「共に鼓動を聞く者たち」 343氏



クレア機はバズーカで一機一機、敵機を潰して行く。
「すごいね、あのキャタピラーのザク!」
ザクタンクでの抵抗というのも無謀な話である。
ジャブローはジオンから捕獲したMSが大量に眠っていた。
グフタイプのMSやザクも進入路に立ちふさがる。
「クワトロ大尉の部隊からは連絡はないの?」
クレアの質問にルロイも首をひねる。
「そろそろあってもいいと思うんだけど…」
ジュナスは殺気を感じ取るので精一杯だった。
先程の敵があきらめたようには思えない。
一方でルロイ機がザクを倒す。
動力部を避けてコクピッドを打ち抜く。
周りへの被害は少ない。
が、それは相手の脱出を許さない絶対の死を意味する。
好きでやっているわけではない。
早く降服して欲しかった。
「にしても、気になることが。」
ルロイは懸念を口にする。
「なになに?」
クレアがザクタンクを蹴散らす。
「ジムタイプがいないんだよね、旧型ばかりで。」
「…?」
クレアがその言葉の意味を読み取れないことに苦笑してルロイは話す。
「つまり連邦の主力部隊がいないってこと。」
「…どっかに出かけてるんじゃないの?」
「どこに?」
「…う〜ん。」
ジュナスは二人の会話を聞き流しながら、ある感覚が自分に襲ってくるのを意識した。
これは、以前にも感じたことある不安。
ジャブローが暗闇に覆われるような錯覚。
「…ねぇ、クレア。」
ジュナスが呟く。
「?」
「ルロイの言ってることはすごく重要なことのような気がする。」
「どうしたの?ジュナス?」
「何も感じない?」
クレアは何となく既視感を覚える。
そして…。
「また?」
それだけ呟く。
ごくりと唾を飲み込むジュナスに明確な殺気のシグナル。
「…くっ!」
ギリギリでリックディアスは回避する。
「ビーム兵器!」
ルロイが攻撃の来た方向を確認すると、高台にガルバルディが見えた。
ソニアは舌打ちすると何かを落としてくる。
損傷したザクの機体だった。
コクピッドが打ち抜かれている。
ビームライフルを構えたガルバルディを見て、ジュナスは叫んだ。
「危ない、みんな散って!」
ソニアのガルバルディはザクの動力部を確実に打ち抜いた。
ドンッ!
大きな爆発音と共に紅蓮の炎。
業火。
敵機の反応は無い。
散開したか。
「ラナロウ、きっちりやんなっ!」
ソニアは叫んだ。


うめき声を上げつつ、ジュナスは周りを確認する。
「…一体何を考えてんだ?」
あの爆発で大破しなかったのはMSの装甲のおかげかもしれない。
崩落の危険性がある。
地上に出たいところだが。
「クレア、ルロイ?」
二人は大丈夫だったろうか?
自分は守らなければならない。
シェルドは宇宙でアルビオンを守っただろうか?
自分も守らなければ、友人に合わす顔が無い。
「…クレア。」
「女の心配してる場合じゃないぜ!」
迫るガルバルディにジュナスはビームピストルを準備する。
バズーカは爆発のときに手放してしまった。
ジュナス機が照準を合わせたとき、ガルバルディはジャンプしてリックディアスに肉薄する。
「お前はジュナス・リアムかっ!おっさんを殺したヤツ!」
「!?僕の名を?」
「ルナ2でな!どうでもいいことだ!」
ガルバルディの横薙ぎ。
地上での戦闘の再現。
バルカンで後退。
しかし、ジュナス機の後ろにはほとんどスペースが無かった。
削られる装甲を無視して迫るガルバルディ!
「俺の名前はラナロウ・シェイド!その名を呟いて死ね!」
ラナロウ機がサーベルを振りかぶる。
甘い。
斬るのではなく突き刺すべきだった!
ジュナスはビームピストルを持つアームを伸ばしきる。
コンッ!
ガルバルディの胸部にその砲身が当たる。
丁度コクピッドのところに。
「うっ!」
不覚。
死を覚悟したラナロウに待つ運命。
「あっ!」
ジュナスは思わず声を出す。
ビームピストルは故障していた。
爆発の余波で損傷していたのだ。
「撃たない!?」
ラナロウは冷や汗をかきつつ、再びサーベルを打ち下ろそうとする。
ジュナスはバルカンファランクスを胸部に集中。
激しく震動するコクピッドでラナロウは後退を選択した。
「ちぃ!」
ジュナス機はビームピストルを捨てサーベルを用意する。
よかった、サーベルは損傷していない。
双方共にライフルは持っていない。
純粋な白兵戦である。
ガルバルディがまず動く!
リックディアスがサーベルで受け止める!
「コイツ!抵抗するんじゃねぇッ!!」
「…負けるもんか!」
気迫をぶつけ合う二人に届く警告。
「ジャブローが爆破される!総員退避!地上にガルダが来ているぞ!脱出するんだぁ!」
およそ、軍隊の放送とはかけ離れた悲鳴。
「爆破!?」
ジュナスは先程の不安の原因が分かった気がした。
だが…。
「関係ねぇ!」
ガルバルディは一度退き、再び突撃してくる。
ジュナス機は再び受け止める!
「なにやってるんだっ!死にたいのか!?早く脱出しないと…」
「うるせえっ!人を殺しといて、自分は命が惜しいってか!」
惜しい。
負けるわけにはいかない。
まだ、守りたいものがある!
「そうさっ!やられるわけには!いかないんだっ!」
リックディアスはガルバルディを押し返す!
「…なッ!?どういうことだ!?」
ドンッ!
押し返したリックディアスはサーベルを突き出す!
ラナロウ機はそれをかわすが、バランスを失い転倒する。
ラナロウは、見上げた。
リックディアスを。
自分が勝てない敵を。
「…ち、ちくしょおぉぉお!」
ジュナスはガルバルディを一瞥だけしたが、もっと気にかかることがあった。
「クレアっ!ルロイっ!」
合流して脱出する。
命が惜しい。
守りたいものがある。
その思いだけがジュナスを突き動かしていた。


