最終篇F  〜軌道上に幻影は疾る〜



ヅダのコクピットに、途方も無い衝撃が襲っていた。
最早、キャリー・ベースとの通信は意味を成していない。
「う、おおお、うおおおあああ!」
「だだ黙ってろってろろ!舌をぉぉ噛むむぞぉ!」
衝撃で、上手く喋ることすら叶わない。
機体は大きく揺れ続けている。
ヅダ自身による移動ではないため、その機体が空中分解することは無かった。
それでも、機体中のパーツ音が響き渡り、それはヅダの悲鳴のように聞こえた。
同じコクピット内にいるマークとジュナスも大声を出して、やっと会話が成立するくらいの爆音が響いていた。

そのままどのくらいの時間が経過したのだろう。
体感的に、ビームの威力が弱くなっていることにマークは気がついた。
「…んっぬぅうううぅ!」
「マ、マ、マークさん!」
衝撃も和らいで行き、やがて、ビームは完全に沈黙した。
「Iフィールド、切り離し!」
鈍い音が機体中に響く。
「ヅダ、メインコンピューター始動!」
ヅダのモノアイが輝く。
「改造ブースター、イグニッション!!」
ヅダ背後のブースターが、炎を灯し始める。
「これからが、本番だ!」
「はい!」
マークが、スロットルをフルに押し上げる。
「ヅダよ!お前も人に作られたものなら…人を救ってみせろぉーーーッ!」
マークの叫びに呼応するかのように、ヅダのモノアイが光った。
「行っけぇぇーーーーーッ」
ジュナスが叫ぶ。
ヅダは改造ブースターにより再加速する。
瞬間、コクピットを極度にまで達したGが襲う。
ブースター用の急造レバーがGによって外れ、マーク・ギルダーのヘルメット上部を直撃した。
「…っか!」
「マークさん!」
衝撃で、マークは気絶してしまう。
「マークさん!!」
ジュナスが叫ぶ。
しかし、その声は、誰の耳にも届かない。

「マーク、さん…!」
ジュナスは、マークを起こそうと、必死で手を伸ばす。
しかし、寸前のところで、その手は届かない。
「くっそおぉぉーーーーーッ!!」

ヅダは加速し続ける。
ブースターを操るレバーが外れたまま、
ブースターがフルスロットルで固定されたまま、
パイロットであるマークを気絶させたまま、
ヅダは、疾る。

そして、空中分解の危険は、すぐそこに迫っていた…。