【共に鼓動を聞く者たち】 343氏



ルナ2基地においての軍の再編。
ハワード・レクスラーは強襲揚陸艦の艦長を命じられた時の意外そうな顔の演技に難儀した。
「…私が、ですか。」
「よろしく頼むよ、少佐。」
居並ぶ士官たちの間から嘲笑が聞こえたような気がする。
しかしハワードはそれを気にすることはなく、辞令を受けた。
「基本的にMSパイロットを含めクルーは新兵が中心となる。無論、それを教育するためのベテランも配属される。これは貴殿の長年の経験を期待しての人事だ。頼むぞ。」
少し不思議な光景だった。
辞令を読み上げる士官は女性であり、またハワードと比べたら娘くらいの年齢かもしれない。
ニキ・テイラー。
彼女はルナ2基地の参謀としてその頭脳で異例の出世を遂げ大佐の地位にいた。
ハワードは未だ少佐である。
そして長年の経験というのも彼には皮肉に聞こえた。
一年戦争時、彼は自分の船を沈めていたからだ。
そういった部分を感じてる演技も、今の彼はしなければならない。
「…愚老の私には過ぎた任務かと思いますが、尽力したします。」
「…いや、本当に期待している。」
ハワードはニキのセリフの裏を読み取り、敬礼した。

「これが、私の新しい船ですか。ペガサス級とは随分と恵まれたものです。」
「先生、その口調はやめてもらえますか?」
艦艇デッキに隣接した司令室に、ハワードとニキはいた。
「こちらこそ、先生はやめて頂きたいですな、大佐。」
ニキはため息をつく。
「先生、あなたが少佐という階級に甘んじているのが分かりません。優秀な者が下のものを導くべきです。」
「好きで甘んじてるわけではないです。」
お互いにその口調を譲らない、奇妙な会話が続く。
「それに、大佐。今の私の階級は妥当なものです。今までの仕事も。サラミス艦での哨戒任務。これが分相応です。一年戦争時の私の過ちもご存知でしょう。ソロモン…、コンペイトウでの私は酷いものでした。」
「先生は立派です。クルーの殆どを脱出させ、死亡者、行方不明者の数はたったの2名でした。」
「その2名の中になぜ私が含まれなかったのか、残念でなりません。」
「先生!」
「…やめてくださいませんか、その話は。」
「…そうですね、失礼しました。」
「本題に入りましょう、大佐。配属されるクルーに関してですが。」
「そうでした…。」
ニキはデスクから書類を取り出し、ハワードに渡す。
「クルーの意思確認は済んでいます。かなり慎重にやりました。艦長の行動に異議を唱えるものはいないはずです。配属される3人の新人パイロットですが、これはちょっと特殊な事情があります。書類付属のディスクを参照して下さい。…ただ、出港後にしたほうがいいでしょう。覗き見されると良くないですからね。」
「…フム。肝心の熟練者の配属は?」
「一年戦争時からのベテランパイロットと聞いています。また、メカニックに関してもベテランを置きました。」
「了解しました。では、船を検分してきます。」
「準備が出来たら早速、哨戒任務に。慣らしも大切でしょう。」
「…了解。」
ハワードは書類を見ながら、戦艦に向かった。新たなる母艦に。

ハワードは船内の状況を見に来た。
未だ、慌しく物資の補給が行われている。
そう、決してただの哨戒任務とは思えないくらいの物資が…。
その中でハワードの元へ駆けつける男が一人。
「お久しぶりです、少佐!」
「お、君はブルーディ少尉…失礼、中尉になったのか。」
「ええ、まあ、でもかなり遅ればせながらの昇進ですよ。はは、少佐と同じですな。出世には縁がないみたいですな。」
無精ひげの30代後半ぐらいの男、スタン・ブルーディは笑う。
「俺もティターンズにでも入りましょうかね〜。」
「ああ、あそこは一階級上に見られるとかいったな。私なら中佐扱いか、いいかもしれん。」
「へへへ…。ま、それはともかく、また少佐と戦えるとは嬉しい限りですよ。」
「君が例のベテランパイロットか?君なら安心だな。」
「残念ながら、それが違うんで…。」
「む?」
「実は今回の俺はメカニックなんですよ、ちょっと3年前の戦闘でやっちまいましてね…。」
「足、義足なのか?」
「左足のヒザから下がメカですね。ま、操縦できないこともないんですが。」
「そうか…。」
「この船も、3年前の戦闘にいたんですがね…。」
「ペガサス級強襲揚陸艦アルビオンか。」
「幻となったガンダム開発計画の生き残りです。」
そう、その船は確かにアルビオンであった。
デラーズ・フリートの反乱の後に大きな損傷を受けたアルビオンは改修にまわされた。
例の三体のガンダムの方は、正式文書から消えたままだ。
しかし、それでもスタンは言った。
「例のとは違いますが、ガンダムも積んでありますぜ。」
「ほう…。」
「ま、これも曰くつきのガンダムですがね。ニュータイプ用とかで…。」
「新人の中にニュータイプがいると?」
スタンは頭をかく。
「どうなんでしょうね…。それが三体あるんですよ。」
「なに?」
「同じ型のガンダムが三体。つまり三人のニュータイプがいることになりますね。」
ハワードは俯き、思案した。
ニキの言っていた三人の特殊な事情とはなんなのだろうか。
「…とりあえず、ガンダムを見てみようか。」
二人はMS格納庫へ向かった。