【1000だったからSSうp】朔氏




 1.月世界

 ――――かつて、宇宙世紀と呼ばれた時代があった。
 ――かつて、一年戦争と呼ばれた戦争があった。
 かつて、ガンダムと呼ばれたMSがあった。
 そして、その名を継いだ最終決戦用MSは逆さまのエースのシンボルマークを与えられ、全ての技術力を継ぎこまれた。 人類の得た力の殆どを失ったのちの最終決戦。そこにおいて、勢力を二分した人類は、その勢力を代表したMSに全てを賭け、戦った。
 逆さまのエース、ターンエックス。もう一つの逆さま、ターンエックス。
 その世界において、密かに進行したもう一つのプロジェクト。
「――ふぅ」
 さらに続く膨大な資料を前にして、ディアナ・ソレル、あるいはキエル・ハイムは一つ息をついた。
 誰にも語られることなき女王の交代から半世紀。かつてのディアナのように減刻睡眠を取りながら、月を治めてきた彼女は今なお、若々しい。実際の国政が民主制に切り替わり、殆ど象徴としての役割となった彼女の仕事は二つしかない。一つは民の信頼を得ること。そして、もう一つは黒歴史の管理である。代々、ソレル家が引き継いできたそれは、女王となったキエルに回ってきたのだ。そして、マウンテンサイクルより新しく出土する中に、この資料があったわけだ。
 その資料には、ターンシリーズの、そしてその時代そのものが記されていた。


 種として消耗しきった人類がそれぞれの思いを2つのMSに託し、その∀とXが戦うことによって、未来を選択した人類。勝利した∀が地球文明を破壊しつくし、地球を復活させるべく、地球圏を離れた∀の勢力。そしてその勢力の名残として、兵器として唯一残された∀ガンダム。ソレル家とは、その∀の勢力の管理者として地球圏に残ったニュータイプにして、唯一の末裔。ゆえに月の民というX側の勢力の末裔を統治し続けた。
 これがUC時代からの最後の歴史。ここまでは黒歴史として、これまででも分かっていた。ディアナ・ソレルも知っていたはずだ。しかし、ここにきて新たに分かったことがあるのだ。それが、∀とXに続く第三のプロジェクト。紐解く歴史は、既に常識を逸しすぎている、そのせいか、このデータを見たときの驚きは、単純にめまいがした程度だった。
『G―GENERATION』
 時空を超え、歴史に介入する事で、そもそもの人類の疲弊を無かった事にする。
 それが、プロジェクト-G-ジェネレーション。
 すなわち、時間移動。
 人類というものは、思い描いた技術の全てを実現できるというのだろうか。人の確信というのは革新へと繋がるのだろうか。しかし、かの人類はこれに成功したのだろうか。はたまた、歴史介入の結果、別の分岐宇宙が発生したのだろうか。あるいは、試みそのものが失敗し、彼らは消滅したのだろうか。いくら調べたところで、それらの結末は分かりえることはなかった。
 かつての人類は、何処までの技術力を持っていたのだろう。そして、宇宙のどこか、外宇宙に出たニュータイプと呼ばれた人類は、今は何処にいて何処へ向かっているのだろう。キエルはその思いをはるか彼方に夢想する。それくらいしか出来はしなかったのだ。遠い果て、宙を見上げたその向こうに、今も彼らは何処かにいるのだろうか。