこと言って!」
「これは本当のこと。一般人が闘ってるって聞いて、アイツかなり気にしてたんだぜ?」
「…何をですか?」
「キミのこと。少しは楽になってもらおうと、アイツなりに努力してんだよ?」
「そう…ですか?」
「そう。だから言うけど、今度の戦いは後ろで見てて欲しいんだ」
「ワタシが?」
「うん。少しは"軍人"がカッコイイとこ見せなきゃね!」
「…ゴメンナサイ。アナタたちのこと、単なる女たらしかと…」
「ウーン、当たらずとも遠からず、かな?」
トニーが苦笑する。
「さて…と。サエン起きろ。準備しに行くぞ!」
「アア、んじゃ、クレアちゃんじゃあね!」
シュタッと手を上げてさわやかに去っていく。
「本当、あんなところがなければいいんだけどな…」

「クレアちゃん?」
「…何ですか?あまり気が散るようなことはして欲しくないんですけど?」
「冷たいなあ。ホラ、相手の…MDだっけ?」
「言っておきますけど、生半可な気持ちじゃやられますからね」
「大丈夫だって!」
その自信はどこから来るのだろうか?そんなことを考えながらクレアは前の二人を見ていた。
「やっほ、クレアちゃん♪」
そして、この男である。何度も何度もやられても立ち向かってくるその気持ちだけは買う所もあるのだが…
「なあクレアちゃん、この戦い、一番落とした方がクレアちゃんと一日デートってどう?」
「あ、それ賛成!」
「…ワタシの気持ちは無視なんですか?」
「ハハ、冗談だよ、冗談!」
だが、冗談に聞こえない。サエンの態度がそう見えさせているのだろうか?
「ほら、来てますよ」
ぶっきらぼうに返すクレア。
「お、どれどれ…ノーランさん、相手はどれぐらい?」
「1ダース、ってところだね。言っておくけど、クレアばっか構ってるんじゃないよ!
そんなに女の子とイチャつきたいのなら、アタシでよければ…ね?」
「カーッ!やっぱ姐さんはわかってくれる!」
「誰が姐さんだ、コラ」
ノーランが苦笑いをする。
「ちょっとノーラン!そんな約束して大丈夫?」
「心配しなくていいよ、フレイ。何故なら…」
「何故なら?」
そして、クレアに話しかける。
「わかった?一番多くぶっ倒してきてね!…アタシのためにもね?」
「うぅ〜、ヒドいですよ〜」
「大丈夫、大丈夫。それなら出来るよ…ね、ルナ?」
ノーランの後ろでルナが頷く。
「さ、いってらっしゃい。負けたら承知しないからね!」

女を賭けた争いはそれはそれは熱くなるものである。もちろん、この月面の二人もそれはそれは燃えていた。
「カモ発見!いただきィ!」
トニーのバウが放ったビームライフルが、寸分の狂いもなく敵に向かっていく。
「ヘヘッ!どうだいオレの腕は!」
しっかりと命中させ、撃墜。口だけではないようだった。
一方のサエンのGDストライカーも、確実に敵を落としていく。
敵のMDが撃つマシンガンも、紙一重でかわしていく。
「チャンス到来!華麗にキメるぜっ!」
叫ぶや否や、高速で相手の懐にもぐりこみ、サーベルで切りつける。
「…クレアちゃん!見てくれたかい!?」
そのクレアは、慣れぬ機体に戸惑っていた。
「あーもう!どれで攻撃できるの!?」
あっちへヨタヨタ、こっちへヨタヨタ。目も当てられないほどの有様だった。
「なんでさっきは動けたのよー!どうなってるのー!?」
その光景に、ゴルビーの面々は呆れていた。
「…ありゃなんだい?何かの余興?」
「いや、違うでしょ。」
ノーランの一言に、すぐさまツッコンでいくフレイ。とりあえずルナに話を振る。
「ルナ、どうしてか分かる?」
「…考えられることは…焦っているだけ」
「それだけ?」
「…とりあえず、"平常心を保て"とだけ言っておけ」
「りょーかい」
軽い気持ちで回線を開くノーラン。
「おーい、クレア?」
「あわわ…マズイってこれ!?」
すっかり敵の的にされ、完全にパニクッている。
「ハッパかけたの、失敗かな?」
「…おそらく」
「クレアー。戻ってきていいわよー」
「うぅゴメンナサーイ…」
「大丈夫よ、アイツら、案外がんばってくれてるし」
「でも…ノーランさんは?」
「別にー。一緒になるぐらいじゃどうにもならないでしょー?」
「強いわね、ノーランは」
フレイが二人のやり取りを聞いて思わず頷く。
「とりあえず戻ってきて。落ち着いてからまた行こう。ね?」
「…ハーイ」
「クレア。アタシ、変なプレッシャー与えちゃった?」
「そ、そんなコトないですよぅ!そんなことはずぅえっっったーいにありません!!」
「ありゃ、相当感じてるね」
ノーランがため息混じりにつぶやいた。

