【共に鼓動を聞く者たち】 343氏



ブリッジの隊員の疲れもピークに達していた。
ブランド、ウッヒが休憩に入る。
ハワードは疲労の色が濃い副官に声をかける。
「エリン大尉、君も休んだらどうかね?」
アヤカも同調する。
「今のうちに休んでおかないと…。」
ミリアムはそれでも微笑んで返す。
「いえ、私は大丈夫です。」
ハワードはため息をつき、言い直す。
「やれやれ。では、こうするか。ミリアム・エリン大尉、艦長命令だ。休息を取れ。」
ミリアムの笑いが苦笑に変る。
「…すいません。では。」
「ごゆっくり、どうぞ。」
アヤカの声を背中に受けながら、通路を進む。
「…イタタ、医務室よって行こうかしら。」
先ほどの衝撃で腰を打ったようだ。
痛む部位を抑えながら、ミリアムは愚痴る。
「やだなぁ、おばさんみたい。」
医務室の前に着くとスタンと鉢合わせる。
「おや?大尉、どこか具合でも…。」
「いえ、先ほどの衝撃で…、たいしたことないんですけど。湿布だけでもと思いまして。」
「腰ですか、おばあさんみた…、失礼しました。」
ミリアムの睨みにスタンが慌てて謝る。
医務室に入ると、まだ若い軍医がそこにいる。
「おおっと、お二人さんどうした!?」
熱血漢の医者であるアキラ・ホンゴウはすぐに駆け寄る。
「…いえ、その先ほどの衝撃で、たいしたことはないんですが。」
ミリアムが腰のことを説明すると、すぐに湿布を取ってくる。
「この湿布を腰にはって、後は根性で直してくれ!」
「…あ、ありがとうございます。」
思わず、少し退いてしまうミリアム。
「貼りにくいでしょう?俺が貼ってあげましょうか?」
スタンの声にミリアムは睨む。
「いいです、自分で出来ますから。」
スタンはあからさまに残念そうに話す。
「ああ、乙女の柔肌を見るチャンスが…」
それを聞きアキラが豪快に笑う。
「…これだから、男の人って言うのは!」
ミリアムの顔が紅潮する。
スタンは真顔に戻り、アキラに軟膏を頼む。
「中尉、またか。いいかげん、その義足はやめたほうがいいんじゃないの?」
アキラが軟膏を取りにいく。
「いや、調子いいときはそんなことないんだがな。ちょっと調子悪くなるとな〜。」
スタンはてきぱきと左足の義足をはずす。
ミリアムが少し驚く。
少しすりむけているスタンの足。
ミリアムもスタンの左足のことは知っていたが、実際にその古傷を見て心が痛んだ。
スタンはそれを察したのか、ミリアムに言う。
「これが俺の勲章なんでね。へへ。」
アキラが呆れたように言う。
「勲章なのはかまわないが、その義足は止めた方がいいぞ。よく調子が悪くなってるじゃないか。」
「お気に入りなんでね、根性で使ってる。」
「あちゃ〜、一本取られた!」
アキラは根性という言葉が好きらしい。
「…まあ、月に行ったら直してもらおう。」
スタンの言葉を聞いて、不思議な顔をするミリアム。
「中尉はメカニックでしょう?自分で直せるのでは?」
スタンは苦笑いする。
「それが…、これは特注品でしてね。回路もめちゃくちゃで、作った本人しか直せないんじゃないですかね。シェルドにも無理っすね、きっと。」
スタンが軟膏を塗り、義足をはめる。
「本人?メーカーじゃなくて?」
二人は医務室を出る。
「いや、まあ、そうっすね。一応、オーダーメイドってことにしときますぜ。」
スタンが笑う。
「それじゃ、腰をお大事に。」
メカニックルームに向かうスタンの背中を不思議そうな顔でミリアムは見送った。