岩盤が崩れる。
それを寸前のところでクレアのリックディアスは避けた。
脆いが登れそうな山がそこにあった。
バーニアもうまく使えばここから地上に出られるかもしれない。
問題は…。
「ジュナス、この山の中って事は無いよね…。」
冗談ではない。
そんなことを考えながら、クレアはジュナス機を探す。
ルロイ機がやってきた。
「向こうにもいなかった…。」
ルロイの報告に不安は募る。
「…そう、今度はアタシが探してくる。あと、ここから上に出られるんじゃないかな。ルロイはそっちの様子を見てきて。」
「…時間があまり無い、早く戻ってきてね。」
「ん。」
クレアは思う。
ルロイに悪気は無いのかもしれない。
でもその言葉の裏には、最悪の場合はジュナスを見捨てろと言うことになるのだ。
「ジュナス、心配させないでよ…。」
心配させるのはむしろ自分の仕事だ。
目に入る赤い機体。
ガルバルディだった。
とっさに構えるクレア機に敵機からの通信が入る。
「勘弁しておくれよ、連邦側は降服したんだから。」
女の声。
「ソニアさん?」
「おや、名前を知ってるのかい?クレア・ヒースロー。」
クレアは驚く。
「さあ、構えをといておくれよ。それとも降服兵も撃つのがエゥーゴのやり方かい?」
クレア機はビームピストルを収めつつ、索敵を開始する。
「そういう奴もいますけどね、アタシは違いますから…。」
ソニアが鼻で笑う声が聞こえる。
「坊やを探してるのかい?名前はジュナスか、ルロイか?」
「誰かさんのむちゃくちゃのおかげで…ジュナスが。」
「戦闘がむちゃくちゃじゃないことなんて、あるもんかい。」
クレアは唸る。
時間が無いんだ。
ガルバルディから離れようとするリックディアスに、ソニアは声をかける。
「だいたいの場所の見当ならついてるよ!」
「へ?」
「私もそっちにガキを迎えに行くところなんだ、ついてきな。」
「や〜ん、ソニアさんダイスキ!」
ソニアはため息をつく。
「なんなんだい、この娘は。」

ジュナスは向こうからやって来る2機のMSに驚く。
リックディアスとガルバルディ。
「あ、ジュナスぅ〜!」
クレアの声。
安心する一方で、ガルバルディから声が聞こえる。
「ラナロウはしくじったか。」
「…!!」
クレアは警戒した。
仲間の仇を討つ。
やりかねない行動を予想したのだ。
「ボクを倒すのにはしくじりましたが、生きてますよ、多分。」
ジュナスの発した言葉にソニアは顔をしかめる。
「甘いね、いつかその甘さが命取りになる。」
「そんな警告を敵にするソニアさんも十分甘いと思いますけど。」
ジュナスの言葉にソニアは笑う。
「言うね。」
ガルバルディはさらに奥に向かう。
「さぁ、お互い時間が無い。脱出するんだろう?」
ジュナスは何となくソニア機に敬礼のポーズをとって、クレアと合流した。

ジュナスたちは地上でルロイ機に合流し、急いでガルダに向かう。
だが、そこで待っていたのは残酷な一言だった。
「君たちを乗せることは出来ない。」
ガルダ級アウドムラはクワトロ隊を載せることになってしまった。
残りのガルダ級も生き残りの連邦軍の輸送に使われる。
MSを載せてなどとはいえない状況なのだ。
しかし、死ねというわけでもないらしく、SFSを貸してくれた。
ドダイ改。
リックディアスが飛び乗ると、飛行できる。
輸送機もなく、むき出しのMSのままでリックディアスはジャブローを離れる。
大きなきのこ雲が上がる。
空を飛ぶのは気持ちの良いことのはずなのに、三人の気分は晴れなかった。