「共に鼓動を聞く者たち」 343氏



「ハンバーガーショップなんて、若者が行くところなんだがな。」
バーガーショップ・マクドネルの前にハワードとミリアムは立っていた。
ミリアムは幾分、恥ずかしさは消えていた。
出かけるのに上官のお供をするのは、珍しいことではない。
「…おいしいんですか?」
ミリアムの質問に苦笑いするハワード。
「少し、苦味が効いてるかもしれんよ。」
「へ?」
意味の分からない顔をするミリアムを促し、ハワードは店内に入っていく。
カウンターでメニューを見ながら、ハワードは愚痴を言う。
「地球から運ばれた天然肉じゃないのか。」
店員の男が片眉を上げる。
「…マクドネルダブルバーガーのセットがオススメです。席はこちらにどうぞ。」
男はカウンターの奥にある扉を開け、二人を案内する。
そこで、ようやくミリアムは状況が分かった。
ハワードの近くで小声で言う。
「艦長、私も同席していいんですか?」
「君は副官だろう。」
「…はい。」
扉の向こうにはエゥーゴの幹部たちが揃っていた。
「ハワード君、遠路はるばるご苦労だったね。」
イスに身を沈ませた男が3人、ハワードとミリアムに視線を注いでいた。
「どうも。」
ハワードは軽く返し、空いていた席に座る。
ミリアムはハワードの背後に立っていた。
男達が口を開く。
「ニキ君は上手くやってくれたようだな。」
「連邦軍内でも良識のあるものは今の状況を不満に思うものか、君みたいに。」
ハワードは神妙に頷く。
「良識があるかどうかは知りませんが、虐殺行為には加担したくありませんし、見たくもない。出来れば止めたいものです。」
男たちの一人は満足そうに頷いた。
「話に聞いたとおりの男だ。頼りになりそうだな。…では具体的な話をしようか。」
「…お願いします。」
「君達は地球圏を中心に、最終的には地球そのものを押さえる役目を担ってもらいたい。」
「そのような艦隊に編入されるのですな。」
「いや、艦隊には入らない。」
「は?」
ハワードは思わず間の抜けた声を出した。
一隻で地球を押さえろと?
「そもそもアナハイムの資金力でも艦隊はほとんど組めない。無論切り札は用意してるがね。」
「では、私たちは?」
「地球上の主要地点の確保を行う際の部隊だ。ジャブローだけでなく、な。具体的には敵の軍事研究施設がメインとなる。オーガスタに、ムラサメ研究所…」
ミリアムがゴクリと唾を飲む。
ルロイの経歴を思い出したのだ。
「その他にも各種のゲリラ戦には呼ばれるだろうがな。」
男の言葉にハワードはため息をつく。
「人気者ですな。」
「キミの艦は貴重な戦力なのだ。…しかし、アルビオンとはな。さらに積んでるガンダムはアレックス。アルビオンはティターンズ台頭の際に葬り去られたガンダム計画がらみの艦で、アレックスは元はと言えば、今は連邦が恐れて軟禁しているアムロ・レイのためのMSだ。」
ハワードは頷く。
「そうですな。」
「ニキ大佐は相当な皮肉屋みたいだな。」
クツクツと笑う男達に対して、ハワードは立ち上がり一瞥する。
「使える物を使う。余裕がないだけでしょう。補給の件だけ頼みますよ。」
ハワードとミリアムは部屋を出て行った。



