「共に鼓動を聞く者たち」 343氏



キョロキョロと辺りを見回すミンミにスタンが問いかける。
「どしたい、ミンミ三等兵?」
「シェルドさんがいないであります。」
ミンミの応えにスタンも見回す。
「ありゃ?…こりゃ、ちょっとまずいよなぁ。」
人通りは多く、人探しは難しそうな町並みである。
「あいつ、保護観察中の身分だってわかってんのか?」
もっともスタンに慌てる気配はない。
シェルドが逃亡するような性格ではないと知っているからだ。
ミンミはプンスカと腰に手を当てて、怒っている。
「迷子になったでありますか?しょうがない人であります!」
スタンは「まぁまぁ」とミンミの頭をなでつつ、通信機を開く。
「あ、連絡取れるんでありましたか。」
「いや、俺もすっかり存在を忘れてた。」
しかし、シェルドが応答する気配はない。
「んあ〜、何してんだアイツ。」


シェルドはエリスとの会話に集中していた。
というよりもどうしようもなく惹き付けられる。
「その、怪我しなかった?」
「私は大丈夫。」
エリスは複雑な路地裏を迷うことなく歩いて行く。
シェルドは横に並んでついてゆく。
「道はこっちでいいの?」
「ええ、そこを左に曲がって…。」
「馴れてるんだ、この道。」
エリスは不思議な顔をする。
「どうして?」
「いや、複雑な路地なのにすいすい進んで行くから。街に慣れてないボクだったら間違いなく迷子になってるところだったよ。」
エリスは微笑んで返す。
「私もこんな道は初めてよ。買い物だって大通りでしかしないもの。」
「え?」
シェルドは驚く。
「じゃあ、なんで道が分かるの?」
「分からないの?」
むしろエリスは質問を返す。
シェルドはスタンのように頭をかく。
「全然…。」
二人は大通りに出る。
エリスは笑う。
「到着!あとの道は分かる?」
「えっと、地図があればだいたい…」
シェルドの答えに満足したのか、エリスは頷く。
「じゃあ…」
「あの!」
シェルドは思い切って、別れのときを伸ばそうとする。
少し声が大きくなってしまった。
エリスが驚いて返す。
「な、なに?」
「いや、その、お礼がしたいんだけど、今、お金取られちゃったから」
シェルドは自分でも分かる。
どんどん、顔が赤くなっているはずだ。
エリスはそれに気付いてるのかそうでないのか、ぱたぱたと手を振る。
「いいですよ、お礼なんて。」
「いや、でも、その、明日!…会えないかな?」
この誘い、これは明らかなデートだとシェルドは思った。
エリスはどう思ってるだろう?
シェルドにはエリスが少し、顔を赤らめてるように見えた。
「…いいよ、大丈夫。」
エリスの応えにシェルドの表情が明るくなる。
バカ、喜びすぎだ。
「じゃ、その、一緒にご飯食べに行こうよ、場所は…。」



クレアはオレンジジュースをすする。
アヤカのガイドブック情報によるこのイタリアンレストランは悪くない。
店の雰囲気もいいし、料理もおいしかった。
ブランドも、そして荷物持ちでついてきていたウッヒとルロイもここでは至福の表情を浮かべていた。
これから来る、デザートのジェラードも楽しみである。
それでもクレアはどこかに寂しさとも、不安とも言えない感情を抱えていた。
ブランドの冗談にウッヒが悲鳴を上げ、ルロイが笑っている。
それをぼーっと見ていた。
アヤカがクレアに話しかける。
「…どしたの、クレアちゃん?」
不意の言葉にはっとするクレア。
「いや、ちょっと疲れちゃったみたいです、ハハ」
アヤカはクレアに微笑む。
「何か考え事?」
クレアはぱたぱたと手を振る。
「あたし、何も考えてないですから、アハ」
「でも、何か思ってることはあるんでしょ?」
アヤカの言葉にクレアは驚きつつも、頷いた。
「話せば楽になるかもよ?」
アヤカの言葉にクレアはブランドたちの様子を伺う。
騒いでる三人。
クレアは小声でアヤカに話す。
「…あたし、おかしいんですよねぇ、ジュナスとぉ、あとシェルド、どっちかが一緒にいないと不安になっちゃうんですよぉ」
アヤカが片眉を上げる。