「共に鼓動を聞く者たち」 343氏




ガルンは部下たちに再び戦闘準備に入らせた。
「ジャマイカンらの目の前で、アルビオンを沈めてくれよう!」
艦隊の火力ならばアルビオンに負けない。
問題は敵のMSだ。
それも、オグマならば抑えることが出来よう。
アレキサンドリアをぶつけてでも敗北はしない。
艦は活気に溢れていた。
MSデッキの整備員も例外ではない。
士気を取り戻した乗員たちに、オグマも満足していた。
教導団では味わえなかった実戦への渇望。
片目を失ったとき、オグマは軍をはずされそうになった。
証明してやった。
シュミレーションでは誰にも負けなかった。
そして教導団に配属された。
ペイント弾主体の模擬戦。
渇きは癒されなかった。
格闘戦でペイントも何も関係なく相手を潰してやった。
ジオンの残党狩りに志願し、今、ようやく…。
MSの状況を見に来たジェシカは自分の上司の壮絶な笑みを見て戦慄した。
「…先程のではまだ足りないのでな。」
オグマの渇きは戦場でのみ潤うのだ。

コルトは狙撃仕様のハイザックを要求した。
闘うのが怖いのではない。
確実にしとめる。
そのためには接近戦よりも、後方で冷静に敵を打ち落とす。
「俺はガイ少佐の仇を討ちたいのだ!」
ガイはもう少佐ではない。
二階級特進である。
己に言い聞かす。
近接戦闘で望むからいけないのだ。
適材適所。
あの片目の男は接近戦でもある程度は持つ。
コルトは自分の異名の所以を見せてやるつもりだった。


いつもとは違うコクピッドに入るジュナス。
アレックスになれた身としてはぬぐえない違和感。
しかし、性能はいいらしい。
「お前なら出来る!気休めじゃなく、保障するぜ!」
スタンの言葉が支えになる。
各種コンソールを確認して、射出口に向かう。
「…大気圏突入か。」
ジュナスはコロニー育ちで地球に行った経験がない。
初めての地球行きがこんな形になろうとは。
バリュート、信用できるのだろうか?
アヤカより通信が入る。
「ティターンズが来ています!上手く戦闘を回避して大気圏突入をしてください!地上では同士であるカラバがガルダタイプの空母が待っています。ジャブロー制圧後はそれに乗ってください。…北米でまた、会いましょう。」
「分かりました!」
「…気をつけてね!」
リックディアスは射出され、コクピッドも宇宙の色に囲まれる。
先に出ていたクレアに通信する。
「調子はどう?」
クレアは声音を作って話し出す。
「コクピッドが違っても三日もあれば自分の手足にすることが出来ますよ!」
ルロイが頼りなく笑う。
「三日もないし。」
ジュナスも脱力しつつ、敵の展開を探る。
「とにかく、あまりはぐれない様にしよう。」
「賛成!」
ジュナスたちは徐々に敵機に接近して行く。
ネモ隊はかなり優勢なようだ。
緑のハイザックの多くは押されている。
エネルギーを温存しつつ、リックディアスは大気圏に向かう。
と、アヤカより通信が入る。
「謎のMAが攻撃してきています。アーガマが応戦してますが、近づかないように大気圏突入にだけ気をつけて…、きゃ!」
「へ!?」
クレアの間抜けな声が入る。
「アルビオンに何かあった!?」
ジュナスも驚きを隠せない。
「戻ったほうがいいのか!?」
ルロイの声に反転する3機。
その時、新たな殺気を感じる!
「サイキックインプレッショ〜ンっ!」
クレアが謎の言葉を叫んで回避行動に移る。
間一髪!
クレアの横をビームの光が通り過ぎていった。
現れたのはガルバルディ!
「あのガルバルディ?」
クレアの声にルロイが否定の言葉を口にしてみる。
「ガルバルディ自体はルナ2でそれなりの数は配備されているはず!」
「奴らとは限らないか…」
クレア機も攻撃行動に入る。
抜き放ったのはサーベル。
実弾武器は地上まで取っておきたい。
ジュナスも一気に相手と間合いを詰める!
交差するリックディアスとガルバルディ!
ビームの刃が合わさったとき、ジュナスは理解した。
「…ソニア・ヘイン!」
「…やはり、アルビオンから出てきたのは、例の子供!」
ソニアの言葉に歓喜の声を上げるラナロウ!
「いやっほう!早くもお目当ての奴らか!」
ライフルを撃ち放つ!
「地球に落ちる前に宇宙の塵になりやがれ!」
ジュナスはかわし切るとクレアと並び加速する!
そのまま、ラナロウ機に飛び込む!
「「いっけぇ〜!」」
「なっ!」
ラナロウ機はかわし切れずに、盾で二つのサーベルを受け止める。
そのまま至近距離でミサイルを発射させる。
一気に離れる2機のリックディアス。
ビームがかすめる。
「若造が!油断してるんじゃねぇ!」
グレッグの援護にラナロウは状態を立て直す。
「…野郎!」

「始ったか…!」
艦内の慌しさからニキは状況を察する。
艦が沈まないことを祈る一方で、アルビオンとの交戦ならば沈んで欲しいとも思う。
どちらにしろ、自分にするべきことはない。
そう思っていたところで、扉のロックが解除される。
「?」
ニキが開かれた扉の方を見ると、エイブラムが疲れた笑顔で立っていた。
「…開きました。仲間が上手くやってくれたようです。」
ニキは冷たく言い放つ。
「勝手な真似を…。」
動こうとしないニキを見て、エイブラムは戸惑う。
ニキはため息をつきながら話し出す。
「私の仕事はもう、終わりました。ペガサス級一隻とMS、人もそろえた。彼らは良い戦力になるはずです…。」
そして、自分の腹心だった男に目を向ける。
「私はもう、用済みです。何も喋らないうちに死んだ方がいい。」
エイブラムは首を振る。
「大佐が自身のことをどうお考えかは知りませんが…。まだ、必要なのです!今のエゥーゴには大佐のようなお人が!」
ドン!
艦が揺れる。
「急ぎましょう!脱出の手はずも整っています。」
エイブラムはニキの腕を取り、駆け出す。
ニキは力なく、為すがままエイブラムに連れて行かれる。