「共に鼓動を聞く者たち」 343氏



ルナ2の指令参謀室にいたニキはその報告に顔をしかめた。
厄介なのが来た。
それが報告への感想だ。
「…長旅でお疲れでしょうから、丁重にお向かいさせて頂きなさい。」
報告に来た部下にそれだけ告げる。
ハワード艦長は上手く月に行けたのかもしれない。
彼らがここに来ると言うことはその公算は大きい。
そうなれば、自分の仕事はもう終わったようなもの。
今更何を恐れると言うのだろう。
軍法会議?軍事法廷?懲罰?それとも…。
ニキは薄く笑った。
ここからは個人の問題だ。
自分が口を割らなければ、もはや大局には影響はない。
ニキは立ち上がり、ジャケットを着込むとゲストルームに向かう。
中には勝気な表情をした長髪の女性士官がレッドベレーの副官と共に足を組んでソファに座っていた。
ニキの敬礼にレッドベレーはすぐさま敬礼を取ったが、勝気な女性の敬礼は随分と緩慢な動きだった。
「ようこそ、ルナ2へ、ソニア・ヘイン少佐、フレイ・リーゼンシュタイン大尉」
「大佐、どうも世話になるよ」
ソニアの口調は上官次第では叱責されるだろう。
ニキとソニアの視線がぶつかる。
「少佐、アルビオンの追跡は?」
「厄介だよ、やはりガンダムタイプが積んであるペガサス級と戦うのに、サラミスとガルバルディ3機じゃ分が悪いねぇ」
ソニアはため息をつく。
「おまけにこちらのパイロットの一人は新兵同然なんでね」
ニキはソニアの愚痴の多さに満足した。
彼らが苦戦を強いられたということは、自分の準備は間違っていなかった証拠である。
優秀だと思われる人材を集めたとはいえ、いきなり組ませた部隊だ。
少々、不安だったのだ。
「おやおや、ソニア少佐ともあろう方が随分と弱気なのですね」
ニキの皮肉にフレイが憮然と応える。
「我々は確実に仕事をこなしたいだけだ。そのために、現状の戦力では難しいと言っているのだ。」
「そういうことだね」
ソニアが不適に笑う。
ニキもその笑みに応える。
「分かります。出来る限り協力しますよ。…我々の落ち度で裏切り者を出した。その後始末を手伝うのは当然のことですからね。」


ソニアはあてがわれた自分の部屋に、フレイ、グレッグ、ラナロウを呼び寄せた。
フレイが意見する。
「問題は誰がメインとなってアルビオンの艦、クルーを集めたかですね」
「あのニキのおねえさんじゃないのかい?」
ソニアがあくびして話す。
ラナロウはニヤリと笑う。
「士官学校主席卒業のお嬢さんか。」
フレイがラナロウを見る。
「知ってるのか?」
「MS教習で一緒になったことがあるぜ、偉そうにしてて、カタイ女だったけど、ちょっと脅かしてやったらかわいい悲鳴を上げてたぜ。」
ラナロウの顔を見てグレッグが呆れている。
「…ずいぶんと嬉しそうだな、ラナロウ」
へっと笑ってるラナロウにソニアが解説する。
「コイツは自分と違ってエリートで頭のいいヤツが嫌いなんだろうよ。バカでどうしようもないガキだってこと少しは自覚してるようだねぇ」
ラナロウは顔を紅潮させる。
グレッグはがははと笑う。
フレイですらこらえた笑いが漏れている。
ソニアはニヤついた顔から真顔に戻る。
「アタシの勘ではニキ・テイラーだね。」
フレイが訊ねる。
「しかし、証拠もありませんし、アルビオンに関しては彼女だけが絡んでるわけではないんですよ?こと、ガンダムの調達、オペレーターにMSパイロットなども考えると…。」
「考えると?」
「ルナ2どころか、連邦の上官のほとんどの顔が浮かんできますよ。なんたってティターンズまで関係してきますからね。」
「へぇ…。」
フレイの言葉にソニアは感心する。
「それだけ、ニキが上手くやったって事じゃないのかい?」
フレイはソニアに書類を見せる。
それにはアルビオンのスタッフの詳細が書かれていた。
ソニアはあくびをかみ殺す。
「前にも見たよ、これ」
フレイは首を振る。
「付け足しがあります、MSパイロットのところ。」
「…!」
ソニアが驚愕の表情を浮かべる。
「姐さん、どうした?」
質問するグレッグに書類を渡す。
グレッグも書類に目を落とし、ラナロウも覗き見る。
今度はソニアがフレイに訊ねる。
「ルロイ・ギリアムってのはニュータイプなのかい?」
「オーガスタではそういわれているようです。で、そこの関係者というのがティターンズとつながりが深いそうです。」
ラナロウはバカにしたように言う。
「隊長、ニュータイプなんて本当に信じるのかよ?」
グレッグも頷く。
「俺も小僧に同意だ、そんなの迷信に決まってるぜ。」
ソニアは自嘲気味に笑った。
「いると信じた方が精神衛生上、いいんじゃないかねぇ、ウチらが負けた言い訳にもなるさ…。」