番外編【ブラッド先生、夏の一日】



ガンダム世界のあらゆる世界観、時代、陣営をせわしなく動き回るGジェネオリキャラ部隊…
そのオリキャラ軍の本拠地といえる基地が、この世のどこかにあるという…
その場所は誰も知らない、知られちゃいけない…
ともかく、彼らは出撃が無い時はそこで待機をしているという…


〜収録前、その基地内の調理室にて〜
プシュー(ドアの開く音)
ブラッド「ククク、いい天気だなゴミども!
     今回の料理はシャケのムニエ………なんだ、まだ誰も来ておらんのか!
     全く不真面目なゴミどもめ……何をしているッ!
     呼びつけてやろう……待っていろゴミども!
     まずはアシスタント役だ……通信を入れてやる…」
プルルルルル…
プルルルルル…
リコル(電話)「はいリコルで〜す!」
ブラッド「…ワタシだ!」
リコル「え? 誰ですかぁ? 新手の詐欺師さん?」
ブラッド「違うわ! ブラッドだ! キサマ収録が間もなく始まろうというのに…
     どこで何をしている!」
リコル「あれれ、言ってませんでしたっけ。
    今日はみんなで有給をもらって、ピクニックしてるんですよ〜」
ブラッド「何だそれは! 夏休みの学生でもあるまいに……
     いくら部隊に十代が多いといってもだな…」
リコル「今日はいい天気ですから。ゼノン艦長のいきなはからいで
    今日だけはみんな休みを貰えることになってるんですよ〜!
    艦内報読まなかったんですかぁ?」
ブラッド「艦内報…? あぁ、回覧のことか。
     あんなものは着任以来一度たりとも読んだことはない…」
リコル「それじゃわからないわけですねぇ。
    こういう日こそ息抜きにぴったりですよ!
    ブラッドさんも来るといいですぅ!」
ブラッド「行くかッ! これから料理教室だと言っとるだろうが…
     ……もういい! キサマなど必要ない…代わりはいるからな!
     久しぶりにラのヤツを使ってやるか…」
リコル「え、先輩ですかぁ…」
ブラッド「……まさか、ヤツもそこにいるのか?」
リコル「いえいえ、ここにはいないんですけどね〜
    なんでも夏カゼひいちゃったみたいで。今日は一日寝込むみたいですよ。
    よりによって今日かかっちゃうなんてかわいそうですぅ…」
ブラッド「…ク、ヤツも使えんか…
     ならば仕方ない、ドクかニードルでも呼びつけるか…」
リコル「それがいいでしょう!
    お仕事頑張って下さいね〜! 私達は休みですけど。」
ブラッド「………」
リコル「それじゃ切りますね〜。」
ピッ!

ブラッド「いきなり切りおった、ゴミめ……
     いかん、もう収録時間が近いではないか…急がねばな!
     しかし何故急に休暇など…」



プルルルルル…
プルルルルル…
ニードル(電話)「おうブラッドかァ!! どうした!?」
ブラッド「ニードルか…実は頼みがあるのだ。
     料理教室の人手が足りなくてな…」
ニードル「あぁ、悪いィブラッド!
     今忙しくてなァ!! そんなのに付き合っちゃいらんねーぜェ! ヒャヒャヒャ!!」
ブラッド「…何か用事でもあるのか? キサマに……」
ドク「ヒャヒャヒャ! せっかくの休みだからなァ!
   みんな集めて島に来てるんだよ島に! サーフィンは楽しいぜェ!」
ブラッド「ク、キサマも休暇か…
     ……ドクに連絡はつくか? ヤツでもいれば相手役にはなる…」
ニードル「ドクかァ! ヤツも来てるぜェ! 林の方で虫捕りやってる!
     楽しそうだぜェ! バイスもナンパに大忙しだし、デニス達も集まってサバゲーやってるしよォ!
     レンタル兵も来てるしなァ!」
ブラッド「ク、どいつもこいつも……
     そもそもストライキ中ではなかったかレンタル兵は…」
ニードル「なァ、テメエも仕事なんかしてねェでこっち来たらどうだァ!
     休みなんだしよォ! こっちでバーベーキューでもやろうぜェ!」
ブラッド「今から行ったところで仕方があるまい、場所もわからんしな……
     ワタシはやめておくとしよう…」
ニードル「そうか、残念だなァ。ドクのヤツもテメエが来るの楽しみにしてたのになァ。
     ま、土産でも買ってってやるよ。欲しいモンは何かあるかァ?」
ブラッド「……塩を頼む。足りなくなってきているのでな…」
ニードル「塩かァ…それだけでいいのか?」
ブラッド「構わん! では切るぞ!」
ニードル「おォ! 収録頑張れよなァ!ヒャヒャヒャ」
ピッ!
ブラッド「フン…肝心な時に使えんゴミどもめ…
     ……一斉休暇か。どんな軍隊だここは…
     新作が出れば忙しくなる……せいぜい今のうちに短い休みを味わっておけ!
    (……しかしいよいよ猶予もないな…ゼノンもいないだろう。となると助手も
     向こうから来はしまい……ワタシ自ら探しに行くしかないか。ゴミめ…
     誰か残っていればいいのだが…)」



