第五話「一度狙った獲物は逃がしゃしねえぜ!!」



空に月が浮かぶ、夜も更けきった時間帯。
仕事の為に夜の空を飛んでいたバーツのGファルコン…
そのGファルコンに、突如襲いかかる影があった。
「チッ…!? 連邦のお巡りか?」
バーツはそう咄嗟に呟いたが、違うという事も同時にわかっていた。
これほどの速度の飛行兵器なんて、連邦の機体じゃ見たことも聞いたことも無い…
「じゃあまさか…あのジャパニーズボーイか!?」
謎の飛行兵器から繰り出されるビームの攻撃を避けつつ、バーツは更に言った。
暗くて機種まではわからないが…今の所、考えられるのはそのくらいしかない。
そして通信回線を開き、謎の敵機に対して通信を送った。
「どういうつもりだい!? 対決はまだまだ先だろ!!
 命知らずが……そんなにオレ様とやりてえのかよ?」
しかしその声に答えたのは、ジャパニーズボーイことサエンではなかった。
『ヒャッヒャヒャヒャヒャ!!』
「お…っと。お前さんは…!?」
『ヒャヒャヒャヒャ、久しぶりだなァ、バーツッ!!』
「…お前誰だっけ?」
『…んだとォ!?
 忘れたとは言わせねーぞッ!
 テメェにセプテム改ブッ壊された、「クリューエル・クロウ」のニードルだァ!!』
そこまで言われて、ようやくバーツは思い出したようだ。
「あぁ、あん時の…そりゃあすまんかったね」
『今度はオレも飛べるマシンだァ…ヒャヒャヒャ、引導を渡してやるぜェ!!
 …ヤロォども! 支援しやがれ!』
とニードルが言うと同時に、クリューエル・クロウのモビルスーツ数機が
地上からGファルコンに向かって射撃を行う。
「おっと、いけね…」
バーツは気が付くと、かなりの低空域まで機体を下げてしまっていた。
ニードルの攻撃をいなしながら航行した結果だ。
これも全て、ニードルの策である。ニードルが愉快そうに叫ぶ。
「ヒャヒャヒャヒャ! 逃がしゃしねえよッ!」
迂闊だった…少し反省したバーツは
「ありゃりゃ……昨日の酒が抜けてなかったのか?」
などと呟いていた。



ニードルの乗るガディールは、恨み重なるバーツとの対決に向け
内部フレームや装甲などを中心に、機動力を殺さない範囲での限界まで防御力の強化が施されていた。
ともかく、地上からの対空射とガディールからの攻撃を共にいなしながら
バーツは、ニードルにさらに通信を入れた。
「ソイツ、なかなかいい飛行機じゃねぇか! スピードならファルコン以上かぁ!?
 だが…お前さんに乗りこなせるかな!?」
『うるせェ!! 今日こそテメェをブッ殺してやらァ!!』
そう返したニードルは、さらにガディール下部に備え付けられたビームライフルを乱射させる。
『堕ちろ、堕ちろ、堕ちろォ!!』
しかしバーツのGファルコンは、飛行機の挙動とすら思えないほどの
アクロバティックな動きでその射撃の全てを回避してみせた。そして…
「…なっちゃいねえぞ! 顔を洗って出直し来な!」
そう叫び、バーツはGファルコンの機首を瞬時にガディールの方向に転回させ
拡散ビーム砲の砲口をガディールに向けた。
「や、ヤベェ!?」
ニードルも必死で回避運動を行ったが、時既に遅し。
回避を取ろうとしたガディールの裏面に、丁度拡散ビームのうちの一条が直撃した。
「チ、チクショウ…クソがッ!
 ライフルがやられちまったァ…」
コクピット内の衝撃に堪えながら、ニードルが呻く。
限界まで防御力を強化した甲斐あり撃墜は免れたものの、姿勢を大きく崩すガディール。
そしてニードルが必死で空中での体勢を整えなおそうとしていた、そこに…
「一度狙った獲物は逃がしゃしねえぜ!!」
バーツのGファルコンから放たれたミサイルが、ガディールに襲いかかった。
「…んなろッ!?」
なんとか体勢を整えなおし、ミサイルを回避するニードル。
「ヒャッヒャッヒャッ!……いいぜェ!
 もっと楽しませてくれよッ!」
そう強がるように言って見せたニードル。
その様子を見て、バーツが言う。
「おうおうニードルさんよ! 思ってたよりずっとやるじゃねぇの!」
「チッ…! イチイチ勘に触るヤロォだァ!」
ニードルは確かに腕は人並み以上にあるのだが
挑発に弱すぎる事と…今回に限っては、相手が悪すぎた点が何より不幸だったといえよう。



