第三話「時代は変わっていくんだな…」



サエンがメキメキと頭角を現していた、その一方で…
…ガンダムを積んだ輸送艇の襲撃には失敗し
呑み比べ対決でもバーツに敗北を喫した「ブランド海賊団」はというと…

彼らは港街で…何故か、果物を売っていた。
逃げる道中で立ち寄った無人島で採れた木の実や果物…
食いきれないほどに採ってきてしまったので、余った分をボッタクリ寸前の価格で港街で売ってみたのだが…
…これが、彼らにとっても予想外なほどに売れていたのだ。
出店の店先で、ドクが大声で叫ぶ。
「ハァーッハッハ! いらっしゃぁぁぁい!!
 うめぇぇぇきのみだぞぉぉぉぉ!!」
その様子に辟易としながら、店先でブランドが日傘を差しながら呟く。
「うるさいわね、もっと声小さくていいわよ!
 …タダでとってきた木の実がこんな高く売れるだなんてねぇ。何だかやる気無くすわ…」
「もぉぉこれで商売はじめっかぁ?」
「バカお言い! こんな売り上げでアタシのブランド艦が維持できるわけないでしょ!」

しかし最初こそ好調だった果物商も、時間が経つにつれて売れ行きが怪しくなってきたようで…
「アンタの顔が怖いから売れないのよ!」
「ひでぇぇ!! オマエの顔だってけっこぉぉぉこえぇぇぞぉぉぉ!!」
「何ですって!? キィー!!」
そんなやり取りが行われていると…そこに、カサブランカのいきつけのバルチャーの一人
バイスが現れた。
「よ♪ ア〜ンタら何やってんの?♪」
そんなバイスに苛立ちながらブランドが返す。
「見りゃわかるでしょ! 商売よ!」
そしてドクが果物を差し出しながら、大声で聞いた。
「オマエも買うかぁぁぁ!?」
その果物を見て…少し考えた後、バイスはこう言った。
「…い〜ね〜♪ ボッタクリ価格だけど一個頂きましょ♪」
そんなバイスを訝しげな目で見ながら、ブランドが聞いた。
「…何よ、随分羽振りいいじゃないのさ」
「ま〜な♪ 当分、金には困りそ〜も無いんでね♪」
その言葉を聞いて、即座にドクが反応する。
「どぉぉぉゆぅぅことぉぉぉ!?」
その質問を受け、バイスは得意気に…自分の今の境遇を語り始めた。
「最近デカくなったさ…ザム・コーポレーションってあるだろ?」
「あぁ、軍需産業の…」
「そこの警備用MSのパイロットとして…就職が決まっちまったんだよな〜♪」
「なな、何ですってぇ!?」
「ま……バルチャーの時代もこの辺でお終いってことだ♪
 アンタらも、早いうちに身の振り方考えといた方がい〜んじゃねぇかぁ♪」
そう言うと、バイスは買ったばかりの果物にかじりついて
「お〜こりゃうめぇ〜や♪」
とだけ言い残し、店先から去っていった。

そして、残されたブランドは、悲しげに呟いた。
「悔しいけど…言うとおりかもねぇ…」
「つったってよぉぉぉ!!」
ドクの声を無視して、さらにブランドは呟く。
「…もう、運送会社にでもなろうかしら?」
「木の実売ってた方がいぃぃんじゃねぇぇかなぁぁぁ!?」

…ともかく、サエンがバルチャーとして頭角を現す一方で
こちらはこちらで、バルチャー全盛の時代の終わりを告げる風が吹こうとしていた…



それから数ヶ月の月日が流れた。

バーツの言った通り…エアマスターのジャパニーズボーイこと
サエン・コジマはガンダムエアマスターの性能に助けられている部分はあるものの
この付近のバルチャーとしてはメキメキと頭角をあらわしていった。
最近ではもうバーツの仕事を喰うほどの活躍を見せており、「エアマスターのサエン」の名も上がっていった。


そして「カサブランカ」にて…
いつものように、バーツが四番テーブルで呑み比べ対決に興じていると…
そこに、彼が現れた。
「久々だな、バーツさん。相変わらずいい呑みっぷりしてんね」
その男…サエンの声を聞いて、バーツが酒をガブ呑みしながら言う。
「…おぉ、誰かと思えば…いつぞやのジャパニーズボーイじゃねぇか!!」
「…どうだい? オレの噂、ちょっとは聞いてるんだろ?」
「へへ、まーな…」
そういうと、バーツはさらにジョッキを一つカラにした。
対決相手は既に参ってしまっている。
そんな様子は一切気にせず、サエンは続けた。
「そこで、一つ頼みがあるんだよ。男として…さ」
「なんだなんだ、呑み比べかぁ?」
「違う違う、そんなんじゃないって…
 …ここらで空飛ぶバルチャーはオレと、アンタだけだ。
 ここいらで、雌雄を決しようじゃないかって思うわけよ」
そう、不適にサエンは言ってのけた。
その様子を見て、若干不機嫌になった様子のバーツは、低い声で
「お前さん…手前が何言ってるか、本気でわかってんのか?」
と、サエンに向け言った。
「…トーゼンでしょ?」
サエンはそう言ってのけると…突如、四番テーブルの上に立ち上がり
大声で、店内に集まったならず者達全員に向けて声を張り上げて言った。
「みんなもそう思うだろ!!
 稀代のルーキー、ガンダムエアマスターのサエンと、Gファルコン乗りのバーツ、どっちが強いか!
 …気になるだろ!?」

