「共に鼓動を聞く者たち」 343氏




リックディアスのクレイバズーカがデニス機を襲う。
ルロイ機はアレックスの中で唯一、まともに機能していた。
デニス機とも互角にやりあい、スキをうかがっていた。
だから、このチャンスを逃すことはなかった。
「…これでどうだっ!」
ルロイ機の放ったライフルの光は敵機のスラスターに命中した。
デニスが舌打ちする。
「ちぃっ!ぬかったか!」
デニス機はバランスを崩しながら退いて行く。

「撤退する!」
オグマのコクピッドにデニスの声が聞こえる。
おいおい、勘弁してくれ、これからだろ?
まぁ、ジェシカは残ってる。
まだいけるか。
「…勝手にしろ。」
「すまねぇ!」
オグマは返答を終えるとリックディアスに切りかかる。
背後からマシンガンの援護。
ほぉ、分かってるじゃないか!
「…もらった!」
「うお!」
ビリーは慌てて、バズーカでサーベルを受け止める。
そのままバズーカを手放し、ビームピストルで応戦する。
「ビリーさんっ!」
「シェルド!お前はクレアの援護を続けろ!」
通信しつつも、意識は敵機に向けておく。
相手の技量に驚きを隠せない。
後退しながらビームピストルを打ち続ける。
もう、相手の援護のマシンガンは気にしてはいられない。
キリシマの賞賛したリックディアスの装甲を信じる。
ハイザックの群れに突っ込むドク機が見えた。

「シャーッ!斬って斬って斬りまくるゥゥウ!」
ドクは興奮状態でハイザックに踊りかかる。
脇に白いMSが見えた。
ルロイ機だ。
「ジャマすんなよぉ!」
ドク機がハイザックがヒートトマホークを抜く前に一機片付ける。
と、上方をミサイルが通り過ぎる。
アルビオンのミサイルが、サラミスに突き刺さった!

「オグマッ!ジェシカッ!退くんだ!」
ガルンの声にジェシカは吐き捨てる。
「なぜっ!今ここで決着をつける!」
「こっちも損傷が激しい!今は決着をつけなくてもいいっ!」
ジェシカ機はクレア機にライフルを打ち込みつつ撤退する。
クレアはそれらをかわしきると、敵の動きに安堵する。
「…た、助かった。」


アルビオンのブリッジはサラミスの爆発を確認する。
「よし、上首尾だ。アレックスの収容をしつつ、この空域を離れるぞ!」
ハワードの指示にウッヒ返答する。
「了解!」
アヤカはモニターに映ったジュナスの表情を見る。
疲弊しきった少年の顔が、戦闘の厳しさを物語っていた。
ルロイ機も戻ってきたようだ。
「アヤカさん、ごめん、アルビオン被弾しちゃいましたね…。」
生真面目に謝る少年にアヤカは笑う。
「まったくよ!頼りにならないんだからっ!」
アヤカの目には光るものがあった。

ジュナスが疲労しきった身体をシートから浮かせる。
右腕部のない自分の乗機を見る。
技術班が消化剤をかけている。
近づいてくる人影。
クレアだった。
「ジュナスっ!大丈夫?生きてる?」
「なんとか…」
ジュナスは疲れた身体をクレアに向ける。
クレアは無重力の中でバランスを崩す。
彼女も相当に疲れているのだ。
ジュナスはかろうじて彼女を受け止めることが出来た。
「…とっ、クレアこそ大丈夫?」
「はは、ごめん、疲れちゃった。」
ジュナスはクレアの震えに気付く。
疲れてるだけではない、怖かったのだ。
「とりあえず、ここを離れよう…。」
「ん。」
二人は疲れた身体をお互いに支えあいながら、ドレスルームへ向かった。