撃墜寸前といった風情のニードルに、手下達から緊急の通信が入る。
『あ、アニキィ! 大変ですぜ!』
「あァ!? なんだってんだよこんな時にッ!?」
『連邦のヤツらが…があああああああ!!』
「ん、んだとォ!?」

同時に、バーツも上空から、迫る連邦の艦艇に気付いていた。
「ありゃあ…新連邦の陸上艦か!」

その艦はテンザン級…ブラッド率いる「治安維持部隊」の母艦だ。
そのブリッジでブラッドが呟く。
「クククク、情報は確かだったようだな……
 「クリューエル・クロウ」だったか…今日がヤツらの最後だ!」
ブラッドがそう言い終えた後、パメラが報告する。
「地上では既に、ジェシカ准尉のガンダムヴァサーゴが戦闘を展開中!
 上空にも二機の飛行タイプのモビルアーマーを確認!」
「飛行タイプだ?」
ウッヒがそう口を挟んだ。答えるように、パメラは続ける。
「一機は未確認の機体、そしてもう一機は…
 …あれは、Gファルコンです!」
その報告を受け…ブラッドが忌々しげに言った。
「Gファルコンだと!? ではバーツか……」
「…少佐、知っているのですか!?」
「貴様は知る必要の無い事だ……
 ……バーツ・ロバーツ。あのような悪徳バルチャーどもと手を組むとは……
 堕ちる所まで堕ちたようだな!」


そんな誤解も生まれる中、バーツは戦況をひとしきり確認した後…
「…今日はここまで! オレはトンズラだ!」
などと言って、機体を翻し、文字通りトンズラを始めてしまった。
『て、テメェェェ!! 逃げんのかよォ!? コラァァァッ!!』
そんなニードルからの通信を無視し、最大推力でGファルコンは離脱を開始した。
そのGファルコンを追おうとするニードルのガディールだったが、テンザン級から放たれた
対空射撃がその行く手を阻む。
「ク…クソがッ! クソがァァァァッ!!」
ニードルはコクピットの中で悔しさの中で冷静さを失っていた。
その耳に、クリューエル・クロウの手下からの通信の声が聞こえてくる。
『ア、アニキ! 助けてくだせぇ! ガンダムがぁ…ぐわぁ!!』
『強い、強すぎる…』
『勝てるわけがねぇ…逃げるんだよお! ぎゃああああ!!』
そんな不甲斐無い手下達に苛立ちながら…ニードルは叫んだ。
「使えねェカスどもめェ! そのまま死んどけッ!」

クリューエル・クロウのモビルスーツ乗りにとっては、地獄絵図と化した地上戦。
「そのスキは誘いか……でなきゃ……とんだ素人だなッ!!」
ジェシカがそう言うと同時に、ガンダムヴァサーゴのストライククローが
クリューエル・クロウのジェニスタイプのモビルスーツを切り裂いた。
ガンダムヴァサーゴの余りにも圧倒的な強さに戦意を失い、背を向け逃げて行くクリューエル・クロウのモビルスーツ達。
その後ろ姿に照準を合わせ…ジェシカが、ガンダムヴァサーゴのコクピットの中で叫んだ。
「遊びの時間は終わりだ!
 …灰も残さず焼き尽くしてやるよ!」
そしてガンダムヴァサーゴは、腕部を展開し、伸ばしたクローを地面に突き刺し
腹部を変形させた。変形した腹部には「メガソニック砲」の砲口が現れる…
そしてその砲口が光を持った、次の瞬間…

巨大な光の束が、夜闇に照らされていた付近を一瞬明るくさせつつ
逃げて行くクリューエル・クロウのモビルスーツ達の残りをまとめて飲み込み、消滅させた。
「な、なんだってんだァ!?」
ニードルは驚愕する…当然だろう。
戦後世界のバルチャーレベルの武装で、これほどの火力をもったものは基本的には存在しない。
こんな光を見るのは、ニードルの長いバルチャー人生でも始めての経験だった。

同時に、テンザン級のブリッジの中でも驚愕の色が広がっていた。
「おいおい…冗談だろ…
 あんなもん、戦艦の主砲以上じゃねぇか…」
まずウッヒがそう呻いた。続いてパメラも驚愕を隠せない様子で呟く。
「あれが、メガソニック砲の…いや、ガンダムの力…?」
一方、ブラッドだけは…他の人間達とは違う感想を抱いていた。
「クククク…これがメガソニック砲……なるほど、素晴らしいパワーだ!」



