【共に鼓動を聞く者たち】 343氏



部屋に戻る途中、ジュナスは傍らのクレアに謝った。
「ごめん…。」
クレアはのーてんきに訊ね返す。
「なにがぁ?」
ジュナスは言葉に詰まってしまい、ただ、ため息をついた。
クレアはその様子を見て思う。
(もう一度笑わせなきゃなぁ…。)
ジュナスはポツリともらす。
「戦い続けたら、ああいう考え方になっちゃうのかな。」
「え?」
クレアの声にジュナスは俯いて続ける。
「降服兵でも撃ってしまうような、そしてそれを喜べるような、さ。」
ジュナスの部屋の前に着く。
「それじゃ…。」
ジュナスが部屋に戻ろうとした瞬間、クレアが手を引っ張る。
「な、なんだよ?」
うろたえるジュナスに顔を近づけて、ニヤニヤと笑うクレア。
「ね?おまじないしてあげようか?」
「はぁ?」
ジュナスが素っ頓狂な声を上げた瞬間、頬をクレアの唇がかすめた。
「なっ!?」
おどろくジュナスをクレアが蹴り飛ばす。
「さっさと元気になりなさいよ、バ〜カ!」
そのままジュナスは部屋に放り込まれ、扉が閉まる。
ジュナスは頬を押さえてへたり込み、呆然としていた。

「うっひゃあ〜…。」
「へっ!?」
突然の声にクレアは身体がビクリと動く。
声の方を振り向くと、アヤカが立っていた。
「え、えぇ!?」
動揺するクレアにアヤカが話しかける。
「クレアちゃんも凄いね〜。」
「あ、あの、アヤカさんいつからそこにいたんですか?」
「いや、クレアちゃんがジュナス君を蹴りこんだところ。」
その言葉を聞き、クレアは安堵する。
(あ、あぶな〜い♪)
その様子を見てアヤカが訊ねる。
「どしたの?」
クレアはぱたぱたと手を振る。
「いやあ、なんでもないんです、アハハ。」
「…変なの。」
二人は女性の部屋があるほうへ歩き出す。
「ジュナス君が怪我でもしたら、どうするの?」
「いやあ、アイツはガンダリウム合金で出来てるからだいじょ〜ぶですよ〜。」
「私も少し寝ないと、疲れちゃった。」
アヤカが部屋の前に着く。
「じゃね、クレアちゃん。」
「は〜い、おやすみなさ〜い。」
クレアも部屋にはいろうとしたその時、もう一度アヤカが扉から顔を出す。
「あ、クレアちゃん、キスするときは周りに気をつけてね〜。」
「う、あ〜!!」
クレアは赤面する。
「やっぱり見てたんだ〜!!」
「いやあ、若いもんはええのう〜。」
ニヤニヤ笑うアヤカは捨て台詞を吐いて部屋にはいっていった。

ウッヒが進路を確認する。
「月ですか。」
ハワードはその言葉に反応する。
「うむ、あそこでMSを受け取ることになっている。パイロットの補充もな。」
ミリアムがうなづく。
「リックディアスを3機でしたね。ガンダム奪取の様子からも良い機体みたいですが…。」
ミリアムは言葉を切る。
ハワードが続きをいう。
「問題はパイロットだな。」
「…そうです。優秀な方だと良いのですが。」
「ふむ。」
ハワードは少し笑いながら話す。
「大丈夫だよ、大尉。少なくともアレックスの三人は問題ない。立派な若者たちじゃないか。彼らが主力になればいい。補充兵はそのサポートさえ出来ればよい。」
「ええ、それは分かります。ダーム少尉はともかく…、あの子達は優秀ですね。戦力として期待できる活躍をしてくれました。アレックスの性能もいいですし。ただ…。」
ミリアムは少し憂いの目をして俯く。
「ただ?」
ハワードは先を促す。
「ただ、あんなに若い子達が戦う現実が、どうしても…。心配とかではないんですが。」
ハワードは息をつき立ち上がる。
「フリーズ准尉、ミュラー軍曹、ブリッジを頼むぞ。索敵をしっかりな。」
「…了解です、艦長。」
ブランドの返答に満足したハワードはミリアムに向き直る。
「少し、見てもらいたいデータがある。一緒に来てもらえるか?」
「え?あ、はい。」
ミリアムは少し不思議そうな顔をして返事する。
ハワードとミリアムがブリッジを出る。
ブランドとウッヒの二人が残る。
「二人っきりになっちゃったわねぇ、ウッヒさん?」
「ひっ!」
ウッヒがかすかな悲鳴を上げる。
「なに怯えてんのよ!」
ブランドのきつい言葉がブリッジに響く。

艦長室に入るハワードとミリアム。
「ま、適当にかけてくれ。」
そういうとハワードはコンピューターを起動させる。
そして戸棚へ。
焼酎とグラスを二つ出す。
「えっと、氷は…。」
酒の準備にいそしむハワードを見ながら、ミリアムはイスに腰掛ける。
「艦長、まだ、お酒はまずいんじゃないですか?敵の目から逃れたとはいえないと思いますが?」
ハワードは固まる。
「わかった…。」
準備したグラスと焼酎を戸棚に戻す。
そして起動したコンピューターにディスクを入れる。
「ミリアム大尉、この事実は知っていたかね?」
「え?」
ミリアムも画面を覗き込む。
「例の三人の新兵の過去だ。まあ、彼らがニュータイプであるという裏づけだな。」
「…こ、これは!」
ミリアムの表情を見てハワードは続ける。
「まあ、ジュナス・リアムとクレア・ヒースローの方は確かな証拠はないと思うがね。ルロイ・ギリアムはニュータイプだろうな。連邦のニュータイプ研、オーガスタに送られていたみたいだしな。」
ミリアムは息をつき、つぶやく。
「…それでも彼らはまだ、若すぎます。」
ハワードはコンピューターからはなれ、テーブルに向かう。
「しかし、実力は先の戦闘で証明された。戦うモチベーションに関しては…、これはちょっとな。個人的な感情を利用してると思われても仕方ないかもしれん。」
「連邦への恨み、ティターンズへの恨み…。」
二人は沈黙する。
「…重苦しいな。」
ハワードがため息をつく。
「ええ。」
ミリアムも同調する。
「…こういうときは酒でも飲んで気を紛らわせるとしよう!」
「ダメです。」
ハワードは提案を即座に否定され、悲しい顔をした。