第1話「ゴッドかデビルか!? 地獄にあらわれた光の戦士」



「よう、おまえもドジ踏んだのか。とりあえず自己紹介といこうぜ。俺はラナロウ、あんたは?」
ラナロウは牢獄の中で石床に横たわっている新入りに声をかけた。
上半身に日除けの外套を身に付け、フードを頭からすっぽりと被っているため、顔はわからない。
だが、その両腕の筋肉が、鍛えられた者であることを証明していた。
先ほどからまったく返事がない。よほど弱っているのか「水・・・水・・・」と呟くだけだった。
大方、井戸の水でも盗もうとしたに違いない。砂漠が覆うようになった地球では、水は貴重だった。
しばらくすると、見張りのレイチェルが水を運んできた。
男はフードを取った。燃えるような赤毛の男だった。額に白いハチマキを着けている。年齢はラナロウよりいくらか上だろうか。
「ありがとう。俺の名はアキラ。君の名は?」
水を一気に飲み干すと、アキラはレイチェルの名を訊ねた。だが、レイチェルは首を横に振るだけである。
「無駄だぜ、そいつはレイチェルっていうんだが、喋れないんだ。野盗に両親を目の前で殺されたショックでな」
「そうか・・・それは悪いことを訊いた。許してくれ」
レイチェルは微笑んだ。