ハワードはカウンターに向かうと先ほどの店員に言った。
「さっきのダブルバーガーセット、お持ち帰りに変えてくれんかな?」
「…テイクアウトですね。了解しました。」
店員の男が奥に消えて行く。
ミリアムは辺りを見回す。
これがエゥーゴの会合場所とは思えない。
本当にただのファーストフードショップである。
ハワードがミリアムに話す。
「キミはハンバーガーは好きかね?」
ミリアムは微笑する。
「別に嫌いなわけじゃないですけど…。」
「けど?」
「カロリーが高いんですよね。」
ミリアムは自分が油断すると太ることを知っていた。
高カロリーなものは控えているのだ。
「しかし、仕事は体力勝負。がっつりスタミナとらなきゃダメだぞ。」
ハワードも笑みを浮かべて話す。
店員の男が袋を持ってカウンターに戻って来る。
「おまちどうさまでした。」
「ああ。」
ハワードが受け取ると男はまた奥に引っ込む。
ハワードとミリアムは二人で店を出る。
「ハンバーガーは酒の肴にはならんからなぁ。」
ハワードの言葉にミリアムが呆れる。
「でも、食べないともったいないですよね。公園でお昼にしましょうか?」
「そうだな。」
二人は近くの公園に向かい、ベンチに座る。
コロニー内で制御された芝生だが、艦のホログラムとは違う本物の緑が心地よかった。
ハワードは袋を漁る。
「…あったあった、やれやれ。」
袋から取り出したのはディスクだった。
ミリアムの顔が険しくなる。
「ま、捨てるわけにはいかんしな。」
ハワードは自分の懐にしまいこんだ。
ハンバーガー、ポテト、ジュースを取り出し、ミリアムに渡す。
二人でパクつく。
人工の暖かい日差し。
「…本当にデートしてるみたいだな。」
ハワードの言葉に、ミリアムは思わず顔が紅潮する。
「…へ、変なこと言わないで下さい!」
「ああ、すまんすまん。」
ハワードは適当に流す。
そこに一人の男がやって来る。
ハワードが男を見上げると、先ほどのマクドネルの店員だ。
「こんにちは、ハワード艦長にミリアム大尉。今、バイトが終わりまして。」
「え、あなたは?」
質問を返すミリアムに男は微笑む。
「ビリー・ブレイズと言います。MSパイロットですよ、今度、アルビオンにお世話になる、ね。」


シェルドは大汗をかきながら、シュミレーター席を降りた。
ケイの一言が心に突き刺さる。
「…弱い。」
当たり前である。
シェルドはここ3日でMSの操縦を本格的に始めたのだ。
「アンタ、本当にパイロット?」
ケイの追撃の言葉に、薄笑いを浮かべ頷くことしか出来なかった。
壁際にしゃがみ込んでため息をつく。
「はい、これ。」
ケイからペットボトルのドリンクを渡される。
「…どうも。」
のどを鳴らして飲む。
「スタンが『見込みがある』なんて言ってたけど、アンタ散々だったね。リックディアスってそんなに難しい?」
「元々、見込みなんてないんですよ。」
シェルドはうなだれて呟く。
「出来もしないのに、生意気言ってるだけなんです。」
ケイが横に座る。
「…なんかワケあり?」
ケイは優しい笑みを浮かべる。
ケイは美人ではないが愛嬌があるし、表情が優しい。
ミンミを叱り付ける時にも優しさが内包されてるような気がする。
シェルドはそんなことを感じていた。
だから、少しずつ本音を話す。
「メカニックの仕事だって大事だし、皆を守る仕事だと思う。」
「?」
シェルドはケイの顔を見る。
「でも、ね、友達が命かけて戦ってるのをモニターで見てるだけなのは嫌なんだ。ジュナスや、クレアとは肩を並べて戦っていたい。」
「ふーん。」
ケイはニヤニヤと笑う。
「ま、ここで『そんなこと考えるな、メカニックでいることで友達を支えられることもある』なんていうことも出来るけどね。」
「うん。」
シェルドもそれは分かってる。
「でもあのおっさんはそういうこと言わないでしょ?やりたいこと、やれるかもしれないことに挑戦せずにいるなんて、もったいないと思ってるんだよ。あたしも同感。」
シェルドが頷く。
ケイも頷く。
「よし、じゃあ、あたしと特訓するか。出港のときまで相手してやるよ。」
「ありがとう。」
シェルドに闘志がわいてきた。