【共に鼓動を聞く者たち】 343氏



「少し、休ませてもらってもいいかな?」
ハワードが艦長席を立ち上がり、言った。
ミリアムが受ける。
「どうぞ、特別な指示もないとは思いますが、私はここに残ります。」
「頼むよ。」
ハワードは艦長室に戻る。
少し軽くなったような体に慣れない。
「やれやれ…。」
部屋に入るとディスクを取り出す。
すぐにコンピューターを起動させ、ディスクを読み込ませた。
画面には今回のクルーの名前が並ぶ。
それは、もらった書類と類似していた。
だが、何かを忘れているような気がしたハワードは、一度席を立つ。
戸棚に向かい、グラスと氷、焼酎をとりだす。
焼酎のロックをもって再び、コンピューターの前に座る。
「…どれ。」
彼はジュナス・リアムの経歴を見る。
「何が機密なんだ…。」
と、すぐにハワードの顔色が変る。
「こいつは驚いた!」
ちびりと焼酎を口にする。
「ジュナス・リアム…、30バンチ事件の生き残りだと!クレア・ヒースロー、シェルド・フォーリーもか。住民は全滅だと聞いていたが。」
ルロイ・ギリアムの経歴にも似たようなものがある。
彼は一年戦争時にジオンの毒ガス攻撃を偶然逃れることが出来たという。
その後、連邦のニュータイプ研究の対象となったことが書かれていた。
「ニュータイプ能力で惨劇を回避した若者たちということか…」
ハワードは思う。
だが、何だというのだ。
これから私たちは惨劇があるところへ行くのだし、下手すれば自ら惨劇を起こすことになるのだ。
惨劇が起こることがわかったところで、何の役に立つのだろうか。
「だが、今度の惨劇を最後にしなければならない…。」
グラスの中の氷が鳴った。

ブランドが報告する。
「サイド7に入りました。」
ミリアムがハワードを見る。
ハワードは黙ってうなづいた。
「分かりました、船はここで待機です。」
「了解!」
ウッヒの返答がブリッジに響く。
「エゥーゴ艦、アーガマより暗号メッセージを受信。支援感謝とのことです。」
アヤカの報告にハワードが顔をしかめる。
「まだ、感謝されるには早いぞ、ヘンケン…。」
その声にアヤカが明るく応える。
「そのまま、送っちゃいますか、艦長?」
ハワードは少し笑う。
アヤカはいいところで緊張を緩めてくれる力を持っているようだ。
「MS隊を準備させておきましょうか?」
「当然だ。」
ハワードはミリアムの声に即答し、さらに付け加える。
「総員戦闘準備だ。ミノフスキー粒子を散布させておけ。アルビオンはレーダーから消えるぞ。」
「了解です。」
応えたのはブランドだ。
「今はまだダ〜メ♪」
意味不明の言葉を吐きながらミノフスキー粒子散布を始める。
「MS格納庫より通信です。」
「ガンダム三機、ハイザック一機、準備できてるぜ。」
アヤカの声に続きスタンの声が響く。
ミリアムの表情が少しムッとしている。
「迅速な対応ご苦労だ、スタン。」
「当然ですぜ。」
ハワードの声に応えるとスタンの通信が切れる。
ミリアムが告げる。
「エゥーゴの新型、リックディアスでクワトロ大尉がグリーンノアに潜入、ガンダムを奪う。何か起こるとしたらその後ですね。」
ハワードは宇宙を睨み、うなづいた。