「共に鼓動を聞く者たち」 343氏
ニキとエイブラムはMSデッキまで駆けていく。
途中、乗員から銃を奪ったかいもあり、難なくたどり着く。
デッキのクルーの数名がエイブラムの顔を認めると手招きする。
2機の青いハイザックが用意されていた。
ニキはためらいがちにシートに座る。
そのようすにエイブラムが話しかける。
「大佐のMS操作技術はしっかりしたものなのでしょう？」
「…昔の話です。」
「でも、あの若造…、ラナロウとか言いましたか、そいつを負かした事も。」
「…それも昔のことです。」
ハイザックが発進準備に入る。
ブリッジから入電。
「何事か！？ハイザックの出撃は許可してないぞ！」
フレイ・リーゼンシタインの声が響く。
そのまま、射出される2機のハイザック。
「確かに許可はいただいてませんな…。」
エイブラムの呟きに、ニキは顔をしかめる。
スタンはその敏感すぎるアレックスに悩まされながらも、確実にビームライフルを打ち抜いて行く。
相手取ったデニス・ナパームは唸る。
「やはり、シロウトではなさそうだな…。」
しかし、歴戦の戦士の勘だろうか？
違和感を感じる。
前のときのような勢いを感じないのだ。
それはオグマも同じだった。
「どうした！こんなものではないだろう！」
オグマ機は間合いをつめ、距離を置きたがるアレックスに突っかかる。
シェルドは焦っていた。
「…どうする！？これじゃあ！」
ビームを撃ちつつ、後退を繰り返す。
その中でドクだけはキレた動きを見せていた。
「シャーッ！」
しかし、ジェシカも並みの動きではない。
マシンガンの攻撃を確実に避ける。
青いハイザックはミサイルを発射させ、弾幕を張る。
「斬るゥゥウ！！」
ドクはヒートホークを一閃！
「フン！」
ジェシカは交わしつつサーベルを抜き放つ。
「あまりフェアではないが…」
相手の期待は通常の量産型。
こっちはカスタム機。
ジェシカの有利は確かだ。
「だが、容赦はしない！」
ジェシカ機が逆にドク機に斬りかかる。
ドクはそれを盾で防御する。
守ったというよりも弾き飛ばしたような形だ。
バランスを崩す機体にヒートホークを打ち込む！
ガキッ！
ハイザック・カスタムの追加装甲に亀裂が入る。
「ウシャァァッ！」
ドクは奇声を発して次の攻撃に入る。
が、ジェシカ機はドク機に突っ込む！
「うぉわ！」
ドクのテンションが引いて行く。
ジェシカは再び間合いを詰める！
「くそっ！この私をコケにしたな！」
アルビオンのブリッジではブランドがメガ粒子砲の発射用意の完了を知らせていた。
ハワードが頷く。
「よし！外すなよ！目標！アレキサンドリア級！」
発射される二条の光。
一つは虚空に消える。
一つは目標に爆発を起こす！
「むぅ、沈まんか…、次弾を用意しろ！」
と、アヤカの報告が入る。
「左舷後方より2つのエネルギー反応！連邦軍のハイザックです！」
ミリアムの顔が真っ青になる。
「後方から！？」
アルビオンのMSは前方の敵を抑えるので躍起になっている。
他に廻す戦力はない。
「出来るだけ弾幕を張って！」
「了解！」
「…！」
ブランドが応答したとき、アヤカが慌てる。
ハワードが尋ねる。
「どうした？」
「通信を求めてきています！」
「開け！」
アヤカの指がコンソールの上を滑ると、男の声が響く。
「…繋がった！？こちら、エイブラム・ラムザット！救援を求めたい！」
「エイブラム！？」
反応したのはミリアムだった。
「どうしてここに？」
「事情は後だ、ニキ大佐も一緒に来ている！」
その時、アヤカは異変に気付く。
エイブラム機と一緒に来ていたエネルギー反応、おそらくニキ・テイラーが乗ってると思われるハイザックが前方で戦っているアレックスの元に向かっているのだ。
「…アレックスが苦戦している！？」
ニキの頭に浮かぶ疑問。
NTを信じた自分の判断は間違っていたのか？
通信を送ってみる。
一方でマシンガンで敵をけん制する。
オグマは素早く回避を選択する。
「…援軍？にしてもつまらねぇな。」
「なんだ？こんな時に！」
シェルドはアレックスの操縦に戸惑いながらも何とか通信帯をあわせる。
「誰ですか！？」
「…少年の声。ルロイ・ギリアムか？それともジュナス・リアム？」
「どっちでもないです、シェルド・フォーリー…うわっ！」
シェルドはかろうじてビームライフルの攻撃をかわす。
そしてすかさず打ち込むが当たる気がしない。
ニキは状況はつかめなかったが、自分の期待していたパイロットではないものが戦っていることだけは理解した。
ジュナス・リアムと一緒にいた少年。
ジュナス、クレアと共に30バンチ事件を生き残った少年のはずだ。
だからアルビオンで一緒に行かせた。
きっとよい影響があるはずだと思ったのだ。
「あなたは誰なんです！」
「ニキ・テイラー…、覚えてませんか？」
「ルナ２の！？」
ニキはバーニアを一気にふかし、オグマ機に突っ込む！
「援護を！」
「え、あ、はい！」
「身の程知らずが！」
シェルドのビームを交わしつつ、突っ込んでくるハイザックにビームライフルを打ち込む！
が、ニキは自分でも驚くほどの冷静さで避けきる。
「昔とった何とやらですね。」
一方でオグマは悟る。
出来る！
ゴッ！
ヒートホークがオグマ機をかすめる！
「外しましたか…」
ニキは今ある戦闘によって思考がクリアになって行くのを感じた。
ハワードは驚きを隠せなかった。
「ニキが戦っているだと！？」
エイブラム機も戦闘に合流すべく動く。
「大佐を放っておく訳には…！」
マシンガンを撃ち放ちつつ、展開される緑のハイザックと対峙する。
ハワードの歯噛み。
「アルビオンは戦域を離脱する！各MSに伝えるんだ！」
アレキサンドリアの攻撃も迫っている。
向かってきたミサイルにウッヒはやや荒い操舵で応える。
「くそっ！艦が重く感じる！」
すでに無傷ではないアルビオン。
駆動系の一部に障害が出てるのかもしれない。
ミリアムも再度、オペレーターに促す。
「全機に戻ると伝えて！早く！」
「いいですか、シェルド君？援護を続けてください。」
ニキのハイザックは細かい動きをつなぎながら、オグマ機と対峙していた。
「基本に忠実になることです。戦闘の基本は運動量。」
オグマ機が迫るのを軽快な動きでいなす。
ニキの実戦の感覚が蘇っている。
「すなわち、速度です。」
まるでMSの講習をしているかのような口調でシェルドと交信する。
「は、はい！」
シェルドも思わず生徒のように応えてしまう。
そしてビームライフルを撃つ。
ニキの講義は続く。
「そうです…、そして火力の集中、これも大事な基本です！」
ニキは再びオグマ機に突っ込む！
オグマ機はヒートホークの攻撃をシールドでがっちりと受け止める。
コルトは標的を決めた。
自分に屈辱を味合わせてくれた白いMS。
ガンダムタイプ。
スナイパーライフルの照準を合わせる。
落ち着け、動きを読むのだ。
どうやらオグマは上手くやっているようだ。
意外な援護は入ったが、逆にガンダムタイプの方が援護に回ることで動きが減った。
こちらは狙いやすくなった。
いける。
そう思ったとき、トリガーの指が自然に動いた。