【共に鼓動を聞く者たち】 343氏
ハワードは艦長室にスタン、ミリアムを呼んでいた。
「スタン、MSを見に行ってくれ。アナハイムの工場にあるそうだ。」
「はぁ…。」
覇気の無いスタンを見てハワードは片眉を上げる。
それにスタンは気付き、苦笑いを浮かべる。
「了解です、艦長。シェルドを連れて行けないのが残念ですが。」
それを聞き、ミリアムがうつむく。
ハワードは微笑み、スタンに尋ねる。
「彼が必要か?」
「そうですね、見込みありますよ、あいつは。」
「…そうか。」
ミリアムが顔を上げる。
「特別に許可しましょう、艦長。ブルーディ中尉の監視の下なら大丈夫でしょう。」
ミリアムの瞳がわずかに潤んでいる。
ハワードもスタンも同じことを思っていた。
(こういう風に見つめられると…。)
(…男は弱い。)
ため息をつくハワード。
「…よし、つれていけ、スタン。目を離すなよ。」
「了解です。」
スタンはやや軽い足取りで部屋を出て行く。
ミリアムが微笑んでいる。
ハワードは頭を抑えた。
(やれやれ…、俺も甘いな。)
「エリン大尉は、アンマンで私とデートだな。」
「了解!って、ええ!?」
ハワードの言葉に驚くミリアム。
「ハンバーガーショップに、ちょっとな。」
淡々と続けるハワードだがミリアムは動揺したままだった。
「お?クレアちゃん発見!」
通路でクレアを呼びかけたのはアヤカだ。
「あ、アヤカさん、何ですかぁ?」
クレアはシェルドのところに向かう途中でシリアスモードだった心を切り替える。
アヤカにニコニコと笑みを浮かべ、クレアの腕を取る。
「一緒に買い物いこ!」
「え?ああ、アンマンにですか。」
ややテンション高めのアヤカにいつものように乗り切れないクレア。
だが、お構いなくアヤカは続ける。
「やっぱさぁ、ずっとルナ2勤務だったじゃない?シャバが恋しいのよねぇ〜。」
「そ〜か〜、そ〜ですよね〜。」
「カッコいい男もいなかったしさぁ、私の人生設計が狂っちゃいそうよ。本日は逆ナンも辞さない覚悟で…。」
と、アヤカは言葉を切ってニヤリと笑う。
「あ〜、クレアちゃんはもう決まった人いるもんねぇ、今日はデェ〜トで忙しいですかねぇ?」
「何言ってんですか!私も今日は逆ナンも辞さない覚悟でお供します!」
「あ〜、クレアちゃん、いい娘だ〜。」
二人の乙女がはしたない会話を続ける中、現れる男女、もとい男性二名。
ブランドとウッヒである。
「アヤカちゃ〜ん、荷物持ちゲットしたわよ〜ん。」
ブランドが陽気な声で話しかける。
対照的に沈痛な面持ちで佇むウッヒ。
「お〜!さすがであります!ブランド准尉!」
アヤカがおおげさに感嘆の声を上げる。
クレアが思案顔で言う。
「じゃあ、あたしも誰か捕まえてこようかな?」
と、そこをタイミング悪くルロイが通り過ぎる。
「ゲェ〜ット!」
「うわぁ!何すんだよ、クレア!」
抱きつくクレアに狼狽するルロイ。
「隊長、捕獲完了であります!」
「うむ、よくやったクレア准尉。」
ブランドが深くうなづく。
「え、何?」
自体が飲み込めないルロイにウッヒが涙を流し言う。
「同志よ、今日は一日きゃつらの奴隷なのだ…。」
ウッヒはルロイの肩を叩く。
ルロイはただ、青ざめていた。
ジュナスとシェルドが話す独房に人影が入る。
スタンである。
「よう、ジュナスはこんなところで何してるんだ?」
ジュナスはドアにもたれて座っていたのを、すぐに立ち上がり敬礼する。
スタンはジュナスの顔を見る。
頬が少し腫れている。
「どうしたんだ、ひでえ面だな…。」
「いつも酷いですよ。」
ジュナスは微笑む。
「んなことないだろ、色男。誰にやられたんだ?」
スタントの会話を聞いてシェルドが驚く。
「ジュナス!怪我してるのか?」
「たいしたことないよ。」
ジュナスは返す。
スタンはドアのロックを解除する。
シェルドはジュナスの顔を見て目を見開く。
「ひどいじゃないか!誰がこんなことを!」
スタンは鼻で笑う。
「あのハゲか?」
ジュナスは笑顔だが、否定しない。
「ドク少尉か!あの人、おかしいですよ!」
「いいんだ、シェルド。」
スタンはシェルドの肩に手を置く。
「そんなことよりもな、釈放だぜ。俺の保護観察付だがな。」
「え?よかったな、シェルド!」
「ど、どうして?」
喜ぶジュナスと意味が分からないシェルド。
「新型はお前も見に行ったほうがいいと思ってな。アナハイムの連中から詳しい説明も聞けるしな。」
スタンはシェルドの背中をぽんぽん叩き、歩くように促す。
「さ、準備していくぜ。ジュナス、お前はゆっくり休め。」
スタンはジュナスの頭をくしゃくしゃにする。
「お前には休養が必要だよ。」
通路に戻り歩く三人。
と、スタンの歩みがギクシャクとする。
「どうしたんですか?」
ジュナスが思わず聞く。
「ああ、義足の調子がな…。こいつも見てもらわないとな。」
スタンは顔をしかめて言った。