数十分後…
ブラッド(ク…誰も見つからんとは……
     本当にワタシ以外全員出かけてしまったのかもしれんな…
     ………収録予定時刻も大幅に超えてしまった。
     仕方あるまい…ワタシ一人でやるしかないな!
     まあ、本来このワタシの腕があれば助手もアシスタントも必要ないのだがな…クククク…
     カメラも据え置きのものを使えばいいだろう……)
〜調理室〜
ブラッド「………誰かおるな。いつの間に……賊か!?
     …誰だッ! 神聖な我が調理室に無断で入り込むゴミはッ!」
ブランド「いつからアンタのものになったんだい!!」
ジェシカ「そうだ! 調理室は個人のものではない!」
ブラッド「ブ、ブランドか…賊の方がまだマシだったな……
     それに暴力女までいるとは……地獄かここは」
ジェシカ「誰が暴力女だ! 相変わらず口の減らんヤツだ…」
ブランド「まったくイヤなお客さんだね!
     追い返してやりなッ!」
ブラッド「追い返されるのはキサマらだゴミどもめッ!
     …しかし、皆出払っているものだと思っていたがな。キサマらは残ったのか…」
ジェシカ「バカを言うな、休みとはいえ部隊全員が休むわけがないだろう。
     その時に敵襲にあったらどうするんだ!」
ブランド「アタシ達は別の日に休暇を貰ったのよ。
     あのゼノンちゃんがそこまで考えてないわけないじゃないのさ…」
ブラッド「妙な呼び方をするな気持ち悪い…
     …キサマらここに何の用だ! ここはワタシがこれから料理教室を執り行うのだぞ!
     まさかキサマらが自ら助手役を申し出てきたわけではあるまい?」
ジェシカ「そんなわけがあるか!
     …何の用かだと? 調理室に料理以外の用があるものか。」
ブラッド「キサマらも料理か…」
ブランド「そういうこと! アンタはそこで待ってるんだねェ…
     なんなら……待ってる間にアタシがイイコトしてあげようか?」
ブラッド「うおぉ、来るなゴミが! ゴミがゴミがゴミがぁぁぁぁぁ!」
ブランド「ウフフフ、可愛いねェ…」
ブラッド「ええい!ゴミがッ!!消えろ!消えろぉぉぉッ!!」
ジェシカ「…悪ふざけはそこまでにしておけブランド。」
ブランド「ハン、しょうがないわねぇ…」
ブラッド「…クッ、全く気色の悪い生物め……」

ブラッド「…何だキサマら、集まって何を作っているかと思えば…ただの粥か。
     ククク、下らん料理だな!」
ジェシカ「黙れ! また痛い目にあいたいか!」
ブランド「全く、料理人なら人の料理の邪魔はやめなさいよ!」
ブラッド「フン、わかったわかった…
     ……粥など作ってどうするのだ、こう暑いというのに…」
ジェシカ「…ラが風邪で寝込んでるんだ。元気をつけてもらわないとな。」
ブラッド「……あぁ、リコルのゴミもそう言っていたな。」
ブランド「そういうことだからねェ…もう邪魔するんじゃないよ!」
ブラッド「フン……あんなゴミのために粥作りとはな。
     暇な連中だ…」
ブランド「アンタには負けるわよ。」
ジェシカ「同感だな。」
ブラッド「ク、バカにしおって…
     とても料理教室などやっている気分ではなくなった。ワタシは戻る…」
ブランド「それがいいわねェ。さぁ行った行った!」
ブラッド「そうさせてもらう…」
ジェシカ「やっと静かになるな。」
ブラッド「…………行く前に言っておいてやる…粥には青菜を入れると良いぞ。
     風邪によく効く上、味も彩りも良くなる…
     …卵や鶏肉も悪くない……」
ジェシカ「フン、言われるまでもない!」
ブランド「…そんなこと言うんならアンタも手伝ったらどうだい?
     ちょっとは気になるんでしょう?」
ブラッド「フン、まさか…………
     ……塩分には十分注意するのだぞ! じゃあなッ!」