当のジェシカ本人はと言うと…
…ヴァサーゴの火力に感嘆するよりも先に、敵の不甲斐無さを嘆いていた。
「なんと他愛の無い…
 あまりに弱すぎるぞ…こんな程度か!」

そのジェシカのガンダムヴァサーゴに、上空から迫る影…
「くそぉぉぉぉーッ!!テメエらみんなブッ殺してやるゥゥッ!」
…唯一生き残った、ニードルのガディールだ。
「クソがァッ!!
 ズタズタのバラバラにしてやるよォォォォッ!!」
そう錯乱したように叫びながら、ガディールのビームサーベルを展開させ
ガンダムヴァサーゴに迫る。
その姿を確認したジェシカはただ一言
「………フン! 度胸だけは認めてやるよ!」
と言い、迫るガディールに対し、ある行動をとった。
「飛んだァ!?」
そう。ニードルが言ったように突如飛行したガンダムヴァサーゴ。
ガンダムヴァサーゴは、空戦能力すら持っていたのだ。
そして飛行したヴァサーゴにより、すれ違いザマに翼を一刀両断されるガディール。
「そ、そそそ、そんなんアリかァァァ!?」
コクピットの中でニードルが叫ぶ。翼を失った以上、後は落ちるだけ…
……次の瞬間、鋭角な形をしたガディールが、荒野の地面に巨大な轟音を立てて
見事に、突き刺さった。
「………笑止!!」
そしてジェシカは一言、そう言った。
しかし内心、こんな落ち方をしても爆発しないその機体の堅牢さは評価したい…とも思った。



『て…敵部隊の全滅を確認。全機、帰投してください』
そのパメラからの通信を聞いて…
「前にも、こんな事があったような気がすんだよなぁ…」
出撃はしたものの、特に出番も無く終わったグレッグは
バリエントのコクピットの中でそう呟いた。



作戦終了後の事後処理中…ジェシカはブラッドに対し不満を述べていた。
「下らん…少しは骨のある相手はいないのか」
「この辺りでは…そうだな。
 Gファルコンのバーツが神格化されているようだったがな」
その言葉を聞き、興味深そうにジェシカが聞いた。
「バーツ…? Gファルコンというと、さっきの飛行機か?」
「そうだ…… しかし、あのバーツがあんなゴミと手を組むとはな…」
ブラッドは、そう忌々しげに呟いた。
どうやら、誤解は解けそうに無い。
そして、さらにブラッドは低い声で呟いた。
「しかし……あの輸送艦を襲ったのもあのゴミどもだったようだな」

恐ろしい事に、あれだけの落下をしながらもコクピットの中で
ニードルは生き永らえていた。
ガディールの防御力の強化は、ニードルの考えもしなかった所で身を結ぶ結果となったのだ。
かと言って生還を祝福されるはずも無く、ニードルは連邦治安維持部隊に即、拘束されてしまった。

そして拘束されたまま、ブラッドの前に連れて来られたニードルは必死に命乞いを始めた。
「も、もう悪いことはしねェ! これからは心を入れ替えるッ!
 だから命だけは助けてくだせぇよォダンナッ!」
そんなニードルの姿を見て、ブラッドは冷徹に吐き捨てた。
「フン…自らの利益の為だけに…散々他人の命を奪い略奪を繰り返してきたというのに…
 ……自分の命は惜しいというのか? ゴミが…」
その言葉に、反射的にニードルが返す。
「惜しいィ! チョー惜しいッ!!
 命さえ助けてくれりゃあ、どんな情報だって言いますぜェ!?」
その姿を見て、少し愉快そうにブラッドが返す。
「クククク……面白い、言ってみるがいい」
光明を見たニードルは、一気に捲し立てた。
「ち、近いうちに、港の方ででかい集会がありやすぜェ!!
 オレなんかより、もっと大物のバルチャーやオルクがいくらでも釣れますぜッ!!」
その情報を聞き、満足気にブラッドは言う。
「なるほど、いい情報だ…
 ……おい、このゴミを連行しろ」
その無慈悲な言葉に驚愕しつつ、連行されながらニードルが叫ぶ。
「オイ! み、見逃してくんねぇのかよォ!?」
その姿を見やりつつ、やはり冷徹な態度でブラッドは言い放った。
「安心しろ、命は助けてやる…
 さらなる尋問はあるがな。知っている情報は全て吐き出してもらおう…
 ……そしてそれからは強制労働だ。これまで自由に生きてきた分、汗水たらして働け…死ぬまでな」
その言葉を受け絶望しながら、ニードルは
「やだッ! 働きたくねぇッ!!」
などと喚きながら連行されていったのだった。

そして、ブラッドは一人呟く…
「クククク…集会か。これでゴミどもは一網打尽だな」



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