【共に鼓動を聞く者たち】 343氏



「ちょっと、厳しかったんじゃないですか?」
ミリアムはハワードに言う。
アルビオンはアンマンの着陸許可を待っていた。
ハワードは黙ってミリアムの話を聞いている。
「先ほど、艦長も言ってらしたじゃないですか。シェルド機が戦力として機能していたと…。それにこちらが発進を許可してしまった部分もありますし。」
アヤカが報告が入る。
「アンマンより着陸の許可がでました。」
「入港します。」
ウッヒの声にハワードがうなづく。
ハワードはミリアムに向き直り言う。
「大尉は、『小さな規律違反が全体の腐敗に繋がる』と以前に話しましたな。」
ミリアムは黙り込んでしまう。
「軍人とて人間。締め付けばかりでは息苦しく、士気にも影響する。だが、本当のところで抑えなければならないところを無視したものには厳しく当たるべきではないかな?」
ハワードの言葉にミリアムは言葉がなかった。
俯き、何とか声を絞り出す。
「申し訳ありません…、でもあの子たちがどうしても軍人のように思えなくて…。」
ハワードはミリアムの肩を叩く。
「ここからの戦い、甘さは命取りになるぞ、大尉。」
ミリアムは身体を硬くしてうなづいた。

ジュナスはシェルドを無視したかった。
自分が友人に甘く接した結果、彼の規律違反を招いたと思い、距離を置くべきなのではないかと考えたのだ。
しかし、そんな思いとは裏腹に、ジュナスの足は独房に向かっていた。
通路を歩くジュナス。
その行き先をふさぐ影。
ドク・ダ−ムだ。
「よお、テメエの方から好きにやれって言ったのにアレはないんじゃねえか?」
つめよるドクにジュナスは退かない。
「…目的と手段を履き違えてるんじゃないですか?少尉は?」
「あ〜?」
互いの息がかぶる。
「邪魔する奴はぶっ潰すのが戦争なんだよ。」
ドクはにやりと笑う。
「こういうふうに、な!」
「…ぐっ!」
ドクのボディブローがジュナスの腹部にめり込む。
「おらぁ!どうした?」
さらに連続して打ち込む。
ジュナスは抵抗しない。
「…つまらないケンカで怪我したら困りますからね。」
ジュナスの言葉にドクがキレる!
「てめえ!俺がテメエにやられるとでも思ってるのか!」
今度はジュナスの顔面を殴りつける。
「がっ!」
ジュナスが退く。
そこに追撃の蹴り。
「ふざけんじゃねぇ。」
ドクはそのまま立ち去っていった。
たたら踏み、堪えたジュナスはドクに振り向くことなく独房に向かっていった。

「…シェルド。」
独房のドアの前でジュナスは呼びかける。
「え?ジュナス?」
ドアの向こうからくぐもった返事が聞こえる。
間違いなくシェルドの声だった。
「…いや、その。」
ジュナスは言葉に詰まったが、一気に言い切る。
「「さっきはごめん!」」
二人の声がかぶった。
「「あ。」」
再び被る声。
自然と双方笑い出す。
互いに顔は見えないが、それでも心が伝わって、二人はホッとしていた。
「あんまり、無茶するなよ。」
ジュナスの声はいつもの調子に戻っていた。
「うん…。もうスタンさんに殴られたくないしね。」
シェルドもいつもの声に戻る。
「休暇も…。」
「なくなったなぁ。ジュナスはどっか行くの?」
他愛ない対話。
きっかけを作って、少しずつ二人に生じた距離を埋めていく。
ケンカの仲直りはいつもこうだった。
二人はそれが分かっていたから、会話を続ける。
「どうしようかなぁ。シェルドもこういうときぐらい外出許可が出ればなぁ…。」
ジュナスが天井を見る。
「僕は新型を見る予定だったんだけどね。」
シェルドはやや落胆気味に話す。
「新型?」
「エゥーゴオリジナルの機体らしいよ。リックディアスっていう…。」
「へぇ…。」
ジュナスは最初の戦闘を思い出す。
グリーンノアでの小さな機影。
シェルドはため息をつきながら言った。
「結局、スタンさん一人で見に行くことになるのかなぁ?」