ブランド「…全く素直じゃないんだから。」
ジェシカ「ああいうヤツだ、アイツは。」



〜格納庫〜
ブラッド(……勢いで出てきたものの、格納庫を眺めるくらいしかやることもないな…
     こんなことなら多少無理をしてでも島に行けば良かったかもしれん…
     マークのフェニックスにゴミOPを付けるような気分にもならんし……)
ライル「あ、ブラッドさんじゃないですか!」
ブラッド「……なんだライルか。キサマも残ったのか…」
ライル「いやぁ、休暇でも整備担当は一人は残ることになってましてね。今日はボクの番なんですよ。
    一日でもほったらかしにしとくと何があるかわかりませんし、どうにも
    落ち着かないんですよねェ……」
ブラッド「フン、生真面目なことだな…」
ライル「いやぁ、それほどでも…」
ブラッド「…誰も褒めてなどはおらん。皮肉だ皮肉…」
ライル「皮肉でしたかぁ、これは一本とられたかな! フフフ…」
ブラッド「…(何だこのゴミは…)
     ……キサマまさか、今まで一人で整備でもしていたのではあるまいな?」
ライル「わかりましたか! いやぁ〜これが中々重労働でして…」
ブラッド「フン、この状況で奇特なヤツもいたものだな…
     ……しかし、一軍で使われてるような機体ならまだわかるが
     ほとんど使われてないゴミのような機体など、わざわざ整備する必要は無い……
     ザニーに旧ザク、ザクキャノン…こんな旧式を使うことはないだろう、時間と体力の浪費だ!」
ライル「…そんなことはないですよ。
    ボクにとっては有意義な時間と体力の使い方です!
    それに、たまにブラッドさんたちも料理教室の特別編とかで使うじゃないですか、旧式。」
ブラッド「そうだったかね…」
ライル「…たまにでも、こうやって整備してやるとね。喜んでる気がするんですよ。こいつらが…
    気のせいなんでしょうけどね…」
ブラッド「フン、意味がわからんな…」
ライル「まぁ、そうですよねェ…」
ブラッド「………ともかく、一人の作業には限度がある。あまり無理はせんことだな…
     怪我をされてもつまらん。
     …調理室の冷蔵庫にキサマの好きそうな菓子がある。
     一段落したら喰いにいくがいい……」
ライル「え、いいんですか!? いつもは食べると怒るのに…」
ブラッド「…クククク、どうも食欲が無くてな…
     処分に困っていたのだ。丁度な…」
ライル「そうですか、それでは後ほどいただくことにします!
    ありがとうございます!」
ブラッド「フン、例を言われる覚えは無い、ただキサマを利用しただけだ……
     …こんな所にいつまでもいても仕方あるまい、ワタシは戻るぞ。
     ではな…」
ライル「あ、それではお気をつけて!」
ブラッド「何が気をつけてだ、出撃するわけでもあるまいに…」



