第六話「…冗談言ってる目に見えるかい?」



…そしてバーツとサエンによる決闘の当日が近付く。

グレッグに教えられた「安全ルート」を航行中のバーツのGファルコン。
そこに、通信が入る…このルートを知っているのは、グレッグだけだろう。
『また会ったな、バーツ』
やはり、通信の主はグレッグのバリエントだった。それを確認すると、バーツも返す。
「よぉ、何だってんだいグレッグさんよ?」
気楽な様子のバーツに対し、少し暗い調子でグレッグが言った
『ちょいと大事な用があってな…あの、集会だったか?』
「集会じゃねぇ…「決闘」だよ」
『どっちでもいいがよ…バーツ、あんなもんに出るのはやめとけ』
その言葉は、バーツにとっては意外なものだった。
勝負を挑まれたらどんな相手でも、どんな状況でも受けて経つのがバーツ・ロバーツという男…
…その事を誰よりも知っているのがグレッグだ。
そのグレッグからの言葉に、バーツは思わず聞いた。
「…そりゃまたどうして?」
『ブラッドが情報を掴んじまった。お前らバルチャーを一網打尽にする気だ…』
「…ほんとかそりゃ? 参ったな…」
『…もう時間がねぇから手短に言うぜ。
 お前は出るな。わかったか?』
そんな旧友の言葉に対し…バーツはこう返した。
「…生憎オレは強制されるのが嫌いだし、売られた勝負から逃げるなんて死ぬよりキツいんでね」
そのバーツの言を聞いて、心底呆れたようにグレッグは呟く。
『ったく、ガンコなヤツめ…』
しかしバーツは、おちゃらけたような様子でこう言ってのけた。
「なに、さっさと終わらせて逃げるさ」
『…まぁ、止めたってムダだってのはわかってたがな。
 次会う時は…敵同士だぜ。わかってんだろうなバーツ?』
「トーゼンな!」
『そうか…じゃあな、ガンコ野郎!』
「…おさらばってヤツだな、石頭親父!」
これが、バーツとグレッグが交わした最後の会話となった。



さらに「決闘」の日が差し迫る。
ブラッド達治安維持部隊も、バルチャー一斉検挙の為の準備を進めていた。
基地内休憩所にて、ウッヒとブラッドは作戦内容の確認をしていた。
「今度の作戦は、少数部隊での作戦って事でしたっけねぇ…」
「当然だ……場所が場所だけに大部隊を展開するわけにもいかんからな」
「しかし…そもそも、あんな場所で作戦を行うという事自体が…どうかってハナシですがね」
「…それを言うならば、あのような場所で…バルチャーどもが集会を行う事自体が問題だ。
 そして…それを我々がみすみす見逃すわけにもいかん」
「ま、そりゃそうですな」
ウッヒはそう、煙を吐き出しながら言った。
そこに、休憩室のドアをノックする音が聞こえた後
パメラが部屋に入ってくる。
「失礼します!」
「…何の用だ」
「少佐、軍需産業のニールさんが…」
「……またか」


基地内モビルスーツデッキ。
そこにはザム・コーポレーションから送られたダメ押しのガンダムタイプ、「ガンダムアシュタロン」が搬入されていた。
対Gファルコン用の切り札だ。
その禍々しい威容を見上げながら…ブラッドがニールに聞く。
「…本当にこんなものが、Gファルコンに匹敵する空戦能力を持っているのかね?」
その質問に、少し得意げな様子でニールが答えた。
「驚かないで下さいよ、ヘヘッ…
 変形するんですよ、コイツ。エアマスターみたいにね」
「成る程な…」
そう呟いた後、ガンダムアシュタロンの細部を眺め…ブラッドはこう分析した。
「……これもベルフェゴールと同系列の機体のようだな」
「ご名答。よくわかりましたね?」
「以前、ベルフェゴールと同じ戦場で戦っていた身でな…」
そしてブラッドは…随伴していたジェシカに対し、言った。
「…しかし、ジェシカ・ラングよ。
 この機体ならば…バーツのGファルコンにも引けはとるまい?」
そして、ジェシカは…ガンダム・アシュタロンの威容を眺めつつ、感慨深げに呟いた。
「良さそうな機体じゃないか。
 バーツとやらの実力……確かめさせてもらう!」


