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「共に鼓動を聞く者たち」 343氏




有視界でも確認できるほどにラビアンローズが見えると、ようやくミリアムは安堵した。
きわどい戦いだった。
囮部隊として戦っていたときにサラミスを落していなかったら、やられていたかもしれない。
「また、艦の補修ですね。」
艦長席に座るハワードに話しかける。
「うむ…。」
ハワードの心はここにないような、曖昧な返事だった。
理由は分かっている。
ミリアムも尊敬する上官であったニキ・テイラーは敵機に撃破されたときに意識を失ってしまった。
そして、いまも意識不明である。
さらにまずかったことに脱出カプセルの回収も戸惑ってしまった。
軍医のアキラは酸素欠乏症の可能性をほのめかしていた。
無事回復するといいが。
もう一人、ベッドで寝ている者がいる。
シェルド・フォーリー。
幸い大怪我は無かったが、念のため安静させている。
ふう、とため息を漏らす。
「ジュナス君たちは大丈夫かしら?」

シェルドは横のベッドに寝ている女性の姿を見た。
ニキ・テイラーはなぜ、ここにいるのだろう?
どちらにしても、彼女は自分を救ってくれた。
あのまま戦闘を続けていたら、ハイザック・カスタムの餌食になっていたはずだ。
ニキがシェルドを救ったのは二度目のことである。
自分を連邦軍所属にして、ティターンズの目を誤魔化してくれた。
そして今度は直接的に、命を救ってくれた。
彼女が寝ているのはその代償なのだろうか?
「…結局、何も守れていないじゃないか。」
シェルドは濡れた瞳で天井を見つめた。

MSデッキで疲れ果てているスタンにビリーは話しかける。
「おっさんは無理しない方がいいんじゃないの?」
うめき声を上げて、スタンは伸びをする。
「しょうがねぇだろ…、あの時は俺のほうが上手く乗れたんだから。」
「俺は不満だね。」
ビリーは真っ直ぐに言い放つ。
「アンタはメカニックだ。俺は専業パイロット。なんでモニターで戦況を確認してなきゃいけないんだ。」
「アレックスじゃなけりゃあな…。」
「カンケーねえよ。」
ビリーの態度にスタンは閉口する。
「…あげく」
ビリーは続ける。
「ガキまで出撃してるって言うのに、俺は。」
「すまなかったな。」
スタンがいえることはそれだけだ。
ただ、戦場でお互いのプライドを尊重しあうなんて余裕があるとは思えない。
「ったく…。」
ビリーは一通り不満をぶちまけてスッキリしたのか、立ち去ろうとする。
分かっているのだ、ビリー自身にも。
「あっ」と声を上げてスタンがビリーを呼び止める。
「なんだよ?」
振り向いたビリーにスタンは手を合わせる。
「すまないついでにアレなんだが、今回はお前が出撃したことにしてくれないか?」
「はぁ?」
スタンは頭を下げる。
「いや、俺が出撃したとバレたら殺されちまうんだよ、アイツに。」
「アンタなぁ…。」
ビリーが苦笑する。
「まぁいいや。女か?」
「生物学的には。」
スタンは男勝りな金髪の少女を思い浮かべてため息をついた。