「トニー、そっちはどうだ?」
サエンからの通信に舌打ちする。モニターに映るサエンの顔はとても自身に満ちていた。
「ったく。ホント、女が関わると人が変わるんだな」
トニーがつぶやく。というのも、二人の差が段々と開いていったのがわかっていたからであった。
「……こっちは3。そっちは?」
フフンと鼻で笑うのが聞こえ、余裕に満ちた表情のサエンが見えた。
「5だ!もう決まったようなものかな?」
「バカ!まだ勝負は終わってねえ!」
トニーの苛立ちが増していく。その一方で、アイツには敵わないだろうという気持ちもある。
(仕方ないか……アイツは、アイツだ…だけど!)
「じゃ、トニー。オレはノーランさんと楽しんでくるよ!」
そう言って、ビームライフルを放つサエン。だがそれが獲物に届く前に、標的が消えていた。
そこには、トニーの姿があった。
「オイオイ、横取りはよくないんじゃないかい?」
あくまでも余裕の態度を取るサエン。しかし、この態度がトニーの感情をさらに煽る。
「……まだ勝負は終わってないって言っただろ!」
はっきり言って、今のトニーにとって、勝負に勝った後のことなんか考えていなかった。とにかく、サエンに勝ちたい。
元々、サエンとは同じ隊に配属された仲間。それ以上でもそれ以下でもなかった。
女性の好みや、お互いの考え。そんなことに惹かれ合っていつの間にかコンビを組み、エースとして活躍していた。
でも、トニーの心の中、そこには常にサエンへの言葉に出来ない気持ちが入り組んでいた。
嫉妬、憧れ、目標、パートナー……とにかく、いろんな言葉が浮かんでは消えていく。
続けざまにトニーはもう一機を撃破していた。無意識の内に。
「ハァ、ハァ……これで並んだろ?」
「アア。トニー、やっぱオマエはそうでなくっちゃな!」
この余裕。いつごろだろうか?トニーはこのサエンの自信と余裕に内心、腹を立てるようになったのは。
気に入らないわけではない。自分がこんなにも必死で戦っているのに、アイツはさらにその上から見ているような感覚。
この差をどうにかして縮めたい。その気持ちが今、二人だけの勝負として爆発しているのだろう。
(勝てば、アイツと同じところへ行ける…)
だが、その焦りが思わぬ事態を生む。
敵は残り二機。とにかく一体。それを倒せば少なくとも引き分けに持ち込む。サエンに追いつくことが出来る。そのために、トニーは敵へと向かって直進する。
もうひとつ理由として、サエンが一足早く敵に向かって特攻したのを見て、居てもたっても居られなくなったのもあるのだが。
トニーのこの気持ちに同情できないわけではないが、今の彼はあまりにも注意力が欠けていた。
その、眼前の敵が今までとは多少違うこと。特に、重火器を持っていることに気づくのが、一瞬、遅れた。
その瞬間、二機のMDが全発射口を開ける。
「しまった……」
サエンと共に二人で突っ込んだ結果、彼らはMDの格好の餌食となっていた。
AIの考えは全段発射。ガトリング、ミサイル…とにかく手持ちの武器を全てぶっ放していった。
駆動部に当たればまず動きが止まる。いや、この火力なら一撃でやれる。それを見越しての一か八かのバクチに打ってでたようだった。
もちろん、彼のバウにはシールドがついていたが、それもこの火力を相手では防ぎきれない。
変形して、回避する?それをやるには時間が足りなさ過ぎた。
彼が打った手は、ギリギリまで避けつつ、当たりそうな弾をシールドで防ぐ。これが現状で防ぎきれる最低限の手段だと考えた。
まず、限界までブーストをふかし、避ける。月とは言え、多少のGが彼の体を襲う。
「クッ…!」
ガトリングはシールドの使用も交え、なんとかかわすことができたが、ミサイルが追尾してくる。
「クソ!」
避けるために方向を変えると、ガトリングガンで蜂の巣。かといって、ミサイルをシールドで受けきるには限界があった。
さきほどの回避のときに想像以上にシールドに弾を貰いすぎたのかもしれない。
「アイツは!?サエンはどうなっている!?」
ミサイルに気をつけつつ、レーダーの位置からサエンを探す。そして、彼は目の当たりにする。
「ウソだろ…!」
そこには、ミサイルを切り払いつつ、弾丸の雨の中、確実に敵に近づいてくサエンの姿が一瞬見えた。
「オカシイだろ、オイ!」
憤慨しつつも、避けるのはこれ以上無理と判断したトニーはシールドを構え守りに入る。
残ったミサイルはレーダーで確認できて4発。シールドはもってあと二発という感じだった。
「当たり所さえよければ…」
一発、二発。予想通りそこでシールドが壊れた。三発。その弾がストレートにモノアイに突き刺さる。
頭部が吹っ飛び、コクピットに衝撃が走る。
幸い、四発目はその頭部が"あった"ところめがけてだったので、通過していったが、メインカメラをやられ、トニーは身動きが取れない状況になっていた。
「チクショウ!あと少しだってのに!」
痛む体で叫ぶトニー。
それからしばらくして、サエンから通信が入る。といっても、音声しか聞こえないのだが。
「…トニー、終わったよ。」
「オマエの勝ちだよ、サエン。あの動きを見てたら、勝てる気も失くすよ。」
苦笑するトニー。
「で、どうすんだい?ノーランの姉御なんて、かなりの上玉じゃないか?」
「ハハッ、どうしようかな?」
「トボけるんじゃないよ」
「とりあえず…まだ考えてないや。ま、帰還しときますか!」
「ああ。」
悔しい。けど、悔いはない。彼の胸に清々しい気持ちさえした。
「あ、トニー?」
通信を切ったはずのサエンが再び話しかけてくる。
「やっぱ、オマエは最高のパートナーだよ」
「……それだけかよ……」
言葉とは逆に、彼は笑っていた。