そして、ジェシカによるアシュタロンへの慣熟作業が始まった。
その様子を見るでもなく、自らの待機場所へと戻ろうとするブラッドに対し
突然、パメラが話しかけてきた。
「…ブラッド少佐、よろしいのですか?」
その突然の質問に、ブラッドは少し困惑したような様子で返す。
「……何がだ?」
「あのバーツという人は…あなたの戦友だった人なのでしょう?」
その問いを聞き…だがまともにとりあうでもなくブラッドは
「貴様は余計な事を考える必要は無い。質問はそれだけか…?」
とだけ言った。
対してパメラはさらに質問を投げかけた。
「いえ、後一つだけ…
 今後のヴァサーゴの乗員を確認したのですが、書類上の間違いかと思い…」
その言葉を遮るように、ブラッドが言う。
「フン、間違いなど何も無い…
 …アレには私が乗る」
「ほ、本当に少佐が!?」
パメラが驚愕した様子でそう言った。
「ククク、見くびってもらっては困るな…
 久々のモビルスーツ戦だ…存分に肩慣らしさせてもらおう」
「は、はぁ…」
二つのガンダムタイプが治安維持部隊に揃う…
「決闘」は、大荒れの予感を帯び始めていた。



その頃、カサブランカ…カウンター席にて。
サエンがソニアに語りかけながら、カウンター席でワイングラスを傾ける…
「最近は女の子のファンも増えちゃってさ〜…色々と大変よこっちも」
「そりゃ結構なこと。
 …それでアンタ、ホントにやる気かい?」
そのソニアの問いに対しサエンは、今更何を言ってるんだ、とでも言いたげな風情で返した。
「…当たり前。時代は新たなヒーローを求めているのさ」
そんなサエンの様子に心底呆れながら、ソニアは呟いた。
「まったく、本当に身の程知らずなんだから…」
「でも…それでこそ若さ、ってモンでしょ?」
「まぁ、それもそうだね…」
そう言いながらも、手元のグラスやジョッキの数々を洗うソニア。
そうして数拍の時が経った後……サエンが急に切り出した。
「もし、オレがバーツさんに勝てたらさ…」
「…何さ?」
「…悪いけど、オレの女になってくんない?」
その言葉を聞いてソニアは、少し自嘲気味に笑いながら
「なぁにバカな事言ってんのさ、こんなオバさんつかまえて…」
と答えた。
しかしサエンは…彼にしては珍しく、真面目な表情で…
ソニアの目を見据えながら、言った。
「…冗談言ってる目に見えるかい? この目が」
その目を見て…少し戸惑いながらソニアはサエンに言う。
「アンタ…本気なのかい?」
「本気も本気、大本気ってね!
 オレはな、ソニアさん…」
そしてサエンは、カウンター席備え付けのあの「写真」を眺めながら…
「アンタみたいな…本当の意味での「いい女」には、これまで出会ったことがなかったね。
 そしてさ……いい女には前を向いて、しっかり生きていて欲しいのさ」
そう、言い切った。
「知ったような事を言うじゃないか…」
ソニアのその言葉からは、サエンの洞察力を持ってしても真意を測ることはできない。
その言葉から少しの間、カウンター席の二人の間に沈黙が流れる。
そしてその後、サエンは改めて確認した。
「…とにかく、約束だぜ?」
その問いに対しソニアは…
「まぁ…勝てるもんならね」
とだけ返した。



