「共に鼓動を聞く者たち」 343氏




ブリッジでアヤカが報告する。
「敵機確認!識別…、マラサイ?アナハイムからもらったデータにある新型機です!」
驚愕の表情のミリアム。
ハワードはアヤカに指示する。
「すぐにリックディアスを発進させろ!あと…スタンを呼びだせ!」
「なんでしょう?艦長?」
すぐにスタンがモニターに出てくる。
「アヤカ君、すぐにスタンにデータを送ってやれ、何か分かるか?」
「エゥーゴが採用予定の量産機?月ではネモっていうのが採用されたという話でしたが…。」
ミリアムが呟く。
「…アナハイムが、裏切った?」
「スペックではリックディアスの方が上です!勝てますよ!」
スタンが断言する。
心で「パイロットが上手くやれば」と付け加えて。
「頼むぜ…シェルド」

リックディアスのシェルドに通信が入る。
スタンからだ。
「すまねぇな、本当はもっと訓練させてからお前を使うつもりだったんだが、あの数じゃな。」
「いつかは戦うつもりだったんです!大丈夫です!」
「しくじるなよ」
シェルドはフッと息を吐き出す。
落ち着け…落ち着けば、やれる。
ビリーの声が入る。
「ハゲのおっさんが前に出たがってるから俺らは援護だ。気楽に行こうぜ。」
「…でも相手はこちらの倍ですよ。」
見える機影はハイザック5にマラサイ1。
「互角じゃねぇか、ガンダムいれればよ!」
ビリーの声の直後、響く奇声。
「シャーッ!斬る!斬る!斬ってやるゥウ!」
高いテンションのドクがハイザックに飛び込んで行く!
シェルドはクレイバズーカで敵の足止めに懸かる。
ドクの機体の周りに敵が張り付かないように、打ち込む!
が、ドクは3機を相手にするハメになる。
ビリーの援護がない!?
赤い機影がビリーに張り付いていた。
「くそっ!」
ビリーはバズーカを捨て、サーベルで応戦する。
シェルドにはそちらを注視する余裕はない。
ハイザック2機を足止めさせるべく、立て続けにバズーカを放つ!
ドクはかなりうまく立ち回っているが、5機で攻められたらさすがに持たないだろう。
3機でも苦しい。
「くっそぉー!」
シェルドはけん制で撃っているつもりだ。
無論当てる気がないとけん制にはならないので、標準はあわせるようにしているが、それよりも撃つことに集中していた。
が、次の瞬間、シェルドの標的は爆ぜた。
クレイバズーカがついに命中したのだ。
「数撃ってれば当たるもんなんだな…。」
初めて敵機を撃墜したというのに、シェルドは自分でも不思議なくらい落ち着いていた。
と、もう一機のハイザックがシェルドに迫る!
シェルドは敵の動きからその怒りを感じ取った。
相手は一直線に向かってくる。
無謀な動き。
「この一撃で…墜としてみせる!!」
すぐさまビームピストルで応戦し、シェルドは二機目を撃破した。
「迂闊なんだよ…」
爆発の光にさらされながら、シェルドは交戦するドクの援護に向かう。


ジュナスらアレックス勢にブリッジのミリアムから通信が入る。
「前方の戦闘を迂回して、艦隊に攻撃を仕掛けて!目標はマゼラン級!ヒット&アウェイで、すぐに戻ってくるのよ!」
「了解!」
ジュナスらは一気にバーニアを吹かせて、敵艦隊に向かって行く。

ガイは相手の動きに翻弄されていた。
「くっ!相手は重モビルスーツだというのに、この動きは!」
相手のサーベルを慌てて盾で受け止める。
ビリーも焦る。
「こいつを早く仕留めないと、ハゲがやべぇ!」
相手のサーベルをかわしつつ、バルカンで距離を取る。
「くっ!」
ガイは盾で身を覆う。
そして再び前方を見たとき、敵影は見えない
「なっ!どこだっ!」
「こっちだよ!」
ビリーはマラサイの上方より一気にサーベルを突き刺す!
「し、しまった!」
マラサイが爆発を起こす。
「攻撃が前や横からとは限らないってね。」
ビリーは誰ともなく呟くと、ドクの加勢に回る。