〜ある一室〜
ブラッド「しかし暇なことだな… いっそ敵でも襲ってくればいいのだが。
     それにしても吸いの悪い掃除機だ……旧式を解体してダイ○ンを買えダ○ソンを!」
ゼノン「掃除か。精が出るな!」
ブラッド「……(ク、ゼノンか…このゴミも残っていたとは…)
     …これはこれはゼノン艦長殿。直接お会いするのは久しぶりですな…
     ククク、ゴミを見ると我慢が出来ない性分でしてな……」
ゼノン「それはいい心がけだな。若い連中にも見習わせたいものだ!」
ブラッド「……このことは隊のゴミどもにはくれぐれも内密に…
     …ワタシの築き上げてきた「悪」のイメージが崩れます故…」
ゼノン「そうかそうか、承知したよ…
    それにしても、さっき何か気になることを言っていたな?
    確か「敵が襲ってくればいい」と…」
ブラッド「ククク…ただの冗談ですよ、ほんのね…」
ゼノン「それにしては随分と言葉に心がこもっていたようだが?
    いやはや、血気盛んなようで何よりだ!」
ブラッド「……相変わらず喰えませんな、艦長殿…」
ゼノン「よく言われる…」
ブラッド「………今度の休暇は貴方の計らいでしたな?
     何故このようなことを? ワタシには意図が読めませんな…
     (おかげで暇を持て余しておるわ、ゴミめ……)」
ゼノン「…意図などはないな。
    兵士とて生身の人間だ、羽根を伸ばす機会も必要だろうと思ってな。
    …この部隊のように、若い兵士の多い部隊ならば尚更だ。」
ブラッド「それだけで?
     …相変わらず、人情派なようで……」
ゼノン「…本音を言うとな、たまには物静かで落ち着いた基地というものも体験してみたくてな!」
ブラッド「クククク……中々苦労が尽きませんな!」
ゼノン「お陰様でな! ハハハ!」
ブラッド「ククク…そうでしょうとも!」
ゼノン「いやはや… 料理教室だったかな? お前がやっている…
    楽しませてもらっているよ。」
ブラッド「ククク、お恥ずかしいことで……」
ゼノン「…何時までもやんちゃなのもいいが、この間のように損害を出されては困るぞ?
    私もこれ以上はかばいきれんからな…」
ブラッド「………ああ、北極基地の一件のことですな…
     あの件に関しては申し開きようもございませんな…」
ゼノン「ハハハハ、先ほどの冗談と比べて心がこもらん返答だな!」
ブラッド「クククク、わかりますか……」
ゼノン「伊達に長年お前の上司をしてはおらんよ。
    …私はやりのこした仕事があるからな、そろそろ戻らんと。」
ブラッド「それはそれは……皆は休暇だというのに御苦労なことですな!」
ゼノン「艦長とはそういうものだ…
    それでは掃除頑張れよ、問題児君!」
ブラッド「…それではまた……」


ブラッド「…………どうしたというのだ、ゼノンのゴミは。いきなり…
     酒を呑んでいたわけでもなかったようだし……
     そろそろ年だからな…キてしまったのか…?
     まあどうだろうと構わん…掃除を続けるとするか。」

〜数時間後〜
ブラッド「…掃除はこのくらいで終わりにするか……
     ……もうこんな時間か。
     何という日だ今日は……
     悪としての活動は…ジェシカたちの見舞い料理とライルの整備の邪魔をし
     ゼノンの貴重な時間を潰したのだったな。
     ……小さな悪事だが、よしとしよう……ククク、一日一悪というものだ…
     …さて、部屋に戻る前に外の空気でも吸ってくるとするか……」



〜外〜
ブラッド「…ん、ここにも残っている者がおったか…
     ルナ・シーン! キサマも残ったのか?」
ルナ「………ああ。」
ブラッド「そうか。せっかくの休みだというのに、相変わらず変わったヤツだ!
    (まあ、人のことは言えんが……)」
ルナ「……………」
ブラッド「…何をしておるのだ、こんな所で。
     悟りでも開こうというのか…?」
ルナ「………景色を見ていた。」
ブラッド「景色だと?
     …何の変哲もないただの景色ではないか。
     こんなものの何が楽しい?」
ルナ「………綺麗な夕焼けだ。」
ブラッド「フン、夕焼けなどに綺麗も汚いもあるものか…」
ルナ「…………わからないか?」
ブラッド「ああ、わからんな…
     こんなものに美しさを感じる心など、とうに捨て去ったのだ!」
ルナ「…………そうかな。」
ブラッド「…なんだ、どういう意味だそれは…」
ルナ「………なんとなく、今お前が自分を偽ったように感じた。」
ブラッド「ク、何をバカな……これだからNTという人種は気に食わんのだ!
     根拠も無しに人の心を見透かしたようなことを言いおって……」
ルナ「………図星か?」
ブラッド「フン、そんなことは有り得ん! 有り得んのだ……」
ルナ「……………認めたくないなら、それもいい。」
ブラッド「…あくまで自分の勘を信じるか。これだからNTは…」
ガサッ!
ブラッド「…何だ今の物音はッ! 敵のスパイか!?」
ルナ「………違う。」
ブラッド「…なんだ、ただの小動物か。期待させおって…」
ルナ「…………猫だ。」
ブラッド「…全く、近くに森があるとはいえ基地にこんな生物が入り込むとはな…」
ルナ「…………いつもこのくらいの時間に来る。」
ブラッド「…そうか、通い猫というヤツだな…
     しかもやけに人馴れしておる……
     この隊のことだ、誰かが餌付けしているのかもしれんな。
     …しかし知られていないとはいえ、基地なぞに通うとはな。よほど危険察知能力が低いと見える…」
ルナ「………かわいいだろ?」
ブラッド「…可愛い、か。解せん感情だ…」
ルナ「そうか……気の毒に。」
ブラッド「フン、何が気の毒なものか……
     ……あんなものがそんなに可愛いものか?」
ルナ「…………ああ。」
ブラッド「そうか…。」