そしてサエンがカサブランカを去ろうと店のドアへと向かっていると
そこにパティが声をかけてきた。
「ちょっとサエン…」
「なんだパティちゃん? デートのお誘いかな?」
「バカ!
 アンタ…本気なんだよね? ソニア姐さんに…」
「…ま、ご想像にお任せしますとだけ言っておきましょうかね、っと」
「ふぅん、ご想像に…ねぇ」
そう訝しげに返したパティは、さらに言った。
「アンタ…わかってるよね? ソニア姐さんが…」
「…とんでもない哀しみを抱えて生きてる、って事だろ?」
「もう…もうソニア姐さんは、十分過ぎるくらい悲しんできたんだよ…」
「…………」
「アンタ、もしソニア姐さんを悲しませるような事したら…アタイ、許さないからね」
そのパティの真剣な言葉を聞いて、サエンは
「…そんな事はしないし、させやしないって。
 っていうか、オレがそんな事するような男だと思ってたの? そりゃあショックだねぇ…」
と、大げさに嘆くようなジェスチャーを織り交ぜながらそう返した。
「見えるよ、アンタはどっからどう見たって遊び人!」
「おっと、コイツは手厳しい。
 …でもま、心配なさんなってパティちゃん!」
そう言うと、サエンはパティの鼻先を人差し指でちょん、と突付いてから
「オレはこう見えて、と〜っても誠実な男なんだぜ?
 そんじゃ、またな!」
と言って、颯爽とドアを開けカサブランカを去って行ったのだった。
その後ろ姿を眺めながら、パティは…
「ホントに…信じていいのかな、アイツってば」
と一言、不安げに呟いた。



そして翌日、夕暮れ時…
ニードルら「クリューエル・クロウ」が拠点としていた内陸部にて
「決闘の日」の前哨戦かのように、治安維持部隊によるバルチャー討伐作戦が今日も行われていた。

内陸部のバルチャー達の一応の支配者でもあったクリューエル・クロウの
首領だったニードルが連邦軍に捕まった事により
周辺のパワーバランスは一片。
クリューエル・クロウの残党や、クリューエル・クロウによってこれまで
辛酸を舐めさせられていたバルチャー達が一斉に激突。
ならず者揃いの内陸部のバルチャー達による、血を血で洗う覇権争いが行われていた。

ならず者達が駆る旧大戦のモビルスーツ達が火花を散らす…
そこに突如、凄まじいスピードで飛行する一機の空戦用モビルアーマーが現れた。
「な、なんだあのカニのバケモンは!?」
「あ、アニキ! 連邦みてぇですぜ!?」
「んだとぉ!?」
バルチャー達がコクピットの中で騒ぎ立てる。
そんな様子には構わず、そのモビルアーマーは機体の「ハサミ」からビームを繰り出し
地上のバルチャーのモビルスーツを攻撃する。
その二条の光はそれぞれバルチャーのドートレスタイプとジェニスタイプのモビルスーツを射抜き
その場で機体を爆散させた。
「攻撃してきやがったぜ!?」
「ひ、ひるんでるんじゃねぇ! 数はこっちが上だ!!」
そう、そのモビルアーマーはこのバルチャー達の覇権争いの戦いの中
単独で戦いを挑んできたのだ。
「嬲り殺しにしてやれ!!」
「バルチャー魂を見せてやらぁ!!」
つい先ほどまで殺し合っていた真っ最中だったバルチャー達は一時休戦し
その全員が彼らにとっては「謎の連邦のモビルアーマー」に対し攻撃を仕掛けてきた。

