「共に鼓動を聞く者たち」 343氏
「…孤児院?」
「そ、戦災孤児ってヤツ、今の時代なら珍しくないでしょ?」
エリスはシェルドに淋しげな笑いを浮かべる。
「あ、でも、みんないるから淋しくはないんだよ!親はいないけど家族はいるんだ」
エリスはパタパタと手を振る。
「みんなで力をあわせれば、生きていけるって分かってるから、キミのサイフを盗んだような人は許せないんだよね。そういう人って自分の不幸を理由に悪いことしてさ…。」
エリスは多弁だった。
己の正義感をペラペラと話す。
シェルドは困ってしまう。
デートのときの男女の会話ってこういうのだっけ?
と、エリスの会話が途切れる。
「…ごめんね、こんな話、ツマンナイよね。」
シェルドは慌てて否定する。
「そ、そんなことないよ、僕なんかよりしっかりした考え持っててスゴイと思うよ、ホント…。」
エリスの笑み。
とてもかわいいのだけれど、やはり、どこか淋しげで。
「…エリス…はいつもそういう顔で笑うの?」
シェルドの口をつく不意の言葉。
エリスは不思議そうな顔をする。
「どういう…顔してる?わたし」
「どうって、なんか淋しそうで…、あっごめん!」
シェルドは慌てて謝る。
エリスは笑顔で首を振る。
「いいよ、別に。…でも、そっか、そういう顔してたんだ、わたし」
エリスは思う。
いつからわたしはそういう顔をで笑うようになったのだろう?
エリスの笑顔にシェルドも合わせて笑う。
「あ、シェルドもだよ。」
「え?」
「淋しい笑顔。」
淋しげな笑顔を浮かべたまま、沈黙する二人。
ジュナスとクレアはバクバクとスパゲッティやらリゾットやらを食べながら、観察を続けていた。
「…もぐもぐ、何あれ、二人見詰め合っちゃってるよ!」
「…んぐんぐ、オサレ空間に浸ってるな!」
共に食べながら話す。
非常の行儀の悪い二人である。
クレアはストローで一気にオレンジジュースを飲み干す。
「つーか、あのシェルドの顔!あんな表情、あたしたちの前ではしたことないじゃん!」
ジュナスはスパゲッティを吸い上げる。
「あれが、ナンパモードのシェルドの顔なのか!」
積み上がる皿。
燃え上がる観察眼。
今、二人のテンションは超強気であった。
シェルドたちは店を出る。
エレカに向かうシェルド。
エリスへの別れの挨拶はなんと言えばいいだろう?
また会える…そう思いたい。
「シェルドはいつまでアンマンにいるの?」
「え?」
エリスの言葉になんと応えよう?
「…旅行者でしょ?急ぐ旅なの?」
「う、うん、明日にはここを出るんだ。」
そうだ、自分はもう連邦軍にいない。
旅行者なんだ。
「また、会えたらいいな、私のくだらない話を聞いてくれてありがとう!」
曇りのない笑顔だった。
寂しさは感じられない。
だからシェルドも同じような笑みを浮かべた。
「また、来るよ、絶対に会いに来るから。」
「約束?」
「約束!」
シェルドはエレカに乗り込む。
「じゃあね。」
「あ、ちょっとまって。」
エリスは屈んで、シェルドに口付けをした。
耳元でささやく。
「スキ」
ジュナスの顔が真っ赤になる。
エリスは「じゃあね」と手を振り走り去っていった。