「共に鼓動を聞く者たち」 343氏



ダイスは嘘を言っても始らないと思い、とにかく正直に話した。
子供たちのした無茶。
それを止めに言ったが間に合わなかった。
それだけのことだ。
そりゃ、危険な行いだが軍隊が出てくるようなことではない。
よく分からないが、ダイスは必死に話していた。
それを不安そうに見るジュナス、シェルド、クレア。
ガイはダイスの話を手で制し、目をつぶり考える。
そして、次に目を開けるとコルトの方を見た。
「こいつらは懲罰房に入れておこう。」
コルトは驚く。
「な!早めに始末をつけときませんと、後々…。」
「お前に指図されるいわれはないが?」
ガイがそれだけ言い放つと、コルトは黙って銃口でダイスらを突付く。
四人は部屋を出る。
言われるがままに懲罰房に着くと、それぞれの部屋にぶち込まれる。
四人の中からうめき声は上がるが、出来るだけ静かにしていた。
「ったく、いいのか、生かしておいて。」
コルトが呟きながら出て行く。
ジュナスは周りに耳を澄ませ、静かなことを確認してから声を出した。
「みんな、大丈夫か?」
「やっほ〜、大丈夫だよ〜。」
クレアの呑気な声が聞こえる。
「一体何なんじゃ。」
ダイスの疲れた声が聞こえる。
シェルドも疲れに不安を合わせた声で話す。
「何がどうなって、それにこれからどうなるんだろう?」
ジュナスは考え込む。
「さっき、『いいのか、生かせておいて』とか言ってたよね?」
ダイスも唸る。
「そうとうヤバイことに巻き込まれたみたいじゃな、お前たちのせいで。」
クレアが反論する。
「私たちのせいじゃないよ、ジュナスがいけないんだもん。」
シェルドが同調する。
「そ、そうだよ、シャトルに乗ろうといったのはジュナスなんだから。」
「一緒に乗った以上、みんな同罪じゃ。」
ダイスは呆れてぼやく。
「じゃあ、オヤジさんも乗ってたから同罪だね。」
クレアがケラケラと笑う。
「小娘が、何を言いよる…」
ダイスの舌打ちが聞こえる。
ジュナスは思わず、謝る。
「ご、ごめんなさい。」
その声にクレアは聞く。
「そういえば、ジュナス、大丈夫?」
「ん?」
「身体の震え、止まった?」
シェルドも心配そうに話す。
「さっき、顔も真っ青だったもんな。」
「なんだ、小僧、病気か?」
ダイスの質問に、ジュナスは返答がうまく出来ない。
「いえ、病気と言うか、なんか圧迫感が今も。それに震えが止まらなくて。」
ジュナスは自分の手を見つめる。
「自分でもよく分からないんです。ただ、とにかくコロニーから出たくて…。」
ダイスが怒りの声を上げる。
「それで、シャトルに乗り込んだか!下手な言い訳じゃ!」
直後、兵士たちの「うるさいぞ!」という注意が飛ぶ。
四人は慌てて口を塞ぐ。



