「共に鼓動を聞く者たち」 343氏




アルビオンのMSデッキにはリックディアスが並んでいた。
さらには三体のアレックス。
「壮観な眺めだな、これは。」
ミリアムを横に従え、ハワードは戦力の要を見上げていた。
キリシマが横にやってきて、話す。
「6体のガンダム、豪華な話ですわね。」
「6体?」
ミリアムの疑問にキリシマが説明する。
「ええ、リックディアスもプロット段階ではガンダムと呼ばれてましたのよ」
へぇと感心するミリアム。
無知な女士官様はめでてぇなぁ。
キリシマはそんな感情を表に出さない。
「無知な女士官様はめでてぇなぁ。」
男の声だった。
「こいつはそう思ってるんですよ、大尉。」
キリシマの後ろから顔を出したのはビリー・ブレイズだった。
「な?ビリーさん、何を言ってらっしゃるのですか?」
キリシマに悪寒が走る。
厄介かつウザイ男が出てきた。
「ウザイやつが出てきたと思ったでしょ?姐さん?」
「な、何を言ってらっしゃいますのかしら、オホホ。」
キリシマに冷や汗。
不思議そうに眺めるハワードとミリアム。
ビリーとキリシマはアナハイムでの同期であった。
ビリーはテストパイロットとして、キリシマはエンジニアとして。
ビリーは知っている。
キリシマが新入社員歓迎会での酒乱ぶり。
その時点での男振り。
すでにアナハイム内ではどうつくろっても無駄だった。
「俺、彼女に思考が読めるんですよ」
「はぁ…。」
ビリーの言葉にミリアムがよく分からない返事をする。
ビリーの満面の笑顔にキリシマは心で毒つく。
くたばれ、クソガキ!
「また読めた。『くたばれ、クソガキ!』か…。おれってニュータイプかも。」
ビリーの得意げな顔に、キリシマはこめかみ震わせていた。

MSデッキでリックディアスを見上げてたのはハワードたちだけではない。
ジュナスとクレアも見上げていた。
そこにシェルドがやって来る。
ジュナスとクレアは突如向き合った。
「『いつもそういう顔で笑うの?』」
ジュナスの言葉に、クレアが顔を赤らめて言う。
「『どういう…顔してる?わたし』」
シェルドの顔が青ざめ、赤くなる。
そして彼の拳は震えた。
「ジュナス!クレア!覗き見してたのか!」
シェルドの怒りもよそにジュナスは続ける。
「『なんか淋しそうで…』」
クレアもノリノリである。
「『シェルドもだよ。』」
「あのなぁ!」
シェルドの怒りに、ジュナスとクレアは噴出す。
「「ギャハハハハ!」」
そして、アルビオン中での三人の鬼ごっこが始った。


アルビオンの出港が迫る。
スタンは見送りに来たケイから弁当を渡される。
「お?」
中身を覗き見するスタン。
ケイは呆れたように話す。
「ミンミに余計なこと話したろ?」
「は?」
「ミンミのヤツ、『師匠は料理も出るんでありますか?大師匠からお聞きしました。自分も教えて欲しいであります!』ってさ」
ケイのモノマネにスタンは噴出す。
ケイはため息をつきながら話す。
「で、色々作ったから余りものを適当に詰め込んどいた」
「いやぁ、久々だなぁ、お前の作ったもの。サンキュな」
スタンは素直に感謝する。
「別に、残飯処理頼んでるようなもんだよ」
ケイはそっぽを向く。
スタンはがははと笑いつつ言う。
「いや、それでもうれしいよ。ケイ、愛してるぜ」
ケイは顔を赤くして叫ぶ。
「フザけたこといってんじゃねぇ!」
「すいませんねぇ、ふざけて。」
スタンはへらへらと笑っている。
…本当に、ふざけるのは止めて欲しい。
スタンはアルビオンに乗り込む。
「じゃあな、ケイ。またな。」
「二度と面見せるんじゃねぇ。」
「きびし〜な、オイ。」
こうして師弟は再び分かれる。
「『またな』っか」
ケイはその言葉を聞いて少し安心する。
アルビオンを見上げる。
「またね、おっさん」

アルビオンの出港ルートはアンマンを出て月面沿いにグラナダに向かい、その後上昇。
少しでもティターンズの兵隊を引きつれ、オトリになって、その後はジャブロー攻撃作戦への援護ということになっている。
アーガマには出来るだけ、ティターンズをくっつけたくないと言うのが上層部の意向らしい。
ディスクの内容を読んだときに嘆息したが、まあ、妥当な作戦である。
ジャブロー進攻に関してはクワトロ大尉が反対するかもしれないと言うことだが、どうなのだろうか?
地球の引力に魂を引かれた者たちが、地球の拠点を失うというのは面白いかもしれない。
そんなことを考えつつ、ハワードは艦長席に座っていた。
横にいるミリアムが不安を口にする。
「わたしたちにオトリが務まるでしょうか?」
「務めるのだ、大尉」
ハワードはやや口調がきつくなってしまったのを後悔して嘆息する。
ウッヒの報告が入る。
「グラナダのゲート近辺に到達しました。」
「よし、上昇して!」
ミリアムの指令どおりにアルビオンは再び宙空に上がった。