アルビオンがラビアンローズにドッキングすると、フローレンス・キリシマが出迎える。
アルビオンが大きく迂回している間に、こちらに入ったらしい。
その顔を見てスタンはにやける。
「いやぁ、どーもどーも。」
「お待ちしてましたわブルーディ中尉。」
二度と顔を見たくなかったがな。
キリシマの動作はそんな心は一切感じさせない、優雅なお辞儀である。
がははと笑うスタンだったが、すぐに真剣な顔に戻る。
「補給物資を受け取りたいのですが?」
ああ、そうだお前は仕事だけしていればいいんだよ。
キリシマは端然とした笑みを浮かべ、スタンを導く。
スタンは決まりの悪そうな顔で話す。
「アレックスが難しいことになっちまってるんですよね。」
「どういうことでしょう?」
「もう一機しかありません。」
スタンはシンプルに応えた。
キリシマは片眉を上げる。
「補給も大量には用意できないのです。主力はアーガマと新造艦ラーディッシュに廻されるでしょう。」
ドアをくぐる。
MSデッキにはスタンが見慣れない機体が見えた。
「Z計画、アナハイムが進める対ティターンズのMS製造計画です。」
「Z計画…。」
「もう、一機はロールアウトしたのですよ、クワトロ大尉の機体として。」
「へぇ、それがウチにも?」
キリシマは嘆息する。
バカが、主力はアーガマといっただろうが。
「いいえ、ただ、Z計画の試験機があります。もう、データは取れましたのでそちらに廻すことになりましたわ。」
「…残り物。」
スタンの口から思わず出た言葉。
キリシマはむっとする。
が、表情には出さない。
ただ、見上げた。
黒い機体。
プロトタイプZガンダム。
すべてのZ計画の基本となる機体。
スタンは少し感心する。
「随分と、新しいコンセプトですね。」
今までに見たことない、洗練されたフォルム。
Z計画は思っていたよりも、面白い計画かもしれない。
「プロトZってところです。能力はアレックスにも負けませんよ。」
穏やかな笑みで付け足す。
「残り物ですけど。」
「いやいや…、すいません。」
キリシマはさらに奥を指差す。
「アレはレプリカですが。」
スタンは目を見張る。
それは紛れも無くガンダムMk-2だった。




ハワードは作戦結果を聞いて落胆した。
ティターンズによるジャブローの爆破。
人類はいつまで地球を汚染し続けるのだろう?
スタッフから新たなデータディスクを受け取ると、医務室に向かう。
「ニキ…。」
目をつぶり意識を回復しない女性の前に褐色の男性と見慣れた副官、そして少年がいた。
エイブラムは痛恨の表情でハワードの方を向いた。
「こんなはずでは無かった。」
ニキの表情は読み取れない。
ミリアムが手を握っている。
祈り、だろうか。
シェルドはただ、顔を見入っていた。
エイブラムは首を振る。
「大佐は『もう死んだ方がいい』と言ってました。自分の役目は終わったと。」
涙をこらえる。
「死んでいいはずが無い!まだ大佐はエゥーゴにとって必要な人です!死ぬのは私のほうでよかった!」
ハワードはエイブラムの肩を叩く。
「死んでいい人間なんて、世の中にいないぞ。」
エイブラムはその言葉にうつむく。
ハワードはニキの顔を覗き込む。
「こんなになっても必要とされるなんてな。うらやましい反面、少しかわいそうな気もするな。」
シェルドはそう話す上官を見て少し驚く。
笑顔だったのだ。
寂しげな笑顔。
ハワードは三人に告げる。
「自由にしてやれ。」
嘆息と共に続ける。
「一人、自由に、な。」

ガンダムの積み込み作業を見守るスタンの横で、フローレンス・キリシマは呟く。
「ホッとしていらっしゃるでしょう?」
「試験機とはいえ、高性能機ですからね。」
スタンの応えにキリシマは首を振る。
「補給のことではなく、ケイのことですわ。」
スタンは苦笑いをする。
ケイはラビアンロースには着ていなかった。
「あの娘は、Z計画の方で忙しいと言ってましたけれど。」
キリシマは優雅にため息をつく。
「素直でないのは育ての親に似たのかしら?」
「…キリシマさん。」
スタンはいつに無く、真面目な顔をしていった。
「アイツのこと、ホント、頼みます。」

アルビオンは簡単な補修を終え、二つのガンダムを積むとラビアンローズを離れた。
目指すは地球である。
ニキ・テイラーとエイブラム・ラムザットはラビアンローズに残った。
シェルドはブリッジに来ていた。
ニキの早い回復をシェルドは祈っている。
そしてジュナス、クレアに早く会いたかった。
二人は無事だろうか?
目的地は北米らしい。
星空と青い地球を眺めながら、シェルドは思いを重ねた。
ふと、向こうに月が見えた。
エリスのことが不意に頭をよぎった。
地球に降りたら、ますます遠ざかる。
また会える。
そう自分に言い聞かせ、シートに座った。