ルナ「(……あいつがいない…帰ったのか。
   ………ああ、それにしてもかわいい…)
   ……………!!」

ガバッ!
フギャー!!
ブラッド「こら暴れるなゴミめ!」
ルナ「…な、何をする!」
ブラッド「ククク、見ろ! ワタシが先に捕まえてやったぞ!」
ルナ「やめろ、離してやれ!」
ブラッド「…何だ、スキを突いて捕えようとしていたのではないのか。わからんヤツだ…」
ルナ「……わからんのはお前だ!」
ブラッド「…ク、まだ暴れるかこの! 爪を出すな、アッガイかキサマは!」
ルナ「……離してやれ、嫌がってるだろ!」
ブラッド「ククク…そう慌てるな。
     せっかく捕まえたのだ、すぐに帰すという手はあるまい…」
ルナ「………離してやれと言っている!!」
ブラッド「…ク、わかったわかった、離せばいいのだろう…
     さぁ、離してやったぞ! …これで満足か?」
ルナ「全く………
   …………もう大丈夫だ、怖かったろう?」
ブラッド「ん……なんだ、それはキサマの猫だったのか?」
ルナ「…………違う。」
ブラッド「違うだと? ならば何故そこまで懐いているのだ?
     猫とは警戒心が強い生き物だとドクから聞いたぞ……」
ルナ「………エサをあげてたら、懐いた。」
ブラッド「そうか、餌付けをしていたのはキサマだったのか! らしくもないことを…
     …キサマさては……ただ夕焼けを見ていたわけではなく、この猫を待っていたのだな?」
ルナ「……………そうだ、悪いか。」
ブラッド「ククク、図星か……休みも返上して猫の世話とは、寂しい女だな!」
ルナ「…………うるさい!」
ブラッド「クククク……
     …エサをやっていたと言っていたが、何を食わせているのだ?
     料理をするものとしては、興味が無くはないな…」
ルナ「………軍の食事の余りとか、いろいろだ。」
ブラッド「なんだ、そんなものでいいのか?
     猫といえば魚好きなイメージがあるがな…」
ルナ「…………食べさせてやりたいが…中々手に入らない。」
ブラッド「そうか、考えて見れば我が軍の食事には魚料理は少なかったな…
     ……よし、その猫をそこに待たせておけ。
     ククク、いいものを持ってきてやろう…」
ルナ「……………?」



ブラッド「ククク…待たせたな!」
ルナ「…………なんだ、何か持ってきたのか?」
ブラッド「フン…大したものではないがな!
     ……シャケの切り身だ! 今日の料理教室で使う予定だったのだがな。
     今日は教室自体がなくなってしまったので不要となった!
     こいつに処理させることとしよう…」
ルナ「………本当か! 良かったな、魚が食べられるぞ!」
ブラッド「クククク、さぁ、喰うがいい!」
ルナ「…………」
ブラッド「…………」
ルナ「…………」
ブラッド「…………」
ルナ「…………」
ブラッド「………何だ、喰わんぞ!」
ルナ「…………嫌いなのかもしれない。」
ブラッド「な……猫の癖に魚が嫌いだと!?
     ええい畜生の分際で好き嫌いか!分を弁えろ分を!」
ルナ「………ムキになるな。」
ブラッド「ク、ワタシがこんなことをするのは十年に一度あるかないかだぞ!?
     その好意とシャケを無駄にしおって……なんというゴミ猫だ!」
ルナ「…………ゴミ猫言うな。
   ……でも、まさかオマエがこの子のために魚を持ってきてくれるとはな。
   ………この子の代わりに、私から礼を言っておく。」
ブラッド「フン、勘違いするな……ただ残飯処理に利用しただけだ」