「…無様だな。」
オグマはMSデッキで自機を見て呟く。
俺も出撃前に見たコルトとかいうヤツと似たようなものだ。
自虐的な考えが頭に浮かぶ。
「隊長」
ジェシカが呼ぶ声がする。
振り向くと、デニスもいた。
「艦長が呼んでる」
ため息ついてガルンのいるブリッジに向かう。
ジェシカは戦闘で鬱憤を晴らしたのか?
静かにしている。
デニスはいつもはニヤけているが、今は自重しているようだ。
自分の醜態を意識しているのだろう。
ブリッジに着くと、疲れた顔をしたガルンがこちらに気付く。
「大尉、我々の完敗だな。」
「アンタが退却命令を出さなければ、俺がアルビオンを墜としていた。」
オグマは表情を変えず、ハッキリと言い切った。
「ジェシカ少尉もそう言っていたな。」
ガルンが首を振る。
「しかし、こちらは艦を3隻も沈められたのだぞ。これ以上の戦闘は…。」
オグマは先程から全く表情を変えない。
その片目から侮蔑の視線が発せられる。
「これは大戦ではない、我々と敵でその損傷、消耗を比べあっているのではない。こちらがどれだけ消耗しようとアルビオンを沈めれば勝ち、逃がせば負けだ。」
ブリッジにいるものが全て沈黙していた。
ガルンは思う。
オグマは正しい。
が、出来ればあまり消耗せずに、正確には自分がその消耗の中に入ることなく勝ちたい。
「アンタは自分の艦を沈めたことがない。優秀な艦長、船乗りだ。」
オグマは初めて表情を変えた。
怒り、だろうか?
「だが、テメエの艦を沈めてでも勝とうとか、たまには考えてみたらどうなんだい?」



ルナ2の一室。
ソニアはフレイの報告を聞いて、笑みがこぼれる。
アルビオンが地球に向かってきている。
「遠出をする手間が省けた。」
率直な感想である。
フレイため息をつく。
「わざわざ月に行くことになるかと?」
「少し、考えていた。」
「ニキ・テイラーはどうします?」
「連れて行く。そのまま、お偉いさん方に預ける。」
ソニアは席を立つ。
フレイは尋ねる。
「どこへ?」
「ニキのトコ。」

監禁されているニキを愉快そうに眺める男がいた。
ラナロウ・シェイドである。
隣の房に入れられているエイブラム・ラムザットは実に不愉快そうである。
「よう、気分はどうよ?」
ラナロウの声にニキは無反応だ。
が、構わず続けた。
「本当はピーピー泣きたいところなんじゃねぇの?惨めな気分なんじゃねぇの?」
反応があったのはエイブラムの方である。
「貴様!大佐になんて口を!」
「もう、大佐じゃなくなるもん、この女」
言い争いを始める二人にニキは閉口した。
「うるさいよ!」
二人の言い争いをとめる声。
ソニアのものだ。
「ったく、ラナロウも暇してるんだったら、トレーニングでもしてな!」
ソニアについてきたフレイが言う。
「ラナロウはニキ・テイラーが気になるようですね。」
「…へぇ」
二人の女性士官に意味深な目で見られ、ラナロウは焦る。
「な、どういう意味だよ!」
ソニアが呆れる。
「何を焦ってるんだか…、すいませんねぇ、大佐。」
話を向けられたニキはため息をつく。
「…彼はまだ根に持っているようですね。」
「ん?」
「…MS教習で私が彼を打ち負かせたことがありまして。」
ラナロウは顔を真っ赤にする。
「な!?」
ソニアが感心したような顔でニキを見る。
「かわいい悲鳴を上げていました。」
フレイはトボける。
「あれ、前にラナロウから聞いた話と違いますね。」
「で、デタラメ言うんじゃねぇ!」
ラナロウの抗議もむなしい。
クツクツと笑い声が聞こえる。
エイブラムからだ。
「…いや、失礼。」
ドゴッ!
ラナロウは渾身の力でエイブラムの房の扉を蹴った。