その様子を謎のモビルアーマー…「ガンダムアシュタロン」のコクピットの中で
見ていたジェシカは、こう呟いた。
「威勢は良い…そして数も多いようだが
 所詮………このアシュタロンの敵ではないな!」
そう呟いた後ジェシカは、アシュタロンの機体を空中で一気に旋回させ
そのまま急降下させた。
そして二機で固まってマシンガンをこちらに乱射していたジェニスタイプを
機体の「アトミックシザース」でそれぞれ挟み込んだ。
ジェニスタイプに乗るバルチャー達が叫びを上げる。
「な、なんつぅスピードだ!?」
「こ、こんなハサミがなんだってんだ…」
次の瞬間。二機のジェニスタイプは一瞬でアトミックシザースにより、真っ二つに引き裂かれ
そのまま爆発した。
「これがアシュタロンの力……凄まじいじゃないか! ヴァサーゴ以上のパワーだ…!」
アシュタロンのコクピットの中で、そうジェシカが感嘆する。
その間攻撃する事も忘れ、唖然とするバルチャー達…
そしてその爆炎、そして硝煙が去った時、バルチャー達の目の前に現れたのは
彼らにとっては意外な姿だった。
「が、ガンダムじゃねぇか!?」
バルチャーの一人が叫んだ。それと同時に、モビルスーツ形態に変形していたアシュタロンは
その手にビームサーベルを構えさせつつ、バルチャーのリーダー格であろうカスタムジェニスに突撃した。
「う、撃て撃てーッ!!」
狙われたそのジェニス改とその取り巻きの二機のモビルスーツがマシンガンを乱射させるも、時既に遅し。
一瞬で間合いを詰めたアシュタロンの、緑色に輝くビームサーベルがジェニス改に突き刺さる。
「か、頭!?」
取り巻きのドートレスに乗るバルチャーがそう叫ぶのとほぼ同時に…そのドートレスと
もう一人の取り巻きのジェニスを、アシュタロンのアトミックシザースがそれぞれ挟み、そしてまたも
真っ二つに挟み潰した。
「ハハハッ!! 最高のパワーに、最高のスピード…
 これがガンダムアシュタロン…これこそ求めていた機体だ!」
そのコクピットの中で、ジェシカが満足気にそう感嘆した。

「た、たった一機で…一瞬で、五機もやっただとぉ!?」
その様子をただ見ていたバルチャーの一人が、そう恐怖の声を上げた…
しかし、彼らにとっての地獄は、まだ始まったばかりであった…



迫るバルチャーのモビルスーツを、次々と返り討ちにしていく
ジェシカ・ラング駆るガンダム・アシュタロン…
既に周辺のバルチャーのモビルスーツのうち、半数以上が撃破された後だった。

「………この程度か!?
 もっと本気を出してみろ!」
またも敵の不甲斐無さを嘆くジェシカ。
そこに、彼女の乗るアシュタロンのすぐ後ろで
ガキッ、と、何かが引き裂かれる音がした。
それと同時に、その耳に通信を介した声が聞こえてくる。
『迂闊だぞ、ジェシカ・ラング…』
そして、ジェシカがアシュタロンをすぐ後ろに振り向かせると、そこには
セプテムタイプのモビルスーツだった「もの」が
何者かに引き裂かれたその残骸を晒していた。
ジェシカがそれを確認するのと同時に、またも通信がジェシカの耳に入る。
そのセプテムタイプを切り裂いた主…ガンダムヴァサーゴのパイロットの声だ。
『クククク…案ずるな、既に仕留めてある』
その声がブラッドのものだと理解すると、ジェシカは言った。
「ブラッドか……余計な事をする。
 …だが一応感謝しておこう!」
そう言うと同時に、アシュタロンのシザースビーム砲がさらに一機ジェニスタイプを仕留める。
『感謝などする必要は無い…』
ブラッドもまたそう言いながら、クロービーム砲にてバルチャーのモビルスーツをさらに仕留めた。
さらに戦いを続けながら、二人の会話は続く。
「…来たのは貴様だけかブラッド!?
 アタシとアシュタロンだけで十分だったんだがな…!!」
『増援は私だけだ……だが問題はあるまい!
 …肩慣らしには丁度良いゴミどもだ!』
ブラッドはそう言いながら、ヴァサーゴのストライククローでまたもバルチャーのモビルスーツを引き裂いていた。
そのブラッドの戦いぶりを横目で観察しながら、ジェシカが言う。
「驚いたな…一線は退いていたものかと思っていたが」
『まだまだ腑抜けが多くてな……それよりアシュタロンの調子はどうかね?』
ブラッドが敵と相対しながらそう尋ねた。
ジェシカもまた敵に攻撃を加えつつ、答えた。
「良いな…いや、良すぎる。
 これではどんなヤツが相手でも、相手にならん…」
『フン、その意気だ…
 …今度の「祭り」での戦果はその機体の活躍にかかっている。
 市街地の上だ、あまり部隊は展開できんからな…』
「わかっている。アタシ一人で十分だ。
 ヤツらのルールに則った上で討ち取ってみせる!
 Gファルコンのバーツをな…!」
そう言うと同時に、アシュタロンのビームサーベルが
その場に残っていた、最後のバルチャーのモビルスーツであるセプテム改を斬り裂いた。


