「共に鼓動を聞く者たち」 343氏



眠りから覚めて、昨日にニキに通された部屋に再び四人は集合していた。
ニキはまだ来ていない。
ジュナスが皆の様子をうかがう。
ダイスは子供たちを励ます気力も出ない。
シェルドは顔を覆い、悲しみから抜け出していない。
そして、どんな時もおどけて、周りを明るくさせてきたクレアも、今は目を赤く腫らし、俯いたままだった。
ジュナスはクレアに声をかける。
「ねぇ、クレア。」
クレアは反応がない。
「元気を出せとは言わないけど…」
ジュナスは続ける。
「僕は母さんや父さんが死んだのをまだこの目で見てない。」
クレアがゆっくりと顔を上げる。
「まだ、信じてない。クレアも信じるなよ。」
ジュナスの言葉にクレアは「ん、」とだけ返事をする。
ダイスが反応する。
「ワシも信じやせんぞ!」
シェルドが首を振る。
「で、でも、昨日見たアレは!」
「事実です。」
部屋に入ってきていたニキが告げる。
「そう、昨日の事は事実です、ただし…」
ニキは間を置き、四人に対面するようにソファに座った。
「真実とは限りません。30バンチコロニーの住民たちが全滅したのはほぼ間違いないでしょう、しかし、それが伝染病とは…。」
「ど、どういうことですか?」
シェルドが声を震わせ問う。
ニキは「可能性での話ですが」と前置きしてティターンズの動きを説明する。
この時、ニキは彼らの悲しみが怒りに変わる事を期待していた。
そして、それを利用しようとする自分を激しく嫌悪した。



ニキの説明が終わり、部屋を出るとき、クレアが呟いた。
「…ジュナス。」
クレアがこの日、ちゃんと口を開いて話すのは初めてだったので、ダイスやシェルドも軽い驚きを覚えてクレアの方を見た。
ジュナスはクレアの側に立つ。
「何?」
クレアはジュナスの顔をしっかりと見据えた。
「ありがとう。」
「え?」
ジュナスが訳分からず、戸惑っている間に、クレアは続けた。
「命の恩人だよ、ジュナスは。あの時、一緒にシャトルに乗らなかったら、あたしも死んでたんだから。」
クレアは頭を下げる。
「ありがとう、ジュナス。」
シェルドも頭をかく。
「僕もそうだね、ジュナスに感謝しなくちゃ。」
ダイスも頷く。
「そうだな、坊主には感謝しなくてはな。」
ジュナスは戸惑っていた。
本当に感謝されるべきことなんだろうか?
あの時、皆と一緒に死んでいれば、少なくとも今の悲しみは知らずに済んだはずだ。
クレアはジュナスの手をとった。
「きっと、私たちが生き残ったのは意味があるんだよ。」
ジュナスはクレアに心を見透かされたような気がした。
「幸せにならなくちゃ、生き残った四人、みんなの分も幸せにならなくちゃ!」
クレアは笑顔だった。
無理をしているのは分かっている。
クレアだけに無理をさせたくなかった。
「うん、そうだね!」
ジュナスも笑顔を作った。
シェルドも、ダイスも笑顔で。
四人、肩を寄せ合って。


「…ん〜、なるほどねぇ。」
アヤカが相槌を打つ。
アルビオンへの帰り道、クレアはアヤカに一通り打ち明け終わる。
彼女たちの前方では、ウッヒとルロイがよろめきながら荷物を運び、ブランドが喚きながらウッヒのケツを蹴っている。
アヤカは空を見上げる。
宇宙空間で見る星空とは違う、見上げる空。
「…大変だったねぇ。」
「にゃはは」
クレアはシリアスモードに疲れて笑う。
「んでも、今は楽しいし、いいんですけどね。ハクジョーかもしれないですけど、恨みとかどうとかもないんですよ、本当のところ。」
クレアはアヤカの手を握り、振り回す。
「ちょっと!クレアちゃん?」
「でも、もう寂しいのは嫌です!」
クレアはそのまま駆け出す。
アヤカは引っ張られるようについて行く。
ブランドはゲシゲシとウッヒを蹴飛ばす。
「オラオラ、しっかり運びなさいよ、うすのろ!」
「ひぃぃぃい!」
そこにクレアも加わる。
「ほら!ルロイもぼさっとしてないで、早く帰らないといけないんだから!」
「じゃあ、少しくらい持ってよ〜、ぐえっ!」
不平を言うルロイに、クレアは笑顔でチョークスリーパーを敢行した。


アンマン行きのシャトルで、ジュナスはドクの酒臭い息に耐える。
ドクはかなり酔いが回ってるが、ジュナスの話は聞いているようだ。
「…で、お前さんの不幸自慢は終わりか?」
ジュナスはこの口悪い上官をぶちのめしたい衝動に駆られたが、場所柄を考えて自粛した。
「少尉が聞きたいと言ったんでしょ?」
ドクはニヤつきながら、星空を眺める。
「俺が聞きたいのはお前が軍隊にいる理由だっつったろ?」
ジュナスはため息をつく。
「物事には順序があるんですよ。…自分たちはティターンズに狙われる状況になったんです。虐殺の生き残りですからね。」
ジュナスはドクを見る。
ドクは遠く星空を見ている。
寝ているわけではなさそうだ。
「…ニキさんは、僕たちを守るって言ってくれました。『自分の保護下に置けるように』という理由で、僕とクレアとシェルドは軍管轄の学校、ダイスさんはMSメカニックとして軍属になったんです。…それが僕が軍隊にいる理由です。」
ドクがあくびをする。
「…長い話だった。俺は寝る。アンマンに着いたら起こせよ。」
ドクはシートに身を沈ませ、腕を組んで目をつぶる。
程なくして、ジュナスはドクのいびきを聞く。
人に話をさせといてなんなんだ。
ジュナスは「ったく」と呟くと自分も睡魔に襲われる。
と、ジュナスに聞こえてたドクのいびきが途切れる。
同時にドクからの視線を感じて目を開ける。
ジュナスがドクに視線を移すと、再びドクはいびきをかき始める。
ドクは自分を見ていたのか、見ていたとしたらどういう視線だったのか?
同情?哀れみ?それとも蔑み?
ジュナスのニュータイプの勘でも、ドクの思考は分からなかった。