シェルド篇@



その数分前。
シェルド・フォーリーは機体格納庫にいた。
ゼフィール・グラードは、彼を「精密機械」と評した。
子供の頃から、彼は機械をいじるのが好きだった。
壊れた機械を集めては、分解し、直し、壊れた機械同士をくっ付けて、別の物に改造したりするのが好きだった。
と、言うより、機械いじりのほかに好きなものなどなかった、と言った方が正しいのかも知れない。
機械いじりに対するキャリアだけで言ったら、彼は既に一般整備兵を凌ぐ経験と知識を持っていた。
そして、彼もまたニュータイプであり、その感応性を持って、機体の破損箇所や脆弱部分を言い当てることもあった。
しかし彼は、他人と接したことが圧倒的に少ない。
機械に関する経験はあっても、対人関係を築くことに乏しい彼は、他人と話すときに必ず挙動不審になった。
そのせいで、何度となくケイ・ニムロッドに怒鳴られた。
「しっかりしろ」と。
しかし、シェルドはそれでもしっかりやっているつもりなのだ。
機械いじりだけをやっているだけにはいかないものかなぁ。
そんなことを思いながら、彼は機体格納庫でMSに寄り掛かっていた。
部屋で布団に入るより、こうしてMSの傍に座って寄り掛かってうたた寝した方が落ち着く。
明日も、また怒鳴られてしまうんだろうか。

何でこんな思いしてまで、頑張らなきゃいけないのか。
それは、ゼフィールさんの期待に応えるためだ。
あの人だけが、僕を認めてくれた。
そうだ。
こんなところで、くじける訳にはいかないんだ。
よし、明日も頑張ろう。
そう思って腰を上げた時、天井から妙なノイズを聞いた気がした。
「あれ?こんな夜中に放送…」
することなんてあるんだ。と言葉を続けようとした瞬間。
絶叫が響いた。
『ジュナスさん!』
あまりの大声にシェルドは、反射的に耳を塞ぐ。
『はい!?』
ジュナスの声が聞こえる。
『私たぅつききかかっかだっさい!』
全艦内に向けた噛みまくりのその言葉は、
誰にも理解できなかった。