チョコの行方A




目の前で、受け入れがたい事実が起こった際。
人が行うことは、否定だろうか、無視だろうか、パニックだろうか…。
それとも…。

「姐さん?入るぜぇ〜」
「失礼する」
ギルバート・タイラーとドク・ダームの二人は、そう言って医務室の扉の前に立つ。
マーク・ギルダーが駆け出して出て行ったため、扉に鍵などはかかっていない。
その為、医務室の扉はすんなりと開く。
瞬間、二人は眼にする。
両手両足を拘束され、猿轡をかまされ、床に転がっているソニア・ヘインを。

あれから二人は相談し、結局、誰かに事情を話し、預かってもらうのが適当だろう。と、いう結論に辿り着いていた。
しかし、軍関係者に事情を話すのは止めたほうがいい。と、ギルバートは考えた。
このチョコの正体が分からない以上、軍関係者に事情を話して、事を大きくする段階ではない、と彼は考えたのだ。
ドクもそれに同意し、二人は、嘱託医で艦に常駐しているソニア・ヘイン女医に預かってもらうことにしたのだ。
これなら、無駄に話が大きくならないだろう、と。

さて。
医務室に話を戻そう。
ソニアは、入ってきた二人を見止めると、「んー!んー!」と、首を振った。
何を否定しているのかさっぱり分からないが、まぁ、要するに、このサイトはエロ禁止ですよ、と、いうことなのだろう。
一方、ドクとギルバートの二人は、事情が飲み込めない。
詳しい話を聴きたい。
細かい話は聴きたくない。
そんな感じで、二人は突っ立っていた。

「見なかったことにするぜぇ。姐さん…」
ドクはやっとの思いでそう言う。
「お楽しみ中、失礼した…」
ギルバートは、そう言って頭を下げる。
「んんうーーーー!!!!」
違うーーーーー!!!!
そう叫びたいソニアさん。
心の底から、叫びたいソニアさん。
助けてください、と叫びたいソニアさん。
赤いスーツに白衣が眩しいぜソニアさん…。

「…」
「…」
「んー!んー!うー!」
拘束されたままの両手両足を必死でバタつかせ、何とか助けを請うソニア・ヘイン。
「…」
「…助けてくれ、か?」
ギルバートが何とか解読する。
「んん!」
ソニアがうなずく。
フローレンス・キリシマに拘束されて以来、約1時間ぶりに、ソニアは自由を取り戻した。



チョコの行方B



「助かった…いろんな意味で、もう駄目だと思ってた…」
ソニアは、床に座ったまま立ち上がることも出来ず、ぐったりとしたままそう言った。
「何があったんだぁ、姐さん?」
ドクの疑問も最もである。
しかし、
「…」
呼吸するだけで精一杯のソニアにそんな余裕はない。
キリシマに対する怒りも薄れ、もう、助かった事実に感謝するしかない。
「…コーヒーでも淹れよう。その間に落ち着くだろう」
ギルバートが、そうドクに提案する。
「…苦いコーヒーで頼む」
あら、余裕あるじゃないソニアさん。

コーヒーを淹れ、一息ついたところで、三人は情報交換をしていた。
「フローレンスがねぇ…マークをねぇ…」
ドクがそう呟く。
(…朴念仁というより、天然だったのか)
マークに手紙を渡したギルバートは、彼の評価を改めた。

「本当に、もう駄目だと思った。世界中で、いま、私は一人きりなんだと絶望したよ…」
椅子に座り、机に突っ伏したままソニアはそう言う。
「んな、大げさな」
ドクがそう笑うが、
「お前も同じ目に合ってみろ!!」
ソニアは、起き上がってそう怒鳴り返す。
彼女は再度机に突っ伏すと
「本当にもう駄目だと、思ったんだ。お前らが入ってきた時は天使に見えたよ…」
と、そう言った。
「天使…」
「…俺らがかぁ?」
ルーベンスの絵の前でネ○とパトラ○シュが死に逝く。
そんな彼らの元に、天使の羽根を持ち、純白の衣に身を包んだドク・ダームとギルバート・タイラーが、天から光を浴びながらパタパタと舞い降りる。
想像するも恐ろしい、あぁ恐ろしい。
○ロもパ○ラッシュもおちおち死んでいられません。

「今ならお前らに求婚されても受け入れてしまいそうだ…」
「姐さん、結婚してくれ」
「死んでも嫌だ」
「元気じゃねぇか…」
ドクとソニアの掛け合いを見ながら、ギルバートは、
(こっちの事情を説明したいんだが…)
と、あくまで冷静に考えていた。