気性の荒いならず者達は、その一言に沸き上がった。
「おぉぉぉぉ気になる気になるぅぅぅぅぅ〜!!」
特にドクは。
「ちょっと! 人の店で騒ぎ起こさないでよー!」
パティがそう叫ぶも、時既に遅し。
酒場は沸き、挑発にノりやすいバーツもさっさと乗ってしまった上
日程まで、すんなりと決まってしまったのであった。

そして少し…ほんの少しだけ場の空気が収まった後…
店主であるソニアが四番テーブルにやって来ると、やんちゃをした子供を叱るような口ぶりで
バーツに話しかけた。
「いいのかいバーツ、今は軍がうるさいんだよ? あんまり目立つ真似は」
しかしバーツはソニアを制止するようなポーズをとった上で、こう言ってのけた。
「いや…いいってことよ。
 男として生まれたからにゃ…勝負を受けたら逃げるわけにゃあいかねぇだろ」
そう言い終わると、懐から葉巻とライターを取り出し、おもむろに火をつけた。
ソニアが呆れた様子でいるとそこに、いつの間にやら輪の中に入って酒を呑んでいたサエンも口を挟む。
「そゆこと! 男ってのはいつまでもガキみたいな生き物なのよ。
 ソニアさんならわかるでしょ?」
そんな二人の様子を見て、一度溜息をついてから…ソニアはサエンに言った。
「サエン…アンタも身の程知らずだねぇ」
そう言われても尚、サエンは不適な表情でこう言ってのけた。
「身の程知らずかどうかは…やってみなきゃわかんないでしょ?」
「ったく…これだから男ってのは」
ソニアはただ、そう呟いた。

「ヒャアーハッハァー!! 祭りだ祭りだぁぁぁぁぁ〜!」
何故かこの場で一番楽しそうだったのはドクだったが、その理由は誰にもわからなかったという。




翌々日、ダイスの工房へとバーツは向かっていた。
「コイツは、ちょっとばかりかさみそうだな…」
サエンとの対決に向け、Gファルコンのオーバーホールとチューンを頼もうというのだ。

しかし、ダイスの工房に辿り着いたバーツを待っていたのは
思いがけない現実だった。
「わりぃねバーツさん! こーいうのは、早いもん勝ちってね」
サエンがバーツより先に、ダイスの工房の予約を取り付けてしまっていたのだ。
あまりの事に、驚きの色を隠せないバーツ。
「ちょっと、お前…どうやってここを!?」
その様子を見て、満足げにサエンは答えた。
「苦労したんだぜ〜オレだってね…」
「なんてこったい…オレぁ、アンタをちょいとばかしみくびってたみてぇだなぁ」
「そうみたいだな。じゃ、別を当たってくれよなバーツさん!」
そのサエンの言葉を受け、バーツは助けを求めるようにダイスの方を見て、こう呻いた。
「そりゃねーぜダイス爺さん…」
しかしダイスもまた、悪びれない様子でこう言ってのけた。
「すまんのう。でもこっちの仕事を受けてしまったもんはのう…
 …しかしよくこんなモンが手に入ったのう若造、コイツはレアものなんて騒ぎじゃないぞ!」
興奮気味のダイスに、サエンが余裕ありげに返す。
「ん? 爺さん、オレのエアマスターってそんな凄いの?」
「すごいなんてモンじゃないわい…まったく、こりゃあメカ屋として久しぶりに血が騒ぐわい!」
「はやるのはいいけど、ムチャしすぎて途中でブッ倒れたりはナシだぜ爺さん?」
「言われるまでもないわい! 年寄りを甘く見とってはいかんぞ〜」

