【贋作・罪と罰】 4296氏



「君は私に何を聞きたいのかね…」
ある病室の一室。
体中に点滴用の管が巻かれている。
言葉を発することが出来るのは、奇跡に等しい。
「ゼノン・ティーゲルのこと、貴方が行っていた研究の全て、です」
僕は彼を見る。
ジェフリー・ダイン博士。
生気は失われ、その表情は、遠く、暗い。
「ゼノン、か…」
彼が僕を見る。
「戦争目的のために、強化手術を思案したわけでもない。人類の、可能性を、試したかった…」
僕は黙って、彼の話を聞いていた。
「NT。いい響きだ。人類の進化のステップを飛び越えて、新しい存在になれる。私は、それを、見たかった…」
外で小鳥が鳴いている。
「人工的NT。それが、私の夢だった。それを、あの男は、ものの見事に打ち砕いてくれた…」
ゼノン・ティーゲル…。
「あいつの目的は、自分の娘を救うことだった。私も人類の明日の為ならば、何でもするつもりだった…。私の研究が、人を救えるのならば、これ以上の喜びは、なかった…」
………
「しかし、私の研究は、認められるものではない。精神的に人間を弄るなど、許されることではない」
「そこで、ゼノンは…」
僕は博士の言葉を繋いだ。
「人工的NTを、戦争資源として用いるという大義名分を掲げ、奴は、それを実行に移した」
「娘の為…ですか?」
博士は、薄く、亀裂のような笑いを浮かべて、言った。
「そう、自分の娘を救う為」
「…そのことの為に」

「奴は戦争を起こした」