【共に鼓動を聞く者たち】 343氏



ルナ2に向かうサラミスに通信が入る。
「……フレイ、読んでくれるかい?」
艦長席のソニアがだるそうに言う。
フレイは伝令を読み上げる。
「…ジャブローからですね。『キカン ルナツー ヘ ムカワレタシ コンペイトウ ヨリ ベツカンタイ ガ ツイゲキセリ』私たちはお役ゴメンですね?」
「…言われなくても向かってるんだけどねぇ」
ソニアがあくびをする。
「コンペイトウにはサラミスでなくマゼラン級を行かせるように伝えたいところだが。」
「手遅れでしょうね。」
フレイの返事にソニアが微笑む。
彼らには誇りがあった。
ソニア率いる任務部隊は、地球のブラン・ブルタークや宇宙のライラ・ミラ・ライラなどの部隊と同等、もしくは上だと自負していた。
そんな自分たちでも、あのアルビオンを取り逃がす羽目になったのだ。
「……連邦がジャブローを捨てる前に戻りたいところですね。」
「それは無理だろうね。」
フレイとソニアが苦笑する。
彼らはジャブローから直接打ち上げられた。
アルビオンの追跡のために。
今はルナ2に向かっていても、
すぐにまた、出番がまわってくるだろう。

「月まであと少しですね。」
ミリアムの声が警戒の色に染まっている。
もうすぐ、中立宙域である。
その前に連邦、またはティターンズが仕掛けてきてもおかしくない。
「アーガマも月に来るんだったな。」
ハワードの言葉にうなづくミリアム。
「アナハイムの援助が受けられるはずです。私たちにもリック・ディアスが。」
「そして、パイロットの補充か。」
二人の会話を聞いていたアヤカとブランドはささやき合う。
「私好みのイイオトコが入るといいわねぇ。」
「そうですね〜、カッコいい人だといいなぁ〜。」
「月のアンマンって言ったらなかなかの大都市じゃない。」
「買い物しましょうよ!」
ウッヒは呑気な会話を呆れて聞いている。
「よく能天気でいられるなぁ…。」

格納庫ではMS隊がスタンバイをしていた。
四名のMS乗りはパイロットスーツに着替えている。
「来るような気がする。」
ルロイの言葉にうなづくジュナス。
「今度は殺るぜ!」
ドクがにやりと笑う。
クレアは心配そうな顔でジュナスを見る。
ジュナスはドクから顔をそむけている。
それに満足しているドクはニタニタと笑っている。
やれやれとため息をつくクレアの肩を叩くスタン。
「オマエさんも、色々と大変そうだな。」
「にゃはは、そ〜ゆ〜キャラじゃないんですけどね〜。」
と、アヤカの通信が入る。
「連邦のサラミス級三隻確認!敵艦はMSを展開している模様!ハイザック9機です!」
「お前らの出番みたいだな。」
各々が機体に向かう。
が、クレアのアレックスにはすでに先客がいた。
「ちょ、シェルド!何してるの?」
驚くクレアにシェルドは黙ってシートベルトを締める。
そしてハッチを閉めた。
「ええ!?な、ちょっと〜!!」
「僕が行く」
シェルドの短く、簡潔な答えが聞こえた。
射出口に向かうアレックス。
「シェルド伍長、アレックスの出撃を許可できません!」
アヤカの声がコクピットに響く。
「…ハッチを開けてください。あけなきゃ、ビームで開けます。」
シェルドの静かな、決意に満ちた声が聞こえる。
そのままライフルを構えるアレックス。
引き金を引こうとする瞬間に宇宙の景色が見えた。
「シェルド、アレックスで出ます!」
そのまま、不恰好に飛び立つアレックス!
「…クレアじゃないのか?」
ジュナスが疑問を感じていると、両手両足をばたつかせ何かを叫んでいるクレアが視界に入った。
「…なんなんだ?」
そこへジュナスら他のパイロットのコクピッドにも通信が入る。
「シェルド伍長がアレックスで行ってしまいました!アレックスを保護してください!」
アヤカの声にドクがここぞとばかりに不平を言う。
「冗談じゃねぇぜ!これ以上、ガキのお守りが出来るかよ!」
その声にジュナスが反応する。
「じゃあ、少尉は好きにやってくださいよ。」
「あぁ?」
「あのアレックスの面倒は僕が見ます。」
「ヒャハハハ!いい度胸だ小僧!ガキはガキ同士仲良くやってな!」
ルロイがジュナスに通信を入れる。
「…僕も彼を。」
「いや、ルロイはいいよ。僕がやる。それに相手の数が多いし、アルビオンは右舷がやばいから、ルロイはそっちを。」
「そうだね、わかった。」
射出口にそろう3機。
「すぐにそっちに行くよ。」
ジュナスがルロイへの通信を切る。
「ジュナス・リアム、アレックス、いきます!」