第10話「デビルの総力戦! 俺のママは100万ボルト!!」



マーク・ギルダーは、玉座にてその報告を訊いていた。アキラがユリウス博士の新兵器部隊を倒し、更に向かわせた他の部隊も次々と撃破していた。
「胸に手形の男は現在、このサザンクロスへ向けて進撃中。デスバード隊、壊し屋軍団、戦車部隊、デスバギー部隊、ことごとく全滅しました」
片膝を突き、淡々と報告するジョーカーの顔からは、何の感情も窺えない。反対に、大将軍ハワードの表情は、明らかに狼狽の色が見られた。
「このままでは、我が戦力は遠からず完全に枯渇します。ここは、この私が自ら、奴を葬りさってご覧にいれましょう」
「それには及ばないぞ、将軍」
ギルダーの顔には、まだまだ余裕があった。
「奴が来るならば、歓迎しようではないか。ジョーカーよ」
「ハッ!」
ジョーカーは、うやうやしく頭を下げた。
「ガルンを呼べ。列車砲を発車させるのだ」
それを訊いて、ハワードが血相を変えた。
「お待ちください! もしもあれまで失うようなことがあれば、我が軍団の戦力は瓦解しますぞ!」
「心配はいらん。俺一人いれば、軍団など、いくらでも建て直せる。ジョーカーよ、任せたぞ」
「承知しました」
上機嫌のキングに比べ、ハワードの表情は、明らかに憤っていた。

サザンクロスの郊外、そこには様々な兵器を集めた武器庫があった。その中のひとつに線路が敷かれた倉庫がある。
何かの機械音が聞こえ、次の瞬間、その倉庫の壁が吹き飛んだ。崩れ去った壁の奥から、巨大な砲を備えた列車が、ゆっくりと這い進んできた。
その巨躯からは、まさに男のロマンを感じさせる。鋼鉄のエレファント(象さん)だった。
「これが、かつて北アフリカを席捲したといわれる伝説の列車砲!」
ジョーカーの顔からは、畏敬の念があふれていた。ジョーカーの隣には、バギーの運転席に乗ったガルン・ルーファスがいた。その顔付きには、自信が満ちていた。
「ぐふふふふ。手形の男は列車砲で、このガルン様が仕留めてやる。この列車砲に弱点はない。ユリウス博士の考案によるDG細胞を用いた改造により、独自の発電機を備え、自動装填装置も付いている。発射速度はかつての比ではない!」
「ユリウスだと?」
その名を聞いた途端、ジョーカーの顔がひきつった。
「その通り、彼は天才だ。さすがにドイツ人だな。科学力は文句なしだ」
まさか、今回もこのパターンか。ジョーカーは、嫌な予感が払拭できなかった。

シャイニングガンダムのコックピットの中で、アキラは疲労していた。ジェスターガンダムを破って以降、連戦が続いていた。いくら鍛えているとはいえ、こうも戦闘の連続では、さすがにきつい。だが、敵は待ってはくれない。
ラナロウとレイチェルを置いてきて正解だった。二人はごねたが、こんな戦いに巻き込むわけにはいかない。アキラはこの戦いが、私怨を晴らす自己満足でしかないことを、よくわかっていた。
遙か前方に街が見えた。地図によれば、あれがサザンクロスのはずだ。
もう少しだ。心なしか、アキラは疲労が吹き飛んだような気がした。
「何だ、あれは?」
砂埃を曳きながら、線路伝いに列車が近づいてきた。よくみれば、大砲らしきものを備えている。
「また、くだらん兵器を持ち出してきやがって」
シャイニングガンダムはファイティングポーズをとった。
列車がストップした。大砲が仰角を上げると、砲口が火を噴いた。
「何ぃ!?」
後方に極大な砂塵が吹き上がり、流砂が襲いかかってきた。急いで横にジャンプして回避する。振り返ると、シャイニングガンダムの後方には、大きなクレーターが出現していた。
「とんでもない威力だ……だが、これだけの大砲、次弾はすぐには撃てまい」
しかし、その予想を覆すように次々と砲弾が襲いかかってきた。シャイニングガンダムは、黄砂に包まれて姿を消した。