アキラ「おーい、何してるんだいキミ達!!」
ブラッド「…何だホンゴウ、キサマも残っていたのか。
     意外だな……」
アキラ「トレーニングルームが空いていたからな! 今日は一日特訓漬けさ!
    今日もまた一歩、明鏡止水の境地に近付けたよ…
    今は息抜きにちょっと外の空気を吸いに来たんだ!
    いやぁ、それにしても今日はいい夕焼けだ!」
ルナ「………わかるか?」
アキラ「あぁ、わかるさ! こういう夕焼けを見ると
    今にも走り出したくなるよ!」
ブラッド「全く暑苦しいヤツだ、ただでさえ暑いというのに…」
アキラ「お、猫がいるじゃないか! どうしたんだいこの子は!?」
ルナ「…………よくここに来る。」
アキラ「そうなのか! はっはっは、かわいいやつだ!
    よし、今日からオレとオマエは友達だ!」
パシッ!
ルナ「…………あ、猫パンチ。」
ブラッド「クククク、嫌われたな!」
アキラ「フッ………猫なのにいいパンチしてやがるぜ!
    ますます気に入ったぜ! 何としてでも仲良くなってやる!」
ブラッド「フン、無駄なあがきを…」



〜数分後〜
アキラ「はっはっは! かわいいやつめ!」
ブラッド「…まさか、本当に仲良くなるとはな…」
ルナ「…………あんなに警戒されていたのに。不思議だ。」
アキラ「何故仲良くなれたかって? …諦めなかったからさ!
    諦めない限り…必ず道は開けるんだ!」
ブラッド「…意味がわからんが、実際仲良くなっているのだからバカにはできんな…
     ……今ならシャケも喰うのではないか?
     そら、喰え!」
ルナ「…………食べないな。」
ブラッド「…ク、食欲の無い猫だ…」
アキラ「諦めちゃダメだ、貸してくれ!
    …さぁ、美味いぞ。食べてみるんだ!」
ルナ「…………食べた!」
ブラッド「な……どういうことなのだこれは…
     …ワタシの差し出したものだったから喰わなかったとでもいうのか、このゴミ猫め!」
ルナ「…………だからゴミ猫というな!」
アキラ「そうだな! それはいけないぞ!」
ブラッド「ク、総スカンか…」
アキラ「いやぁ、それにしてもかわいいなあ!
    名前はないのかい!?」
ルナ「………まだ無い。」
ブラッド「フン、こんなヤツ「ゴミ猫」で十分だ!」
ルナ「…………怒るぞ。」
アキラ「そうか、名前は無いのか。
    …よし、それならオレ達で名前をつけてあげようじゃないか!」
ルナ「………名前か。」
ブラッド「…アッガイというのはどうだ? すぐ爪を出す故…」
ルナ「…………却下!」



〜数分後〜
アキラ「うぅぅむ、中々決まらないな!」
ブラッド「…もう「ザクレロ」でいいのではないか? 顔も似ておるし…」
ルナ「…………似てない!」
アキラ「そんなんじゃダメだァ!名前にはちゃんと魂を込まなくちゃあ!
    オレとしては、熱い意味を持った漢字に、最後に「丸」は譲れないと思うんだ!」
ルナ「…………もっと、かわいいのがいい。」
アキラ「そうかぁ、ならどんなのがいいかな…」
ブラッド「…名前など何でもよかろう! そもそも必要なのか…?」