閉じ込められて四日。
最低限の食事だけでだるい身体に、兵士の声が響く。
ジュナスは横にしていた体を起こす。
と、ドアが開く。
コルトの憮然とした顔が見える。
「さっさと起きろ!」
通路に出ると、久々に見るシェルド、クレア、ダイスの顔。
どれもやつれて見えた。
ジュナスがクレアを見ると向こうも気付き、舌を出しておどけてみせる。
疲れててもそういう表情が出来るクレアが頼もしかった。
サラミス級の戦艦が多く止まるデッキを抜ける。
ゲストルームと思われるドアの前に来たところで、向こう側から大きな声が聞こえた。
「何も言えないといっているだろう!」
ジュナスにはどこかで聞いたことある声だった。
そうだ、乗ってきたサラミスの艦長の声だ。
ガイとか言っていたか。
「今回の治安維持行動はティターンズの管轄で行われたもの!連邦軍へは事前の連絡どおりとしか言えない!」
コルトは少しためらいながらも、役目を果たそうとする。
「ただいま、捕虜を連れてきました!」
「どうぞ…」
女性の声で、入室の許可が下りる。
ドアが開くと長髪の女性士官が腕を組んで、ガイと向き合っている。
そのまま、ガイに話す。
「ティターンズには個人として賛同しています。それでも、ルナツーの高官として参加できないと言うこともジャミトフ・ハイマン氏に理解されています。その上で聞いているのです。サイド1での今回の行動はどのようなものだったのですか?」
女性士官は視線をジュナスたちに移す。
「…このような子供たちが捕虜になるような治安維持活動とは、どういうことなのですか?」
その言葉を聞いて、コルトが迂闊な言葉を漏らす。
「…だから、あの時に始末しておけば。」
女性士官が片眉を上げる。
「コルト中尉、どういうことですか?」
コルトは慌てて敬礼姿勢をとる。
「いえ、何でもございません!そ、それではワタクシはこれで、失礼します!」
コルトは急いでその場を離れる。
ガイが口を開く。
「私が言うべきことは何もない。補給が済み次第、サイド7に戻る。」
女性士官は、ため息をついて話す。
「いいでしょう…、では、彼らから事情徴集させてもらいますよ。」
「…かまわん。」
女性士官はジュナスたちに話す。
「すいません、聞いての通りですが、少しお話を聞かせていただけませんか?」
ドアが開く。
「こちらです。」
女性士官に先導されジュナスたちは歩いて行く。
通された一室に四人は意外そうに顔を見合わせる。
そこはリビングルームともいえる感じで、ソファとテーブル、奥には簡単な台所らしきものも見える。
「事情徴集って、ここで?」
クレアが思わず声を上げる。
「お話させていただくだけですからね。あぁ、ソファにお掛けください。」
女性士官は台所に向かう。
「コーヒー、紅茶がありますけど?」
「あたし、ミルクティ〜!」
クレアが手を上げて言う。
「おいおい、どういうことじゃ?」
ダイスが戸惑う。
それでも各々が飲み物をリクエストし、女性士官自らが運んでくる。
彼女はソファに座り、彼らに対面して話す。
「自己紹介が遅れましたね。私はニキ・テイラーと申します。」
ジュナスがニキを見る。
彼女の表情は最初に見た時から、全く変わらない。
冷静で思慮深げな表情。
「サイド1にいたあなたたちが何故、このルナツーに運ばれることになったのか、教えてください。」


ジュナス達は自分たちに起こった事を一通り話す。
ニキは頷くと、ため息をつく。
「僕達には何がなんだか…。」
シェルドが呟く。
そしてダイスが、決定的な問いを発した。
「ワシ達はいつ、戻れるのですかね?」
ニキの表情が初めて曇る。
「サイド1の30バンチコロニーからは…、連絡が途絶えています。」
「は?」
ダイスが間抜けな声を出す。
ニキは迷わず、一気に続けた。
「あなた達は外部の状況を知らずにここまで来たのでしたね。ニュース映像があります。ここ数日であなた達の住んでいたところは大変な変化がありました。気を確かに、しっかりと状況を把握してください。何と言っても冷静になることです。…私はしばらく席をはずします。また、後ほどお話しましょう。」
ニキが通信で何事かを伝えたかと思うと、ドアより小型のモニターが運ばれてくる。
モニターはテーブルに置かれる。
「…あ、あの。」
ジュナスがニキを呼びかけるが彼女は無視して話す。
「それでは、後ほど。」
モニターに、ニュースキャスターの顔が映る。
日付は3日前。
30バンチコロニーで起こった大規模な伝染病被害のニュースが伝えられていた。
ジュナスは取り付かれていた不安の正体を知った気がした。
だからといってもスッキリするはずがなく、むしろ吐き気を覚えた。
皆の表情を見ると唖然としている。
そして、四人に悲しみが訪れた。
家族も、友達も、失うと言うよりも消えたといった方が正しい。
自然とお互いが身を寄せ合った。
ニキが部屋に入ってくる。
沈黙する室内で、言葉を搾り出す。
「お話は後日の方がよさそうですね。今日はお休みください。」
それぞれに部屋が割り当てられた。
四人は心に苦しさを抱えての浅い眠りに落ちた。