「ぐふふふふ。バカめ、この列車砲は無敵だ」
「どうやら、杞憂だったみたいだな」
悪の二人組は、揃って笑みを浮かべていた。
あの天災も、たまにはまともな兵器を造るものだ。ジョーカーは、内心でユリウスに謝った。
「次弾装填装置により、1分間に4発の発射ができる。もはや、この列車砲に死角はない! ぐはははは!」
「それはどうかな?」
突如、アキラの声が聞こえた。
「バカな! 奴が生きているはずがない。どこだ、どこにいる?」
ガルンは左右を見渡したが、それらしき姿は見当たらない。
「ここだ!」
地中からシャイニングガンダムが出現した。いつもやっていることなので、それほど不思議はない。
「くそっ、もう1発だ! すぐに撃てっ!」
ガルンが剥きになって命令するが、モヒカンからは否定の声が返ってきた。
「ダメです! 奴は右方向にいます。旋回しないと照準がつけられません!」
「なら、今すぐ後退しろ!」
「了解しました!」
列車砲はゆっくりと後退した。やがて、円盤状の物体上に敷かれた特殊なレールの上に来ると、そこで停止した。
「右に旋回だ! 急げ!」
「へーい!」
バギーに乗ったモヒカン達が、一斉に降りて、円盤に取りついた。そして、手押しでこれを回し始める。だが、MSなら一瞬でも、人力では遅々として回らない。
「早くしろ! 奴がくるぞ!」
「やっぱり、こうなるのか」
前回の悪夢再び。ジョーカーは、頭を抱えた。
「列車砲には弱点がなくても、インフラに弱点があるとはな。負ける軍隊の黄金パターンじゃないか」
列車砲に発電機を取りつけるなら、回転レールも電気稼働にしろよ。これだからドイツ人は……。正面装備にしか目がいかないバカな連中は、どこかの島国だけでたくさんだ。
そうこうする内に、シャイニングガンダムが接近していた。
「俺の勝ちのようだな!」
勝ち誇ったシャイニングガンダムが蹴りを放つ。
「のわぁ〜〜〜!!」
列車砲はあっさりと横転した。更にビームサーベルで斬りまくる。
「退け! 退けーいッ! 秘密要塞に逃げ込むぞ!」
ガルン部隊はバギーに乗ると、一目散に逃げ出した。
「ふん、逃しはせんぞ」
シャイニングガンダムは、敵を追って一歩を踏み出した。

サザンクロスから程ない距離に、その要塞はあった。戦艦の形状をしたその要塞は、3連装の主砲塔を備え、艦首に大穴が空いていた。
「ぐふふふふ、これが秘密要塞だ。海底深く沈んでいた古い戦艦を、サルベージして修復した」
艦橋内では、ガルンが艦長席に座り、得意満面だった。
だが、ジョーカーは渋い顔をしている。
「念のため、訊いておきたいんだが、これもユリウスが修復したのか?」
「よくわかったな、その通りだ」
やっぱりそうだったか。あちゃ〜、とばかりにジョーカーは片手で顔を覆った。
「元からあった3連装の主砲はそのままに、4サイクルエンジンを搭載し、燃料の心配もいらない。そして何より、最強の秘密兵器がある」
ジョーカーの気持ちなど、つゆ知らず、ガルンは有頂天だった。
「艦長! シャイニングガンダムが近づいてきます」
モヒカンの報告通り、前方に人型の影があった。
「ぐはははは! 撃てーッ!」
46センチ砲が火を噴いた。何発もの砲弾がシャイニングガンダムを包み込む。
だが、直撃でもしなければ、到底撃破は望めない。シャイニングガンダムは、回避を続け、健在だった。
「ぬぅぅぅ〜っ! なかなかしぶといな」
膠着状態を脱するため、ガルンは次の命令を下した。
「やはり、あれを使うしかない。ハイパーメガ粒子砲を用意しろ!」
「しかし、あれは敵が正面にいないと使えません!」
「そうだった! くそ〜、こいつは左右に動かせないからな。さて、どうしたものだか」
その時、ジョーカーがアドバイスした。
「こちらが動けないなら、奴を正面におびき出せば良いんじゃないか?」
「おお、それで行こう! ナイスアイデアだ、ジョーカーよ」
主砲塔がそれぞれ左右に旋回した。シャイニングガンダムの両脇を埋めるように砲弾が発射される。敵が次第に正面に追いつめられてきた。
「ハイパーメガ粒子砲、エネルギー充填!」
「了解! ハイパーメガ粒子砲、エネルギー充填にかかります」