コルトは部下が目の前の狂ったようにサーベルを振り回す敵にやられたのを見た。
焦り、上官の状況を確認しようとするが、マラサイは見当たらない。
「ま、まさか!そんなことが…、くそぉ!」
敵機が左右より迫ってくる。
コルトは部下を一人戦わせたまま、無言で「転進」を始めた。
バーニアをいっぱいに吹かせ、母艦であるマゼランに戻る。
艦隊付近に着いたとき、アレクサンドリアが対空砲火をしているのが見えた。
そして、大きな爆発!
マゼランは見つからなかった。
「な、なんだ…?何が起きてんだ!?」
と、白い三つの機体がもの凄い速度で通り過ぎてゆく。
アレクサンドリアからの通信で状況を理解すると、コルトは冷や汗と震えが止まらなくなった。

「何と他愛の無い!!怪獣一食とは…あれ?なんか違うな…。」
クレアは撃破したマゼランの爆発を後ろに見ながら、意味不明の言葉を呟く。
「…しつこく追ってこなければ、こうはならなかったのにっていうのは少し自己中心的かな?」
「相手もじこちゅ〜だから全然おっけ〜!」
ルロイの言葉にクレアが返す。
ジュナスはアルビオンのほうを見やる。
「シェルドは大丈夫かな?」
「きっと大丈夫!そんなやわに育てた覚えはありません!」
「え?クレアってシェルドのお母さんだったの?」
先ほど、一瞬のうちに戦艦を沈めた兵士たちは能天気な会話を繰り返していた。

「お前も斬るゥウ!」
ドクは眼前のハイザックを叩ききった!
「あ、もう終わりかよ?…うぁぁぁぁッ!つまんねぇぞぉぉぉ!」
結局、向かってきた敵機をほぼ返り討ちにしてしまった。
リックディアス隊の恐ろしい戦闘力を見てブリッジのハワードは首を振る。
「やれやれ、敵には回したくないな。」


「とんでもないヤツを敵に回してしまったな…」
ガルン・ルーファスは戦慄を覚えていた。
まさか、マゼランまで失うような失態を犯すとは。
「オグマが出ていれば…」
いや、それでも難しいだろう。
相手は高級モビルスーツを取り揃えている。
ということは腕のいいパイロットが揃っているということでもあるのだ。
こちらの量産期主体の部隊では、難しいかもしれない。
ガルンにそんな考えが頭をよぎる。
が、自ら首を振り、否定する。
「言い訳はよくないな。」
マゼランから生き残りの兵を救出する。
兵員、MSの数から言ってもまだ、追撃は取れる。
だが、慎重を期すべきか?
補給を受ける。
恥をかいてもさらに補給を受けて…。
いや、だめだ。
「オグマを呼べ。」
オペレーターに指示する。
ガルンは気に入らない。
相手の戦力なら、このまま一気呵成に攻めればこちらに更なる打撃を与えられるかもしれないというのに…。
「なぜ、してこない?」
向こうから攻めてくる気配がない。
露払いしつつ、彼らは何処に向かっている?
オグマがあくびをしつつブリッジに入ってくる。
「お?ガイのヤツ、負けたのかい?」
「貴様…、寝ていたのか、戦闘中に!」
オグマは意に返さない。
「だから、アイツじゃ無理だと言ったろ?」
「見物するとも言ってたぞ!寝ているとはどういうことだ!」
オグマは肩をすくめる。
「アンタの艦は、とても快適でね。それに、こんな戦闘で艦を沈めるほど、アンタは間抜けじゃない。」
ガルンは鼻息荒く、オグマに詰め寄る。
「弔い合戦だ、出てもらうぞ大尉!」
オグマはブリッジを出て行こうとする。
ガルンはその背に叫ぶ。
「何処に行く気だ!」
「MSデッキ。」
オグマはその一言と共にブリッジから消えた。