ラ「あれ、皆さん集まってどうしたんですか?」
アキラ「おお、ラちゃんじゃないか!」
ブラッド「…なんだ、風邪で寝込んでいたのではなかったのか?」
ラ「そうですけど…だいぶ良くなってきたし、少しは外の空気を吸った方が
  いいってジェシカさん達が言うもので。」
ブラッド「…そうか。しかし外の空気大人気だな…」
ラ「…あ、どうしたんですかその猫ちゃん! かわいいですね!」
アキラ「かわいいだろう! ルナさんに懐いてる猫なんだ!」
ルナ「…………さわってもいいぞ。」
ラ「本当ですか!? それでは失礼して…
  うわぁ〜モフモフですね! それにしても大人しい子ですねぇ…」
ブラッド「…何だ、引っ掻かれでもすれば面白かったものを。」
ルナ「………この子はそんなことはしない。大人しい子なんだ…」
ブラッド「フン、ワタシの時とはえらい違いだな、ゴミ猫め…」
ルナ「………オマエは警戒されている。」
ラ「あ〜、やっぱり猫にもわかるものなんですね。」
ブラッド「どういう意味だ…」
ラ「あ、いえ、深い意味は…」
アキラ「そう気を落とすなよブラッドさん!!
    オレだって最初は警戒されたさ!」
ブラッド「フン、女にばかり気を許しおって…
     助平な猫だ! よし、こいつの名前は今日から「バイス・シュート」に決まりだな!」
ルナ「…………冗談じゃない!」
ブラッド「ククク、そう怒るな。冗談だ冗談……」
ラ「冗談でも流石にそれはないですよブラッドさん…」
アキラ「そうだ! 言っていい事と悪いことがあるぞ!」
ブラッド「ク、キサマらヤツを何だと思っているのだ…」



ラ「それにしてもかわいい子ですねぇ…
  本当の名前はなんていうんですか?」
ルナ「…………まだ無い。」
アキラ「だからオレ達でつけてあげようと思って話し合ってたんだ!」
ラ「そうだったんですか。」
アキラ「さぁ、キミも一緒に考えてみないかい!?」
ラ「名前ですか…どうせなら、この子に似合うかわいらしい名前をつけてあげたいですよね!」
ルナ「………わかるか、私もそう思う。」
ブラッド「フン、だから名前など何でもいいと言っとるだろう…」
ラ「何でもよくはないですよ…」
ブラッド「…しかし珍しい組み合わせだなキサマら!
     名前に「ルナ」がつくもの同士とは…」
アキラ「本当だ! すごいな!」
ラ「…私はブラッドさんとアキラさんの組み合わせの方が珍しいと思いますけど。」
ルナ「………同感だ。」
アキラ「おお、そう言われればそうだ!」
ブラッド「フン、正反対のキャラクター性だからな…
     …しかし、せっかく同じ名を持ったもの同士が知っておる猫なのだ。
     いっそこの猫の名も「ルナ」でいいのではないか…?」
ラ「う〜ん…どうなんですかねぇ。自分と同じ名前って…」
ルナ「…………呼ぶとき、変な気分になりそうだ。」
ブラッド「…そうか。これも却下か、ゴミどもめ…
     …ラ! そういえばキサマは名前をいくつか持っていたな!」
ラ「な、何ですかいきなり」
アキラ「そうだったのかい!?
    へえ、シャアみたいでかっこいいなぁ!」
ラ「まぁ昔の話ですけど…」
ブラッド「ククク、昔の話か!ならば尚いい…
     …今は使っていないのなら、そのうちの一つでもこの猫に譲ってやったらどうだ!」
ラ「ど、どうですかねそれは…」
ブラッド「フン、確か猫に合いそうな名前もあったような気がしたのだがな!
     ミケだったか、ニケだったか…」
ラ「…もしかして「ミシェ・クローデル」のことですか?」
ルナ「…………ミシェか。悪くない。」
アキラ「気に入ったかい!? よし、ならそれに決めようじゃないか!」
ラ「え〜!? 本気ですかぁ!?」
ブラッド「ククク、不服か?
     もう遅い、こいつの名はミシェだ! その名のことは諦めるがいい…」
ラ「そ、そんなぁ…」



