「共に鼓動を聞く者たち」 343氏




「よう、新入り、やるじゃねぇか。」
スタンの声にビリーが振り向く。
「や、どーも、こんなもんすよ。」
ビリーはMS格納庫でスタンバイを続けていた。
スタンはメンテを終えた模様で、しばし休憩を取るようだ。
「余裕だな。」
「まあ、そうですね。」
ビリーは得意げな笑みを浮かべる。
スタンは疑問をぶつける。
「軍事企業のMSパイロット…、という割には腕が良過ぎる、というか実戦慣れしてるな?」
ビリーは肩をすくめる。
「ここが他人の過去を気にするような場所だとは思いませんでしたよ。」
「いや、個人的に疑問に思っただけだよ、ガキどもを死なせたくないしな。」
二人の視線の向こうにはしゃいでいるジュナス、クレア、ルロイが見える。
「一緒に戦うやつがどんなヤツか、知っておきてぇ、話せる範囲でいいから教えてくれよ。」
ビリーは苦笑する。
「一言でいいですか?」
「ん?」
「俺、サイド3出身。」
スタンは顎の無精ひげを触る。
「なるほどな…。」
遠くではクレアがジュナスに左ハイキックを浴びせている。
先ほどの戦闘でアレックスがハイザックに対して行った動きのように。
抗議しているジュナスに、拍手をしているルロイ。
スタンはぼやく。
「なんで、リックディアスが3機でパイロットは一人なんだ。おかしいぜ、この補給。」
ビリーが応える。
「ちゃんと人数分、パイロットもそろえるつもりだったらしいんですけど、断られたみたいで。」
「へぇ…。」
「ブラッドとニードルって言うらしいんですけどね。」
スタンが驚愕の表情でビリーを見る。
ビリーは笑う。
「まあ、もらわないほうがいい補給もあるってことで。」

コンペイトウより来た援軍は、ガイをイラつかせた。
やってきた人物が問題である。
ガルン・ルーファス中佐。
数々の実戦を潜り抜けてきた男である。
彼が来たということは、アルビオンの追撃艦隊の指揮権が、ガイにはもうないということである。
「随分な、やられようだな、少佐。」
ガイがガルンの艦に挨拶に行ったときの第一声である。
よりによって、ガルンの乗ってきた艦は自分が熱望したアレキサンドリア級だった。
載せているのはハイザック、そして見慣れない新型。
マラサイという、アナハイムから譲り受けたもので、RMS-108という型番をつけての量産が決まったらしい。
「すれ違いだな、アーガマが月に入ってるそうだ。アルビオンは先に出た。合流するのかと思ってたのだが、何か単独での任務があるのかもしれん。」
ガルンは蓄えた髭をなぞる。
ガイがガルンに詰め寄る。
「自分に汚名返上の機会を下さい!」
ガルンは重々しく頷いた。
「当然だ、ガイ。君の本来の実力を見せてもらおう。マラサイも持って行きたまえ。」
ガイは敬礼して去る。
それを見届けた後、ガルンの後方より声がかかる。
「…無理だな。」
声を発した片目の男は近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「オグマ、失礼だぞ。」
ガルンの声にオグマはせせら笑う。
「…そうか、じゃあ、あいつに任せよう。俺は見物することにするさ、汚名返上のチャンスを奪うわけには行かないだろうしな。」
ガルンは首を振る。
「いや、出てもらうぞ、一気に片をつけたいしな。」
「断る。相手はガキなんだろ?ガキとは戦わない。」
オグマの階級章は大尉。
口答えできる身分ではないハズなのだが…。
ガルンはため息をつくだけだった。


アルビオンのブリッジは警戒を解いていない。
一度は振り切った敵艦隊の熱源を再び確認したとの報告が入る。
二つの艦艇が追加された形で。
「少しばかり相手の補給が多すぎるかもな…。」
ハワードは唸る。
「…多少の損傷は覚悟しなければいけないかもしれませんね。」
ミリアムが唾を飲み込む。
アヤカの報告が入る。
「識別コード確認!艦艇で確認されてるのは5つ。サラミス級3、マゼラン級1、アレキサンドリア級1」
ハワードはすぐに反応する。
「相手の配置は?」
今度はブランドが応える。
「正面にマゼラン、両サイドにサラミス2です。増援されたと思われるアレキサンドリアとサラミスは後方にいます。」
ハワードが頷くとすぐさま指示する。
「後手に回りたくない、ミノフスキー粒子散布のうえで、アレックスを展開させておけ!アルビオンの影に入るようにな」

クレアが小声で呟く。
「クレア・ヒースロー、アレックス、いきま〜す…」
意外な通信にアヤカが思わず訊ねる。
「どしたの、クレアちゃん?」
「いや、隠れてろって話なんでしょ?」
「だからって、別にここで大声を出しても相手には聞こえないでしょ。」
「あ、そっか。」
アヤカがクスクスと笑うと、クレアはニカニカと笑う。
そして、大音量。
「クッレア・ヒィィィスロォォォオ!いっきまぁぁあっす!」
「うあ、っつぅぅ…」
思わず、アヤカはヘッドフォンをはずす。
ブランドは不思議な顔をしてアヤカを見る。
「いや、なんでもないです、アハハ」
アヤカはハァとため息をつく。

すでに射出されていたジュナス機とルロイ機をクレアは発見し、合流する。
ジュナスがクレアに通信を入れる。
ミノフスキー粒子のせいで、通信は荒れる。
「クレア、こっちこっち。」
「ミノフスキー粒子のせいで溺れそうだっ!」
アレックスは敵艦の視認から隠れられるように影に入る。
ルロイが不安げに呟く。
「前の戦闘よりも数が多そうだね…。」
ジュナスが同意する。
「そうだね…、でも問題はパイロットの腕だよ。ここまで来れたんだ、普通の敵なら負けない!」
クレアが茶化す。
「お〜、ジュナス君、強気〜。」

ガイはマラサイに乗り込んでいた。
コルトはもう何度目かの質問を投げかける。
「少佐、本気で出るんですか?」
「何度も言わせるな!伊達に一年戦争を生き抜いてきたわけではないことを思い知らせてやる!」
コルトは、上官を思い止まらせるのを断念した。
「こりゃ、何言ってもだめだな…」
ハイザックのシートにもたれかかる。
新型がどの程度かは分からないが、ハイザックよりは上だろう。
出来れば自分が乗りたかった。
まあ、でも今回の戦いが終われば、自分にも回ってくるだろう。
コルトはそうは思いつつも、このハイザックで以前に翻弄されただけに、不安である。
「ハイザックであのガンダムに勝つのは不可能なんじゃないか?」
生き残るのも怪しい。
出来れば新型に乗って生存率を上げたいところだったが…。
「ま、少佐が大活躍すれば、万々歳。後方でのサポートに徹してればなんとかなるだろ。」
「マラサイで出るぞ!」
ガイの機体が飛び出してゆく。
コルトもさすがに気を引き締めた。