ぷち。何かが、ぶち切れたような音がした。

「ダ――ッ!暗い!暗すぎる!」
ラナロウは突如、怒鳴り声をあげた。
「どうしたんだ、ラナロウ?」
「あからさまに話が暗いんだよ。今回もこんなノリで行くのはゴメンだぜ」
「いいじゃないか、おまえは前回主役扱いだったんだから」
「今回の主役はおまえだろうが。おまえが暗いから、いけないんだよ」
「ちょっと、ふたりとも!喧嘩はやめなさいよ」
レイチェルが突如喋りだした。
「おわっ!おまえが何でいきなり喋るんだよ。設定に矛盾するじゃないか」
「いいの!どうせ今回はスーパー系でいくんだから、神の奇跡ってことにしておいてよ」
「そんな、バカ監督とアホ嫁みたいなご都合主義、スーパー系ですらねぇよ。スーパー系に謝れ!」
「あー、話が進まないからそろそろ止めないか?」
アキラが話を切り上げると、タイミングよく、爆音が聞こえてきた。
「あ!ワタシ行かなくちゃ」
レイチェルが飛び出して行った。
「やれやれだぜ。この村も、もうおしまいだな」
「どういうことだ?」
アキラが訝しげにラナロウを睨んだ。
「あの音は、たぶんブラッドのデスバイク部隊だ。半島全域を支配するキングに従ってる部隊さ。奴らの強さは半端じゃない。水も食料も根こそぎ奪われるだろうな」
「それは本当か?ならば放ってはおけない」
「おいおい、正気か?やめとけって。今は自由の時代なんだよ。おまえの正義を押しつけるんじゃねぇよ。死にそうな奴がいたら見捨てればいいし、弱い奴は奴隷にすればいい。正義なんてこの世には存在しないし、絶対的な悪もこの世には無いんだ。悪人にも悪人の事情がある。やりたいようにやらせてやれよ」
アキラは耳を貸さなかった。石壁に近づき、殴りつける。すると、強固な壁があっさりと崩れ去った。
「おいおい、マジかよ!?」
「ラナロウ・・・」
アキラはラナロウを哀しい眼で見つめた。
「それでも、俺には守りたい正義があるんだ」
アキラは外へ出て行った。
「おい、待てよ!」
ラナロウも外へ出た。
案の定、外ではブラッドのデスバイクが村を蹂躙していた。
「レイチェル!」
レイチェルが地面に倒れていた。あまりの惨殺現場を見せられて気絶したのかもしれない、可哀想に。子供に何の意味もない惨殺場面を見せるなんて、とんでもなく知能の低い連中だ。頭の悪い無能が頼る最終手段はエロとバイオレンス、そのように昔から相場が決まってる。
「こいつら・・・絶対に許さん!でろぉぉぉ――!シャァァァイニング!ガンダァ――ム!!」
アキラが空へ向かって右手を掲げ、指を鳴らすと、砂中から突如、白いMFが出現した。
アキラが乗り込むと、モビル・トレースシステムが作動し、全身が黒いタイツ状のファイティングスーツで包まれた。
「なんだぁ?」
デスバイクのコックピットに座っているモヒカンどもが反応した。全部で数十体。圧倒的な数である。
「今すぐ消えろ。そうすれば見逃してやる」
「へっ、バカが。一人でイキがってんじゃねぇよ。この数を見てから言えや」
モヒカンどもは下卑た笑いを浮かべた。
「もう一度言う。俺はおまえらより強い。死にたくなければ消えろ」
「ふざけんじゃねぇー!」
デスバイクが一斉に突進した。
「ハァァァァ──────!!オアタァッ!アチャァ!ホアタァ!」
先頭の3機が裏拳、正拳、回し蹴りでまとめて吹っ飛ばされた。
「なにィ!?」
「忠告は終わりだ。どうせ結果はわかりきっているから、一応正義の主人公らしく言ってみただけだ。元から貴様らを生きて帰すつもりはない、喰らえ!」
シャイニングガンダムのボディが頭部を残して急速回転し、引き絞られた弓の如くエネルギーを増大させる。
そして限界まで引っ張られた矢が全エネルギーを解放した。
「超級!覇王!電影ダァァァ──ン!」
一筋の閃光となって弾丸が突進し、音速の壁を突破した。地上すれすれの低空を超音速で回転しながら突き進む事により、弾頭のねじれる動きに合わせてソニックブームが生じ、人工発生したハリケーンが周囲一帯のデスバイクをまとめて蹴散らした。
「ばぁ――く発!」
デスバイクが全機爆散した。
「スゲェ・・・」
「本当・・・」
ラナロウは起きあがったレイチェルと共に、その圧倒的なまでの強さに魅入っていた。
「さすがスーパー系。正義のヒーローはこうでなくっちゃね」
「おいおい、せっかくのシリアスな雰囲気をぶち壊すなよ」
「でも、ワタシたち、どう考えても解説役じゃない。そうでなかったら、登場する予定なんか無かったんだから」
「わかってるよ・・・おお!あれが伝説の拳法か。その昔、香港より伝わる最強の武術があったと聞く。その名を流派”東方不敗”。だが、DG細胞の浸食によりその伝承者は絶えてしまった。しかし、流派”東方不敗”には、太古の昔に分派した流派があった。その名を流派”北方不敗”。そ・・・それが今ここに・・・細かい設定の矛盾はどうでもいいや。今回は縛り無しで行くつもりだし」
二人が自らの役目を確認しあっている間に、ブラッドが登場した。
「よくもやってくれたな。だが、俺には勝てないぜ。来い!Zガンダム!」
地面から、Zガンダムが登場し、ブラッドが乗り込んだ。
「ちょっとちょっと、GガンなのにMSはまずいでしょ。大丈夫?」
レイチェルがラナロウに訊いた。
「だから細かいことはいいんだって!MFだろうがMSだろうが、DG細胞で全部復活なんだよ。どうせ時代はつながってるって、ちゃんとヒゲで言ってるし」
そうこうするうちに、アキラが構えた。
「ふん・・・ならば俺の必殺技を喰らうがいい」
「クククク・・・来るか!」
シャイニングガンダムのフェイスマスクがオープンした。
だが、Zガンダムもウェイブライダーに変形した。天高く舞い上がり、シャイニングガンダムへ向けて急降下する。
「行くぞ!俺のこの手が光って唸る!」
シャイニングガンダムの右マニュピレーターが流体金属で覆われた。
「おまえを倒せと輝き叫ぶ!」
ブラッドの叫び声に反応して機体が赤いオーラに包まれる。
「ちょっとちょっと。何でニュータイプでもないのにあれが使えるわけ?」
レイチェルが質問した。
「だからスーパー系なんだって!あれは必殺技扱いになるの!」
「ふーん。納得」
再び場面を戻そう。今まさに2体のMFはぶつからんとしていた。
「シャァァァァァイニング!」
「ウェイブライダァァァー!」
「フィンガァァ─────!!!」
「アタァ──────ック!!!」
オーラとオーラが激突した。だが、ブラッドが徐々に押し切った。シャイニングフィンガーが競り負け、右腕を破壊された。
それを見たラナロウは仰天した。
「シャイニングフィンガーが敗れた!?第1話から初登場の必殺技が負けるなんてありえねー」
「やっぱり、上空から降下してぶつかった方が勝つに決まってるよね」
「スーパー系でそんな物理学持ち出すんじゃねぇ――!」
「だけど、これはGガンダム第37話と同じ展開じゃない?どうせあれをパクったんだろうから、左のシャイニングフィンガーで決まりよ」
だが、世の中甘くはない。左のシャイニングフィンガーを使う間も無く、ブラッド機はそのまま通過して上空に逃げてしまった。普通に考えたらこうなる。
ウェイブライダーは再び急降下してとどめを刺しにきた。
「クククク・・・死ねぇ――い!!」
だが、アキラは何ら動じることはなかった。
「心配はいらない。あいつはすでに死んでいる」
「ククク・・・・・・ブゲェッ!」
Zガンダムは上空であっさりと空中分解した。シャイニングフィンガーに用いられている流体金属の中にはU細胞――アルティメット細胞――が造りだしたアンチDGナノマシンが含まれていたのである。これに浸食されたDG細胞は爆散して死に至る。ちなみに、U細胞に感染しているため、シャイニングガンダムは自己回復と自己再生するので整備が要らない。
「やっぱり、スーパー系はこうでなくっちゃね」
「自称リアルな戦争を描いたガンダムは整備が要らないけどな。リアルな戦争は資金も最強兵器も湧いて出るらしいぞ」
二人はアキラのところへ向かった。
フリーダムが蔓延する世界、それを打破するためにジャスティスが今、ここに立ち上がった。