【共に鼓動を聞く者たち】 343氏
スタンはメカニック、MSパイロットたちに事情を説明していた。
「…まあ、大局的にはそういうこった。地球のエリート主義はジオンのヤバイ思想にも繋がるってこった。でも、俺はお前らに社会のために戦えなんていわねぇ。お前らは…、多かれ少なかれ、ティターンズには借りがあるってのもあるんじゃねぇか?」
ジュナスがピクリと動いた。
クレアが袖を引っ張っている。
ジュナスは首を振る。
スタンは続けた。
「無理にとは言わない。だがこの艦はエゥーゴに参加する。異議があるものはルナ2基地に還す。脱出ポッドでな。今なら間に合うはずだ。」
そこへ、一歩踏み出した少年がいる。
シェルドだ。
「スタンさん、僕はこの艦に残りますよ。スタンさんを信じてますから。」
ジュナスはシェルドが芝居をしているような気がした。
何か、言わされているような。
再びクレアが袖を引っ張る。
「…なんだよ?」
「いや、どうするの?アタシは難しいことわかんないからさ。」
スタンはシェルドを見て頷く。
「シェルド・フォーリー、お前の意思は確認した。共に戦おう!」
ジュナスはスタンのセリフを聞いて、なにか少し理解できたと感じた。
そこで、クレアに聞く。
「つまりさ、自分から戦うか、巻き込まれて戦うかってことさ。クレアはどっちがいいの?」
「う〜ん…。ジュナスに任せるよ、あの時みたいに勘を働かせてよ。」
「他には?MSパイロット達はどうだね?」
スタンの呼びかけにルロイが前に出る。
「僕もエゥーゴに参加します…。そんな立派な理由じゃないですけど。」
ドクも続く。
「俺も殺しが出来りゃあ文句はねぇな、ケーケッケ!」
ジュナスはスタンの横のシェルドを見る。
「シェルドはエゥーゴに行くと言った。僕が参加しないといったら、クレアはシェルドを見捨てるのか?」
「…!?そんな…、ジュナス、参加するよね?一緒に行こうよ、ね?」
次々とエゥーゴへの参加を宣言するクルーたち。
一般の作業員までもが、今の連邦への不満を口にする。
ジュナスとクレアだけが残ってしまった。
「…君たち二人は?」
スタンが問う横でシェルドはジュナスとクレアを見つめる。
クレアはいつの間にかジュナスの袖を強く握っていた。
「…参加して、何をさせるんですか?」
ジュナスの問いにスタンが答える。
「何をさせるとか命令してるんじゃねぇ。共に戦うんだ。君がMS乗りならば、やることはおのずと決まってくるとは思うがな。」
「…クレア、僕の勘は当てにならないよ、少なくとも今回は。」
「…じゃ、決まりだよね!」
クレアは複雑な笑みを浮かべたが、すぐにいつもの口調に戻った。
「クレア・ヒースロー!エゥーゴに参加しまっす!よろしくシェルド〜♪」
「僕も一緒に戦わせてください、ブルーディ中尉。」
ジュナスの言葉にスタンがにやりと笑う。
「よし、俺らは仲間だ。まずはそのブルーディ中尉ってのをやめてもらうぜ。スタンでいい。」
「了解、スタン中尉。」
ぱらぱらと拍手が沸く。
そこで放送がかかる。
ハワードの声である。
「…本艦はエゥーゴに所属することになる。異議のあるものは…。」
スタンがダッシュで通信機の前に行き交信する。
「少佐ぁ!こっちは総員覚悟完了ですぜ!」
ブリッジは安堵の空気が流れていた。
ハワードはもう一度、気を引き締めなければならないと感じた。
「これより各員に任務を説明する。ハットリ伍長…」
「アヤカって呼んで下さい。苗字が嫌いなんです。」
「…セクハラにならんかな?アヤカ君、回線を。」
「はい!」
艦内放送がMS格納庫に響く。
アヤカの声だ。
「船は現在、グリーンノアに進んでいます。ここからは2日はかかります。本艦の任務はMS奪取計画のサポートです。グリーンノアにはティターンズが開発した新型ガンダムがあるとの情報があります。これを手に入れるのが今回の任務ですが。なにせ、場所が場所です。ティターンズの根城なので戦闘は必至。各員、戦闘準備を整えてください。以上!」
ルロイは頭をかく。
「…実戦かぁ。上手くやれるといいけど。」
「まあ、なんとかなるよ、シミュレーションどおりならね。ハイザックなんて楽勝!ね、ジュナス?ってジュナスどうしたの?」
クレアの座る横で仰向けに倒れて頭を押さえているジュナス。
「あったま痛え…。さっき、普段使わない脳みそ使ったから…。」
ルロイはずっこける。
「お前、慣れない頭脳労働したからって本当に知恵熱出すなよ!」
「だって、難しい決断だと思ってさぁ…。」
クレアがケラケラと笑いながら、ジュナスに言う。
「今まで勘だけで生きてきたんだもんね〜。」
「…うるさいなぁ、お前が何も考えないからその分まで考えてこうなっちゃったんだろ?」
「えっへん!」
クレアが胸を張って威張る。
ルロイがささやかに突っ込む。
「クレア、そこは威張るところじゃないから…。」