最終篇K  〜天使の輪の上で〜



ヅダは、何者かに導かれるようにキャリー・ベースの中へと戻っていった。
機体格納庫の中へ入ると、艦のハッチが閉まる。
三人は、ヅダの足元へと降りる。
「足元がある…ってのはいいものだな」
マークがそう呟く。
やがて空気音が鳴り、酸素が注入された。
「もうヘルメット取っても大丈夫ですかね」
「平気だ」
「もう苦しくって、苦しくって…」
ジュナスは自分のヘルメットを取る。
「あれ?これ?取れない…?」
ジュナスは、上手い具合にヘルメットが取れなくてモタモタしているパメラを助け、ヘルメットを取ってあげた。
「…熱い熱い」
マークは、右手で自分を扇いで、二人を冷やかした。

と、そこに。
扉が開き、クルー全員が駆け込んできた。
「ジュナス!無事だったか!!」
「パメラちゃん!!」
「マークさん!」
口々に叫びながら、クルー全員で3人を取り囲んだ。
マークは、その中にルナ艦長を見つけると、彼女に、
「只今、帰還いたしました…」
と、敬礼した。
「ごくろうだった…」
ルナも敬礼を返した。

今までとは違う、気持ちの良い静寂が、全員を包んだ。
と、そこで。
「お疲れのところ悪いがねぇ。やっぱオチを付けてもらわねぇとなぁ」
と、口火を切ったのはドク・ダームだった。
「オチって何ですか!オチって!」
ジュナスが言い返す。
「決まっンだろぉ?」
そこでドクは、ニヤリと笑った。
その背後から、ソニア・ヘインが現れると、
「一日遅れのバレンタインだ!!」
そう言いながら、手に持ってた何かをパメラへと投げた。
パメラは、その物体を受け取る。
そう、それは、ルナ・シーンのチョコレートだ。

「あ」
と、ルナは呟き、
「げぇッ!」
と、イワン・イワノフは唖然とした。

全員がパメラの方を注目していた。
「いや、あの、ちょ、ちょっと待って!」
そう言ったのは、ルナ・シーンだった。
何故か顔が真っ赤である。
「何で止めるんだ?」
ニキ・テイラーが素朴な疑問を口にする。
「いや、その、分かる。うん、分かるから、ちょっと待ってくれ」
ルナ艦長代理らしからぬ、挙動不審な様子である。
それはそうなのだろう。
あのチョコは、本来、彼女のものなのだから。
「あ、あの?」
パメラはどうしていいか分からない。
「うん、いま、代わりのものを用意するか…モガッ」
ニキ・テイラーとケイ・ニムロッドが協力して彼女の口を塞ぐ。
「いいから、いいから」

そこで、再度、静寂が辺りを包んだ。
パメラは、そのチョコレートを両手に抱え、一回、頷くと、ジュナスを見つめた。
「ジュナス・リアムさん」
「…はい」
パメラはしっかりと、ジュナスを見つめながら、チョコを差し出した。

「あなたが、好きです。私と結婚してください!!」
チョコを受け取りながら、ジュナスが応えた。
「喜んで…!」

瞬間、歓声が上がった。
「よっしゃぁ!!」
「うっそぉ!!何で結婚になるのよ!?」
「プロポーズしちゃった…」
「いや、オチ付けろとは言ったがなぁ…」
「良かったですわ…」
「うん」
「やばい、泣いちゃった…」
「やったぁ!やっちゃったぁ!」
「いえーい!」
「ちょっと皆さん、お待ちください!!」

沸きあがる歓声を留めたのは、クレア・ヒースローだった。
「皆さん?二人を祝福した気持ちは、分かりますよ?でもね、ほどほどにしましょうね。何せ今宵は、二人にとって、大事な大事な…」
クレアはそこで一瞬、間をためた。
「せぇーのぉ!!」
「「「「「「「 新 婚 初 夜 ! 」」」」」」」
ほぼ全員がそう言った。
「大正解!!」
そう言って場を盛り上げるクレアの目じりに、涙が浮かんでいることを、マリア・オーエンスとミリアム・エリンだけが気がついていた。