その頃、要塞のエンジンルームでは、モヒカン達が必死にエネルギーの充填作業をしていた。
「まわせ、まわせ〜! 心を込めてまわすのだ〜!!」
鞭を振り回して叫ぶモヒカンの号令で、4人のモヒカンが必死になっていた。
室内の4角にはそれぞれ自転車(ママチャリ)が据え付けられており、全力でそれを漕ぐモヒカン達の努力により、自転車から伸びる電線を伝って電力が供給されていた。
「エイサッ! ホイサッ! エイサッ! ホイサッ! エイサッ! ホイサッ! エイサッ! ホイサッ! エイサッ! ホイサッ!」
これこそ、電気エンジンの権威であるユリウス博士が開発した「4サイクリング・エンジン」だった。石油資源に乏しい世紀末において、これほど画期的な発明があろうか。もしも、世界から軍事力が消えたとしたら、人類の進化は止まることになるだろう。
ちなみに、サザンクロスの電力も、このシステムで運営されている。列車砲のエンジンも「2サイクリング・エンジン」が搭載されていた。
恐るべきは、その電力効率。何が何でも人間○○でないと気が済まない天才、ユリウス博士の執念がもたらした超発明だった。

「何か、背中に寒いものを感じるな」
ジョーカーは身震いした。そうする間にも、モヒカンが報告する。
「ハイパーメガ粒子砲、エネルギー充填120パーセント!」
「ハイパーメガ粒子砲、発射準備完了!」
ガルンはコンソールの上にある、拳銃の形をした発射装置を掴んだ。
「ターゲット・スコープ……オープンッ!」
シャイニングガンダムが、照準の中に入った。
「今だっ! 対ショック、対閃光防御!」
全員が遮光レンズを装着する。
「ハイパーメガ粒子砲、発射10秒前! 9、8、7……3、2、1、0、発射!」
ガルンがトリガーを引いた。
戦艦の艦首にある穴から、ハイパーメガ粒子砲が放たれた。その閃光は一直線に飛んでいき、射線上にあるすべてのものを消滅させる。
「やったか……」
ガルンは、遮光レンズを外し、汗を拭った。
その時、またもやアキラの声が聞こえた。
「残念だったな!」
「バカな! どこだ? 奴はどこにいる?」
「俺はここだ!」
前方の空を見上げると、そこには、シャイニングガンダムが悠然と飛行していた。
「ちぃぃぃッ! 対空射撃用意! タイプ・スリーだ! タイプ・スリーを撃て!」
ガルンの命令に従って、主砲から対空弾が発射される。砲弾が空中で炸裂し、シャイニングガンダムは炎と、細かい鉄球弾に巻き込まれた。
「今度こそ、やったか!」
だが、空を覆う炎霧が晴れると、そこには、不気味に眼を光らせたシャイニングガンダムが鎮座していた。
「ふんッ! 焼夷榴散弾ではなっ!」
アキラの眼には、怒りの炎が宿っていた。
「いつまでも、くだらないデカブツの特攻を美化しやがって!」
かといって、空母で特攻するようなのは、論外である。
シャイニングガンダムの装甲がフルオープンする。怒りのスーパーモードが発動した。
「俺のこの手が光って唸る! 負け犬の目を覚ませと輝き叫ぶ!」
手には光の剣が握られていた。それを振り回し、飛翔する。
「喰らえ! 物量>理論>精神の! シャァァァイニングフィンガァァァソォォ────ド!! 面! 面! メェェ――ン!!」
要塞の上空から、シャイニングガンダムが剣を最上段に構え、急降下する。
「やばいっ! 空からの攻撃には弱いんだ、この要塞は!」
艦橋内では、ガルンが慌てた様子で右往左往していた。
ジョーカーは憤慨していた。
「クソッ! クソッ! クソッ! 何が栄光だ! これは生き残りを賭けたバトルなんだぞ! バカヤローッ!!」
シャイニングガンダムが長剣を振りおろし、艦橋内は瞬時に蒸発した。そのままVの字に斬り上げる。シャイニングガンダムが再び飛翔した。
「成敗ッ!!」
空中でポーズを決めた直後、戦艦が爆散し、炎上した。
「いよいよだ……待っていろよ、ギルダーッ!」
あの日の誓いを胸に秘め、アキラは決戦の街へと向かった。