【共に鼓動を聞く者たち】 343氏



「おい、お前ら〜、一時作業中止!」
「スタン君、別にかまわんが…。」
「いや、こういうのはきちっとやっとくべきですよ、おら止めろって言っててんだろ!」
スタンは作業中の少年の頭を殴る。
「いってぇ!」
「ほら、立て!」
「は、はい…。」
「おら、全員こちらに注目!アルビオンの艦長となったハワード・レクスラー少佐殿だ!」
怒鳴るスタンに苦笑いを浮かべながら、ハワードは自己紹介を始める。
「ハワード・レクスラーだ。アルビオンを預かることになった!この艦の働きは君たちに懸かっている。よろしく頼むぞ!」
酷くまばらな敬礼が見える。
スタンも思わず、苦笑いする。
「おし!お前ら作業にもどれ!」
奥へ進む二人。
白に青いペイントのガンダムが3体ある。
「RX-78 NT1通称アレックス、ニュータイプ専用ガンダムだと…。」
見上げるハワードにスタンは解説を続ける。
「なんでも、一年戦争末期に完成したらしいですが、いろいろあって解体処分、歴史の闇に葬られたはずですが、最近、図面を発見したもので…。テイラー大佐の努力が忍ばれますな。良くここまで持ってきたもんだ。」
「これを使うパイロットが新兵か…。」
再び来た道を戻る。
「スタン、感じはどうなんだ。」
「悪くはないです。ただ、ちょっと敏感すぎる。そうとうやれる奴じゃないと100%は乗りこなせないでしょうね。」
「そうか…。」

ハワードは作業に戻っている先ほどの少年を見た。
殴られたあとをさすっている。
(こんな少年が?戦時中でもあるまいし…)
「君、名前は?」
慌てて少年は起き上がる。
「シェルド・フォーリー伍長であります!」
「そうか、メカニック見習いか?」
「は、はい!」
「…そうか、がんばってくれたまえよ。」
シェルドの肩を軽く叩き、通路へ向かう。
「艦長、俺はここで作業をしていきます。」
「ああ、頼むぞスタン。」
「ハッ!」
ハワードは思案顔で通路を歩いてゆく。
ハワードは艦長室に入る。
「ふむ、整っているな。」
何処に隠していたのか焼酎のボトルを取り出し、戸棚にしまう。
「長い旅になりそうだからな。晩酌分は用意しとかんとな。」
さらに机に書類を置く。
が、ディスクだけは懐に入れる。
時計を見る。
そこで携帯通信機を開き、連絡を入れる。
「テイラー大佐、3時間後に哨戒任務のサラミスが出発のはずですが、そこに私の艦を入れて欲しい。」
「分かりました、レクスター少佐。」
「感謝します。」
一息つくかとイスに腰掛けたその時、ドアから声が響いた。
「艦長いらっしゃいますか?」
女性の声だ。
「どうぞ。…どなたかな?」
入ってきたのは小柄な女性。きびきびとした動きで、艦長の前に来る。
「ミリアム・エリン大尉です!補佐官として同行させていただきます!」
ハワードはゆっくり立って敬礼する。
「ご苦労である!…ミリアム大尉、肩こらんかね?」
「…少佐、書類をご覧になったのですね。」
ミリアムは机にある書類を発見し、責めるような目でハワードを見る。
「…そうだが。」
「失礼ですが、少佐!書類に目を通したのならば、部下のことをしっかり把握していただきたいです。」
「…まだ、進水式もまだだ。そう急くな大尉。」
ミリアムはため息をつく。
「少佐は今回の任務の重要さを理解しているはずです。」
ハワードは鋭く睨む。
ミリアムは虚を疲れた表情だ。
ハワードは低く、押し殺した声で言った。
「ただの哨戒任務だ。気を張るな大尉。」
「…は、はい。」
「では行こう、大尉。部下を把握せねばな。」
「りょ、了解。」
二人は艦長室を出た。