〜数時間後、調理室〜
リコル「あははは、そんなことがあったんですかぁ。」
ブラッド「名を奪うのは可哀相だと連中が言うものだからな…
     最終的には「ミシェ」に近い「ミケ」に決められてしまったぞ!
     あれだけ時間をかけて話し合いをして、結局普通のありふれたゴミのような名前とはな…」
リコル「オチ付きですかぁ! 当分話には困りませんね〜。」
ブラッド「どうだかな……
     …しかし、下らんことでこのワタシの貴重な時間が奪われたものだ。」
リコル「そんなこと言っちゃって、本当はブラッドさんも楽しかったんじゃないですかぁ?」
ブラッド「フン、そんなことは有り得ん…有り得んのだ……」
リコル「それにしても、今日は本当にどこにも行かなかったんですか〜。意外ですぅ。」
ブラッド「意外だと? 何が意外だ…」
リコル「いつもお料理教室で遠くに行ったり、段取り決めたりしてるじゃないですかぁ。
    だからこーゆー機会があったら、誰よりもノリノリで遊びに行きそうなイメージがあったので…」
ブラッド「…どんなイメージだ!
     それではただの遊び好きではないか…」
リコル「あはは、すいませ〜ん」
ブラッド「…全く、キサマをはじめ最近はワタシのことを誤解する風潮があるようだな…
     いいか、このワタシのイメージといえば「悪」だ!
     それ以外に何がある……」
リコル「ん〜…前それ聞いたときも思ったんですけど、ブラッドさんって本当に悪い人なんですかぁ?」
ブラッド「…フン、何を言うかと思えばこのゴミは。
     ワタシが悪ではないとは……ククク、こんなふざけた話は始めて聞いたぞ!」
リコル「だって、さっきのお話も絶対悪い人がする話じゃないですよ!
    そりゃ口は悪いですけど…
    本当はムリしてキャラを作ってるだけなんじゃないですかぁ?」
ブラッド「ク、何を馬鹿げた事を……そんな下らんことを言っとらんでさっさと
     次の料理教室の段取りを決めるぞ! まずは品目だが…」
リコル「あ、私は甘いものがいいですぅ!」
ブラッド「フン、考えておこう……
     ……しかしニードルどもはまだ帰ってこんのか。遊び呆けおって…」



〜その頃、ライル〜
ライル「あ〜、ブラッドさんのくれたお菓子は美味しかったなあ!
    …あれ、ユーコンが戻ってきてない。まだニードルさん達は帰ってないのかァ。
    泊まりで遊びに行ったのかな。
    明日から通常通りなのに…大丈夫かな。」


〜その頃のユーコン〜
ニードル「クソォ! 潜水艦での旅行も乙なもんだと思ったんだけどなァ!
     完全に迷っちまったぜェ!」
ドク「うっひぃぃぃ! ここはどこだぁぁぁぁ!!」
バイス「行きはなんとかなったんだけどな〜♪
    計器もイカれちまってるぜ♪ ミノ何たら粒子の影響かぁ?♪」
ドク「ひゃあぁぁぁぁ! 迷子だぁぁぁぁ!!」
ニードル「チキショオォ、デニスかグレッグでもいたら
     どうすりゃいいかわかるんだろーけどなァ…」
バイス「途中でベルファ〜ストで降ろしちまったもんな〜♪」
ニードル「知り合いがいるからそっからでも帰れるとか言ってたなァ。」
ドク「うおぉぉぉぉいぃ!!
   このままじゃアイツの方が先に着いちまうぞぉぉぉ!!」
ニードル「バカかァ! それ以前に帰れるかどうかがわかんねェーんだよ!」
ドク「ひゃあぁぁぁぁ! お先真っ暗だぁぁぁぁ!!
   外も真っ暗だぁぁぁぁ! 何にも見えねぇぇぇぇ!!」
ニードル「チクショウ、光が届いてねーぜェ! 水深何マイルだここは!
     おいレンタル兵ども! テメエらどうにかできねーのかァ!?」
NTレンタル兵「…すまん、どうにもならんよ。」
レンタル兵軍曹「オレ達はあくまでパイロットだからな。」
レンタル兵伍長「こういうことは仕官レンタル兵じゃないとな…」
ニードル「くそォォォォッ! どこまで使えねーんだよテメーらは!!」
バイス「こりゃあ……いよいよヤベえなぁ〜♪
    新作の発売日までには帰れるといいな〜♪」
ニードル「帰れてもテメエは出れねーよ!
     …あぁん!? オチはどうしただァ!? うるせーなァ、これがオチだよォ!!」