その様子を見て、バーツはすっかり諦めてしまい…
「…ったく、やれやれだぜ」
などとこぼすだけだった。


工房で一人うなだれるバーツに…声をかける者がいた。
「自分が、やってみたいであります!」
ミンミだった。そんなミンミに、バーツは言う。
「…お譲ちゃんが? 冗談言っちゃいけねぇやい」
そこに、ダイスが現れ一言口添えした。
「言っとくが…ミンミの才能はかなりのもんじゃて。
 そろそろワシを超えつつあるかのう…」
「…ったく、冗談キツいぜダイス爺さん」
そう言って尚も項垂れるバーツに、真面目な表情に戻ってダイスが語る。
「冗談ではないぞ…実は言っておらんかったが、最近はワシはほとんどGファルコンはいじっておらん」
「…あん?」
「ここ最近は、Gファルコンの整備点検を行っていたのはミンミ一人じゃぞ」
「な、ぬわんだってぇ!?」
流石にバーツも驚愕する。
そしてミンミが急に頭を下げたかと思えば、こんな事を言い始めた。
「黙っていて、申し訳ないであります!
 しかし…Gファルコンには何の不調もなかったかと思うでありますが!?」
「そりゃまぁ…確かに好調そのものだったがなぁ…」
「お願いしますであります! やらせていただきたいであります!」
「ん〜…そう言われちゃ〜な〜…
 まぁ…こうなったらヤケってなぁ!」
「…よろしくお願いしますであります!」
そして、ミンミの元でGファルコンの改修ははじめられた…



それからさらに数日が経って、ミンミの手でオーバーホールが行われたGファルコンは
バーツを乗せての試験飛行を終え、帰路に着こうとしていた…
「おどろいたぜ、こりゃ本当にすげぇな…」
Gファルコンの調子は快調そのもの。
ミンミの腕は、本当に子供ながらにダイスに匹敵するものだった。

「レーダーの効きも随分と良くなってまぁ…
 …!? いけね、連邦かよ…」

そのGファルコンに迫る、連邦軍の量産型モビルスーツ「バリエント」。
「コイツは…ちょいと面倒な事になっちまいそうだ…」
ソニアから、連邦の目が厳しいとは聞いていたが…
気を引き締めるバーツ。そこに通信が入る。
『へっへっへ…相変わらず元気そうだな、バーツ!』
その声は、バーツにとって聞き覚えのある声だった。
「その声…グレッグかぁ!」

そのグレッグという男は第七次宇宙戦争時のブラッド、ソニア、スタン…そしてバーツの同僚だった男だ。
モビルスーツ乗りのバルチャーだった時期もあったが、現在は新連邦軍の治安維持部隊に所属している。
どうやら巡回中だったらしい。
今現在、この地域では軍隊は警察機構的役割も同時に任されているのだ。
グレッグはさらに旧友、バーツに向けて語りかける。
『今この辺りを飛ぶのは危ねぇぜ。
 オレが案内してやるから安全なルートから帰りな!』
「そりゃありがてぇ…」
やはり持つべきものは仲間…バーツは心底、そう思った。
バルチャーと軍人…今では立場は違えど、やはり仲間は仲間なのだ。

「…驚いたなぁグレッグ。お前、いつのまに連邦軍にもどったんだ?」
『つい最近だけどなぁ…まぁ、バルチャーやってくのも限界だったってことだ』
「おいおい、寂しい事言ってくれるじゃないの」
そんなバーツの言葉を受け…グレッグは少し寂しそうに、こう言った。
『なぁ…バーツよ。
 今は昔みたいに、モビルスーツ乗りや飛行機乗りが自由に夢を見られる時代じゃねぇ…
 軍に管理されて、毎日同じ景色見る為に飛ぶのがやっとさ』
「………」
『じきにまた、世の中はコロニーが落ちる前みてぇなちゃんとしたモンになる。
 時代は変わっていくんだな…人間だってそうだ。
 ブラッドのヤツも戦争で家族を亡くしてから人が変わっちまったが……最近は丸くなったもんだぜ?』
「アイツがか?」
『まぁな…
 …オレもな、最近やっとだが…また連邦の兵士としての仕事に、誇りが持てるようになってきたぜ。
 戦争の為じゃねぇ…平和の為に戦うっていうのも、悪くない気がしてきてな』
「なぁるほどなぁ…」
『…バーツ、お前本当に軍に戻る気はねぇか?
 お前の腕なら折り紙付だ、オレだって口を利いてやれる…いざってなりゃあブラッドだって』
そのグレッグの声を遮るように、バーツが言った。
「気持ちはありがてぇんだけどよ…
 オレにはまだ、フリーの飛行機乗りとして、やり残した事が山ほどあるんでなぁ」
それを聞いたグレッグは、残念そうな声で言った。
『そうか…
 …付き添ってやれるのはここまでだ、あとは安全だ』
「ありがとうな」
『いいってことよ…
 まぁ、心変わりしたらいつでも連絡してくれ。力になってやる』

こうして、Gファルコンとバリエントは分かれた。
この安全ルート…決して忘れないようにしようとバーツは心に決めた。


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