「共に鼓動を聞く者たち」 343氏



宇宙港のドックではアルビオンのメガ粒子砲の修理が行われていた。
ジュナスはその様子を眺めてみる。
工事にはスタンのほかにも、アナハイムにいるというフローレンス・キリシマ、ミンミという小さな女の子も手伝っている。
なんでも新型MSのリックディアスの搬入ついでにアルビオンの整備も手伝ってくれているらしい。
しかし、ジュナスの目当ての人物はそこにはいない。
なんでも、シェルドはアナハイムの工場で『仕事中』らしい。
出港は明日との事なので、悪友と遊ぼうと思っていたジュナスは少し淋しかった。
「なんたって昨日は酷い目に遭ったしなぁ。」
気晴らしでもしたくなる。
ちなみにドク・ダームは自室で二日酔いと戦っている。
アルビオンの修理の音がうるさいと呻いていた。
ジュナスが今日の予定に悩んでいると、自分の腰に腕が巻かれている。
後ろから抱きしめられているのだ。
「だ〜れだ?」
明らかにクレアの声である。
そして次の瞬間、ジュナスの視界は回った。

クレア・ヒースローのそれはそれは見事なジャーマンスープレックスでございました。

ジュナスの頭に「ゴッ」と衝撃が響く。
ジュナスが思わず叫ぶ。
「いってぇ!」
「お願い!」
クレアが謎の言葉を続ける。
ジュナスは頭も抑えつつ、全力で抗議する。
「なにすんだよ、クレア!」
「まあ、少し脅かしてやろうと思って、にゃはは。」
「むちゃくちゃ痛かったじゃんかよ!」
「様々な痛みに耐えてこそ、幸せになるのが人生だと思わない?」
ジュナスは頭を抱え込んでうずくまった。
昨日から痛いことばかりだ。
「つ〜か、普通は『だ〜れだ』ってやるときは目を隠さない?」
「あたしは常にオリジナリティを大切にしているのだ!」
えっへんとクレアが威張る。
ジュナスはようやく、何を言っても無駄だということが分かった。
「で?何か用?」
「あ、そうそう、シェルドが牢屋にいないんだけど?」
ジュナスは呆れる。
「…懲罰房のことね。昨日、スタンさんと一緒ならってことで出ていいことになったんだよ。」
「え、そうなの、それはヨカッタ。…あ〜、でもせっかく差し入れを買ってきたのに無駄になっちゃったねぇ。シャバに出てきてると知っていたら買わなかったのに。」
「クレア、あのねぇ…」
クレアはジュナスのツッコミを気にすることなく、周りをキョロキョロする。
「で、シェルドは何処にいるの。」
ジュナスは首を振る。
「それが、アナハイムの工場で仕事があるらしくてさ、いないんだよねぇ。」
ジュナスはため息をつく。
「一緒に遊びに行こうと思ってたんだけどさ。」
「ふ〜ん。」
クレアはそこで、にぱっと笑う。
「じゃ、あたしと遊びに行こうか?」


リックディアスのビームピストルはネモの盾に阻まれる。
そのまま接近してくるネモ。
ネモはビームライフルを捨て、サーベルを手にする。
リックディアスはビームピストルを打ちながらネモに突撃をかける。
二機のMSが交差する!
ネモはサーベルでの一撃をはずした。
リックディアスはビームピストルを捨て、サーベルを持ってすぐに方向修正、再び突撃する。
ネモの方向修正は間に合わない!
ネモは背後からサーベルの一撃を食らった…。
アラームが鳴る。
シュミレーションシートからケイが顔を出した。
「…完敗だね、こりゃ。」
シェルドもシートから出てくる。
「やった!」
二人ともボロボロである。
ほぼ、徹夜で戦っていたのだ。
ケイが疲れた笑みを浮かべる。
「ま、一夜漬けでこの成長は凄いんじゃない?」
「へへ、ありがとうございます。」
シェルドはまんざらでもない笑みを浮かべる。
ケイの大あくび。
「うん、アタシはもう寝る。」
シェルドは時計を見る。
大事な約束の時間には十分間に合う。
「あの、エレカ借りていっていいですか?」
「ん?今からアルビオンに戻るの?」
シェルドはケイの言葉に曖昧に応える。
ケイが投げたエレカのキーをキャッチする。
「ありがとうございます。」
「昨日も単独行動しておっさんに色々言われたんでしょ?大人しくしといたほうがいいんじゃないの?」
ケイがたしなめる。
シェルドは軽く笑みを浮かべてエレカに向かった。