ブリッジにはオペレーターのアヤカ・ハットリ、ブランド・フリーズが世間話をしていた。
「いやねぇ、アヤカちゃん。ルナ2基地はむさい男ばかり。カワイイコがいないし…。今回のクルーもイマイチよねぇ…。」
操舵のウッヒ・ミュラーをみるブランド。
ブランドに見られていることを知ったウッヒは冷や汗かいてその場を逃げる。
「そりゃ、まあ、ブラントさんの好みはいないかもしれませんねぇ。」
(逆にブラントさんが好みだという人もいないと思うけど…)
アヤカは心の中で付け加える。
「なによ、アヤカはだれかいるの?」
「なぁに、言ってるんですか!いるわけないじゃないですか〜。」
実際、ルナ2基地には普通は新兵は配置されない。
連邦の重要拠点であるがゆえに、ベテランたちの割合が多い。
一方で女性兵士の多くは若い者が多いのは上層部の趣味なのだろうか?
「男はおっさんばかりだもんねぇ…。食べごろがいないっていうか。」
「食べごろって言い方は止めてくださいよ〜。」
ブジッジへ、ハワードとミリアムが入ってくる。
「艦長を務めることになったハワード・レクスターだ。皆さんよろしく。」
思いっきり適当な挨拶にミリアムが動揺する。
それでもブラントとアヤカは軍人の顔に戻った。
「オペレータを務めます、ブランド・フリーズ准尉です!」
「同じく、オペレーターのアヤカ・ハットリ伍長です!」
ハワードは笑みを浮かべていった。
「元気でよろしい、ま、楽にしなさい。」
ブラントもアヤカも少し力が抜ける。
「あとはパイロットを見ときたいが、大尉?」
「はい、ではこちらへ…。」
ブリッジを出て行くハワードとミリアムをみてアヤカが言った。
「見た目より結構いい人そうですね、艦長。」
「そうね、好みじゃないけど、悪くはないわね。」

シュミレーターの前で少年が二人。
「ルロイ、今日は負けねぇぞ!」
「ジュナスは接近戦に持ち込まれなけりゃ、楽勝だからな〜。」
「何を〜!」
「ホントのことだろ〜、ハハ!」
ドアが開き、ハワードとミリアムが入ってくる。
「ルロイ准尉、ジュナス准尉!」
「は、ハイ!」
二人は直立して、敬礼する。
「こちらがレクスター少佐、本艦の艦長だ。」
「ルロイ・ギリアム准尉であります!よろしくお願いしたします!」
「ジュナス・リアム准尉です!よろしくお願いしたします!」
苦笑いでミリアムを見てから、ハワードは二人の少年に目を向ける。
「期待の新兵だな。頼むぞ。…ところで新兵は三人いるとの話だったが…。」
と、再びドアが開き、クレア・ヒースローが呑気な声付きで入ってきた。
「ち〜っす!、お前らジュース、パクってきたよ〜ん…ってあら?」
クレアが見たものは、やば〜って顔のルロイとジュナス、苦笑いのハワード、そして怒りで肩が震えているミリアム…。
「クレア准尉!」
「は、はひぃい!」
「まあ、落ち着け大尉。」
笑いながらのハワードの注意にミリアムはさらに激昂する。
「少佐!こういう小さな規律違反が全体の腐敗に繋がるのです!お分かりでしょう!」
ミリアムに責められ、ハワードも少したじろぐ。
ハワードはクレアを眺め、とりあえず注意を促すことにした。
「…ふむ、まあ、クレア准尉!」
「は、はい!」
「今度はもっと慎重に行動しなさい。」
「はい!」
ミリアムがさらに抗議の声を上げようとしたとき、シュミレーターの奥から光る物体が現れた。
「うるせぇな、さっきから!」
「あ、ハゲ・ダーム少尉!」
クレアの言葉に過剰反応する男。
「ハゲって言うな!俺はドク・ダームだって言ってるだろクソアマ!」
「ドク・ダーム少尉?」
ハワードが話しかける。
「君がMSパイロットの熟練者か。」
鼻で笑いながら答えるドク。
「そんなとこだ。アンタが艦長か、爺さん。」
「せめて、おっさんにしてくれ、ダーム少尉。」
それを聞き、ドクは甲高い声で笑い始める。
ミリアムが不快そうに顔をゆがめる。
「わかったよ、おっさん。ま、適当に頼むぜ。」