こうして、内陸部に残った「クリューエル・クロウ」の残党を筆頭とする
バルチャー達の、ほぼ全てが一掃された。
治安維持部隊にとっては…後は「仕上げ」のみ。
例の「決闘」…祭りに乗じ、残りのバルチャー達を掃除するだけだ。



…その夜。
作戦終わりに…疲れた体を押し、久方ぶりにブラッドはカサブランカに立ち寄った。
「closed」と書かれた看板がぶら下がるドアを構わずノックし、言った。
「……例によって開いてはいないか? 答えは聞かんがな」
「入っていいよ…」
そんなソニアの声が聞こえてきた。
そしてブラッドが店内に入ると…そこにはカウンター席で酔いつぶれた様子のソニアがいた。
酔いつぶれたままの様子で、ソニアが呟いた。
「気に入らない割には最近よく来るよねアンタ」
「……ついでに寄っただけだ。しかし、貴様な…」
そのソニアの様子を見て、ブラッドも流石に閉口する。
そんな様子に構わず、ソニアはなにやら開き直ったかのような様子でダベりはじめた。
「ハン、たまにはさ……自分を忘れるくらい酔いつぶれたくなるもんさねぇ」
「フン……大分呑んでいるようだが、明日に響かんか?」
「明日は定休日。一身上の都合でねぇ」
「……まぁいい、ともかく伝えたい事があってな。
 明後日、港で大規模なゴミ掃除を行う…… ゴミどもの集会があるそうなのでな」
「それでぇ?」
「真面目に聞いてもらおう……その集会の中心がバーツであるという事は、こちらで既に情報を掴んでいる。
 貴様も知っていよう…?」
「さぁてねぇ…」
「………ともかくだ。我がバルチャー掃討部隊には
 ヤツのGファルコンなど問題にならん兵器と、そのパイロットを有している。
 どういう意味か、わからんわけでもないだろう……」
「バーツを止めるなら今だ、って言いたいんだろう?
 生憎だけど…アイツはそんな事で動じるタマじゃないし、どんな事があっても勝負を投げることなんかしやしないよ」
「……貴様の頼みでも、か?」
「当然」
「……殺す事になるぞ」
「…バーツの人生はバーツの人生、アタシにはもう関係無いよ」
「……フン、スタンに続き…バーツをも失った場合の、貴様の精神状態を考慮した上での相談だったのだが
 どうやら徒労だったようだな……」
「そうみたいだねぇ。ご足労ご苦労様ってとこかしら…」
「…フン」
話になりそうもない。そう判断したブラッドは席を立ち、言った。
「…邪魔したな」
「ん、呑んでかないのかい?」
「飲んどる場合か……」
そう返すと、ブラッドはカサブランカを去ろうと店のドアのある方向へと向かう。
その背中を、ソニアの言葉が止めた。
「………あの時」
「…なんだ?」
「どうして…アタシ達を見逃したの?」
「……………」
ブラッドからの答えは無かった。構わずソニアは続け、訊いた。
「…どうして、あの時…撃たなかったのさ」
「撃たなかったのではない……
 …撃てなかった。あの頃の私にはな……それだけの事だ」
「そうかい……」
そして去り際、ブラッドは念を押すように言った。
「今の私は違う…かつての仲間だろうがなんだろうが、そんなものは関係無い。
 討つべきものは討たせてもらう。どんな手を使ってでもな…」
「…………」
ソニアからの返事は無かったが、ブラッドは構わず続けた。
「……いいか、バーツは我々が逮捕…若しくは、最悪の場合その場で処分する。
 いいのだな…」
「できるもんならねぇ」
「フン、抜かせ…」
そう返して、ブラッドはようやくカサブランカを去った。

その背中を見送った後…ソニアは一人、誰に言うでもなく呟いた。
「さぁて…どうなるもんかねぇ?」



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