「どうする?本当に冷やかしに行くの?」
ジュナスはエレカを操縦するクレアに質問する。
「と〜ぜん!忙しそうに働くシェルド君を励ましに行くの!」
クレアはノンキに鼻歌交じりで運転している。
ジュナスは人口の空を見上げる。
「邪魔しに行くの間違いじゃないの?」
エレカは街を駆け抜けてゆく。
その時、ジュナスの視界に入ったもの。
ベンチでウトウトしているシェルドだった。
「ちょ、クレア、ストップ!」
「え?」
エレカを急停止させる。
後続の車に文句を言われながら、慌てて路肩に寄せるクレア。
「もう、なによ!」
「いや、あれ、シェルドじゃない?」
ジュナスの指し示した方を見るとクレアにも眠そうなシェルドが目に入る。
「ホントだ、仕事をこんなところでサボってるなんて!」
「ったく、お〜い!シェ…」
クレアがジュナスの口をふさいだ。
「クレアなにすんだよ!」
「ちょっと待って、あれ!」
シェルドの前に濃い金髪の美少女がやってきた。
シェルドがはっと目を覚まし、笑顔を見せる。
二人は連れ立って歩き始めた。
ジュナスとクレアは顔を見合す。
「「どゆこと?」」
仲よさそうに歩く二人を見ながら、ジュナスとクレアは決意を固めた。
「これは…」
「調査の必要アリだね」
ジュナスの言葉をクレアが続ける。
ジュナスたちはシェルドの尾行を始めた。


シェルドとクレアはこそこそと隠れながら、道を歩いてゆく。
「…なんか昨日も尾行してた気がする」
ジュナスが呟く。
「ジュナス、二人がお店に入って行くよ!…ってこの店は!」
そこはクレアが昨日行ったイタリアンレストランであった。
「…罪人の身でデートとは、おのれぇい!」
「クレア、シェルドは謹慎であって、罪人じゃないよ、謹慎処分も取れたし…」
ジュナスの言葉をクレアは聞いちゃいない。
「私たちも店に入るよ、ジュナス!」
「う、うん…」
クレアたちも店に入ると、店員の案内も聞かずに上手く物陰に隠れてシェルドたちが見れる席に移動する。
「しかし、かわいい娘だなぁ」
ジュナスはじっと見つめる。
クレアは頷く。
「アタシより少し劣るけど、かわいいよね。」
「いや、クレアよりかわいいと思うけど、ナンパしたのかな、シェルド。」
「アタシより少し劣るとはいえあんなカワイイコをシェルドがナンパできると思えなくない?」
「たしかに、シェルドにそんな根性ないよなぁ。ましてやクレアなんかより断然かわいい娘だし。」
「でしょ?でも逆もありえないよね、アタシには劣るとはいえ、あんなカワイイコがシェルドを誘うわけないと思うし。」
「そうだね、クレアと違って断然かわいい娘がシェルドを誘うなんて、天地がひっくり返ってもありえないし。」
「…ねぇ、さっきからなんかムカつくんだけど、ジュナスの言葉。」
「…クレアがあんなにかわいい娘を侮辱するからだろ?」
ジュナスとクレアは店員の注文をとる言葉も無視して、にらみ合った。