【共に鼓動を聞く者たち】 343氏



アーガマが無事、サイド7宙域を脱出できそうだという報告がアルビオンにももたらされた。
まだ、敵の追っ手が来る可能性はあるが、MSパイロットにもしばしの小休止が与えられた。
もっとも、敵に見つかればすぐに終わってしまうはかない休憩であるが。
食堂にてジュナスは不機嫌にコールスローサラダを食べていた。
ドクのやったことを考えていたのだ。
クレアはとなりでカツ丼そば定食をたいらげていた。
不機嫌なジュナスを笑わせたくて、明るく振舞っているが上手くいかない。
ルロイはさらにその横でサンドイッチを食べながら、ひそかにクレアの食欲に驚いていた。
「…なんだって、あんなことを!」
むぐむぐと食べながら怒りをこぼすジュナス。
「ん〜、気持ちは分かるけどさ〜…。」
クレアは何とか話を合わせようとする。
「ルロイ!お前だって、あのハゲはどうかしてると思うだろ?」
ジュナスの勢いには押されるルロイ。
「…そうだね。やりすぎだとは思う。でも、僕も今日はたくさんの人を…。」
ジュナスは、少し勢いが削がれた。
「…そりゃ、そうだけど。でも、誰かがやらなきゃいけないことなんだよ。」
クレアはうんうんとうなづく。
「アタシも二機落としたしね。でもさ、やられてたのアタシかもしれないんだよね〜。」
そう、それが戦争なのだ。
三人はそれを分かっているつもりだった。
だが、やはり少ししこりが残る。
沈黙が訪れる。
そこへ、ドク・ダームが入って来た。
食堂のおばちゃんに酒を要求している。
「おい、俺の戦勝祝いだよ!なんだよ、だせよ!」
任務中だと注意を受けながらも、しつこいドクに小さなボトルが手渡される。
「たった、これだけかよ、酔えるか!…っと、お子様たちじゃねぇか、おめえたちも祝え!」
ジュナスは再び怒りがわいてくる。
そんな様子にお構いなく、ドクは続ける。
「いやあ、見事なもんだったな。ハイザックが爆発する様はよう!まあ、宇宙ってのは爆発が生えるのがいいよな。ただ、悲鳴が聞こえないのが難点か。あの降服兵なんてきっといい声で鳴いただろうに。ヒャハハハ!」
ガタッと音がする。
ジュナスは立ち上がり、ドクを睨む。
「…なんだ、小僧?」
ドクはジュナスを睨み返す。
「少尉は軍人ですか?殺人者ですか?」
ドクは吹き出して答えた。
「なんでもたのしまねえと損だぜ、小僧。殺しなんて最高の…。」
言葉の続きはなかった。
ジュナスは一気にドクに飛び掛かる!
「てめえ!」
ドクがジュナスを殴りつけるが、ジュナスもすぐに反撃する。
ジュナスは何度かドクに殴りつけるが、体格差もあり逆に押さえつけられてしまう。
「取り消せ!」
ジュナスは押さえつけられながらも言う。
「さっきの言葉を取り消せ!」
「やかましい、この…」
ドクの言葉は再び中断した。
左目を押さえて、ジュナスから身を引く。
「スキだらけだよ、ハゲ少尉。」
クレアがドクに輪ゴムを命中させたのだ。
「このアマ〜!」
「キャ〜♪」
クレアがわざとらしい悲鳴を上げて逃げる。
その時、食堂の入り口から声が聞こえた。
「やめやがれ!」
声の主はスタンだった。
そばにはルロイがいる。
争いになったときに彼がスタンを呼びに行ったのだ。
「今は戦闘状態にいつなってもおかしくねえんだ!へんなケンカで怪我でもしたらどうする?そんなのもわからねぇのか!」
ジュナス、クレアは俯いた。
が、クレアはジュナスのほうに目をむけ、舌を出していた。
ジュナスはそれに気付き、少し笑う。
今度は上手くいった。
ドクは舌打ちして、酒のボトルを持って食堂を出ようとする。
「ヘイヘイ、部屋で大人しくしてますよ。」
「おい、酒を飲んでるのか?」
スタンがドクを睨みつける。
「これは俺のガソリンだ。」
スタンはドクの返事に笑うと襟首を引っつかむ。
「ふざけんな、少尉。俺が預かろう。」
スタンの凄みに負けてドクはボトルを渡す。
そして、部屋に向かって去った行った。
「てめえらも部屋で大人しくしてろ!」
「は、はい。」
ジュナスが返事すると、スタンは笑った。
「ま、気持ちは分かるけどな。少しは押さえろや。じゃねえとミリアムみたいヒス持ちに思われるぞ。」
クレアが吹き出して返事する。
「気をつけま〜す。…いこ、ジュナス。」
クレアとジュナスが食堂から消える。
ルロイはスタンに謝る。
「すいません、なんか…。」
「いや、これも俺の仕事だろ、お前が気にすんな。」
「はい、ありがとうございます。」
スタンはにやりと笑うと、ボトルを煽る。
「うめえ、いやあ、役得役得!」
ルロイは苦笑した。