「共に鼓動を聞く者たち」 343氏



ジュナスはぐったりとした身体をベッドに預ける。
「…はぁ。」
生き残っているのが奇跡に思える。
自分が優秀なパイロットだなんて思ったことはない。
だが…。
「世の中強い人はいるもんだなぁ」
以前にソニア・ヘインと戦った時も、感じたことだ。
もっと強くならねば。
一方で戦う事でしか強くなれないのも知っている。
たくさんの命の犠牲の上に強さは成り立つ。
そう考えると憂鬱である。
それでも、だ。
『幸せにならなくちゃ、生き残った四人、みんなの分も幸せにならなくちゃ!』
クレアの言葉。
自分が皆を救ったとは思えない。
だが、皆が幸せになれるように戦い抜いたときに自分は皆を救った事になるのではないか?
ジュナスは疲れた頭で考えた。
と、聞きなれた声が聞こえる。
「シェルド?」
「入るよ。」
見慣れた友人の顔。
「ごめん、寝てた?」
「いや、ただ横になってただけ。」
シェルドは勝手にイスに座る。
ジュナスは聞く。
「何?」
「いや、大丈夫かなって。アレックス、見てさ。」
ジュナスは自嘲気味に笑う。
「右手、持ってかれちった。」
「ね、相手、相当な腕前だったんだね。」
シェルドは片手で頬杖をつく。
「すごく、強い人がいっぱいいるんだ、きっと。」
「うん。」
沈黙する二人。
漠然と考える。
生き残る、戦い抜く、それは非常に困難なものなのかもしれない。
シェルドは口を開く。
「クレアも…。」
「ん?」
「クレアも凄く、苦戦してた。」
「ああ、なんかすごく疲れてたよ。」
ジュナスはクレアの様子を思い出す。
震えている身体。
それでも笑顔を絶やさないクレアはたいしたものだ。
突然、シェルドはジュナスを見据える。
「僕も、僕も誰も死なせないから。」
「え?」
シェルドはやや照れた表情をして立ち上がる。
「それだけ、言いに来た。」
「ああ。」
シェルドはドアに向かう。
ジュナスはその背に声をかけた。
「頼むぜ。」
シェルドは軽く「ん、」とだけ返事をして去っていった。

アヤカはあくびをかみ殺す。
ブリッジでの索敵は続いていたが、戦闘はしばらくなさそうだ。
整備班は仕事が山ほど出来て大変そうだが、こちらは先程の緊張が解けて疲れが押し寄せてきていた。
アヤカはもう一度あくびをかみ殺す。
横のブランドが「見たわよ」とばかりに片眉を上げる。
「すいません」
一応謝っておく。
背後ではミリアムとハワードが話し合っている。
地球、大気圏上での作戦行動になるはずだ。
アースライトはアヤカも好きだ。
戦闘がなければ、楽しみなのだが。
と、ブリッジに普段は姿を見せない人影がやってきた。
ルロイだ。
ミリアムが呼び、また何か話し込んでいる。
ルロイの横顔を見る。
あと十年いや、あと五年早く生まれていれば、人生設計の中に組み込んでもいいのだけれど。
ブランドは興味なさそうだ。
そうだ、あの男はどうだろう?
ビリーとか言う、新しいMSパイロット。
「ブランドさん、ちょっと聞いていい?」
「何?」
「新しく来たビリーさんて、どんな感じ?」
「そうねぇ…。」
ブランドは少し思案する。
「…頼りがいはなさそうねぇ、アイツに寄りかかって酒は飲めないわ。」
「はぁ。」
アヤカの人生設計は前途多難であった。



宙域には大気圏突入を図るバリュート装備のネモが大量配置されていた。
アーガマのMSも降下予定なので、その場にいるはずである。
アルビオンにもバリュートが用意されている。
しかし、遠回りをして敵をひきつけたのはいいが一部MSは損傷が激しい。
「リックディアス隊だけを降ろすか?」
ハワードは迷っていた。
全機を降ろすとアルビオンは丸裸である。
エゥーゴの上層部、とくにアナハイムの連中はジャブローを抑えれば、ほぼ事態は収束すると考えているようだがハワードにはそうは思えなかった。
ジュナスのアレックスが損傷していることから考えても、行かせるのはリックディアスの方だろう。
ミリアムとも打ち合わせをするが、まだ、迷いがある。
可能性も含めると、リックディアスのパイロットよりもジュナス、クレア、ルロイの三人の方が戦果を上げられるのではなかろうか。
事実、ここまでの主力は彼らだった。
ニキがニュータイプに賭けていたのならば尚更である。
悩んだ末に、ミリアムとの打ち合わせで到った考えがリックディアスにルロイらを乗せるというものだった。
ブリッジで話し合う。
ルロイはやや顔をしかめた。
「命令ならばやります。」
ミリアムは首を振る。
「意見を求めてるの、まだ指令を出してるわけじゃないわ。」
ルロイは黙る。
ハワードはルロイの意見を促す。
「君が上手く働けるか、それが問題なのだ。アレックスはNT用の機体という。だが、リックディアスは…」
「別に何が変わるというわけではありません。」
ルロイは被せる。
「ただ、不安なのは3機での、その…。」
ミリアムはため息をつく。
「大気圏突入ね。」
「…ええ。」
ルロイは苦笑する。
「不安です。」
ハワードは言う。
「君に求めてるのは意見だ。不満ではない。」
「すいません。」
謝るルロイに、ハワードも苦笑する。
「気持ちは分かるがね。」


MS艦載能力を備えたマゼラン級。
これがソニア達の新しい母艦である。
急造艦だが、サラミスより火力はいい。
MSデッキにはソニア達のガルバルディのほか、ハイザックも積まれた。
ラナロウがハイザックを見て呟く。
「こんなの使わねぇって。」
横にいたグレッグはフンと鼻を鳴らす。
「ま、護衛用だろ。留守中の番犬としてがんばってもらおうじゃねぇか。」
ラナロウは自分のガルバルディに目を移す。
「今度こそ、ぶっ潰してやるぜ、ガンダム。」

ブリッジではソニアとフレイが話し込んでいた。
「その、アルビオンが来る場所にティターンズも集合してると?」
ソニアの言葉にフレイは頷く。
「ええ、あまり気持ちのいいものではありませんが、ティターンズと協力体制を整えた方がいいでしょうね。」
「アルビオンが大気圏に突入する可能性は?」
「あります。しかし、エゥーゴの地球での拠点は今のところ知られてません。あのような大型艦船、目立ってしょうがないでしょうね。」
「まあ、彼らのは宇宙の塵になってもらうとするかねぇ。」
思案するソニアにフレイが付け加える。
「…一応、念のためですが、MSにバリュートを付けておきます。」
ソニアが笑う。
「私らが信用できないかい?」
フレイは首を振る。
「いざとなったら大気圏突入も辞さない覚悟で追いかけるバカがいますからね。それの面倒を見ようとする人たちも…。」
ソニアがため息をつく。
「…わかった、頼むよ。」
「了解。」