「で、これからどうするんです?」
アーガマに帰り、ニキとラビニアに今日の事を話すフレイ。
「確かにそこに街があり、私達を襲ったMSがあった、と?」
「ええ」
「ラビニア、攻撃を仕掛けますか?」
「……」
無言を貫いていた彼女の口が開く。
「んー…とりあえず、ルナを呼んで」

そして、フレイがルナを連れてくる。
その姿を見て、抱擁を交わすルナとラビニア。
「……お帰り」
「…ルナ・シーン、ただ今帰還した…」
「ねえ、ルナ。あなた、なんであそこを知っていたの?」
「…話せば、長くなるが…」
「いいわよ、話してくれて…」

「まず、私があの街にいたのは…」
それから、彼女は話した。それによると、
ボロボロの体と脱出ポッド(つまり、サイコガンダムの頭)で宇宙を彷徨い、死を覚悟していたとき、連邦の兵士に回収されたこと。
その時、自分の眼が見えなくなり始めていたこと。
その兵士に、あの街に連れて行かれたこと。
そこで、あの工場に関する全ての計画に携わっていたこと…

「じゃあ、アイツらはみんな…!」
「…いや、あのMSには元々別の理由から作られていたものだった。要するに、兵士を人から機械にすることで、人を使わないようにしようとしていた」
「それが、何故ああなったの?」
「…多分、計画を変えた奴がいる」
「ニール・ザム…」
「フレイ知ってるの?」
「いや、でもアイツなら…」
「フレイ、推測なら止めなさい」
「すいません、少佐」

「ややこしくなってきたわねぇ…」
ラビニアが天井を見上げる。
そして、話をまとめる。
「様子を見るしかないでしょう。ニキ達はどうする?」
「……クレアを……彼女達を帰そうかと思います。」