「かわいそうなどく」



むかしむかしあるところに仮に「オリキャラ軍」などと呼ばれる
時代、世界観を自由に行き来して活躍する謎の軍隊がありました。
その構成員は各世界観や時代から選りすぐられて集められた
各分野におけるトップレベルの天才、精鋭揃い。
その上多くの戦闘の経験を経てついに、どの世界のどの軍隊をぶつけても対抗できないような
驚異的を通り越して変態的といえるレベルにまで、彼らの戦闘能力は上がっていきました。

そのあまりにも圧倒的な戦闘能力は、彼らの軍の上層部にすら恐れられ
恐怖した上層部の人間達は、強大になりすぎた持ち駒
「オリキャラ軍」の構成員全員の抹殺をはかりました。

食事、飲み水、そして艦内の空気。
あらゆるものに猛毒を混入され、哀れオリキャラ軍の構成員達は
次々と毒殺されていきました。
その中で一人だけ、毒をものともせず生き残った者がいました。

「み…みんなどぉぉぉしちまったんだぁぁぁぁ!?
 何で返事してくんねぇぇんだぁぁぁ!! 何でそんなに冷てぇぇんだよぉぉぉぉ!?」

彼は特異体質で、あらゆる毒物が効かなかったのです。
その為についた名前が「ドク・ダーム」。
自分の名前を持っていなかった彼のために、今は亡き彼の最初の友人、イワン・イワノフが付けた名前です。
毒が無駄…ドクがムダ。
ドク・ムーダ。
そこからもじって「ドク・ダーム」と名付けられたのです。

彼だけは、オリキャラ軍構成員でただ一人生き残りました。
彼は最後まで抵抗しましたが最後は拘束され、幽閉されてしまいました。
あらゆる毒薬が効かないドクを恐れた上層部は彼を幽閉し、何も食べさせずに餓死させることにしました。
ドクはどんどん骨と皮だけのような存在になっていきます。元からですが。
そんなドクを見て、上層部の人間達は言います。
「哀れな男だ。なまじ生命力が高い故に…」
「しかし、彼以外の全員を消したのはやり過ぎだったかもな?」
「何を言う。こちらには既に「ターンエーシステム」そして「ジェネレーションシステム」が手中にある。
 もはや世界は我々のものだ」
「あれを手中に収めるためにオリキャラ軍はよく頑張ってくれたが…まぁ、もう用済みだよ」
「システムの存在を知っている、我々以外の人間を生かしておくわけにもいかなかったしな」


しかし、彼らは見誤っていました。
「スピリッツの戦い」と呼ばれる戦いで手に入れた「ターンエーシステム」。
そして、その中枢であるMS「ターンエーガンダム」。
これは彼らの手に負えるような代物では無かったのです。
上層部の手を離れ暴走したターンエーガンダムは彼ら、そして
人の生み出した文明そのものを「月光蝶」にて無に帰そうとしました。
これに対抗できる唯一の兵器、もう一機の「ターンタイプ」を彼らは所有していました。
しかし、それを扱えるパイロット達は彼ら自身が亡き者にしてしまったのです。
ただ一人を除いて…

数ヶ月もの間食事も何も与えられず、ミイラのようになって
それでも尚生き続けていたドクに彼らは縋り
ターンエーに対抗しうるターンタイプに乗って、ターンエーガンダムに立ち向かうよう懇願しました。
ドクはただ、頷きました。
かつての元気な大声は、もうその口からは出ませんでした。
もう、彼には声を出すこともできないのです。
ドクは体に大量の強壮剤を打たれ、ターンエーガンダムを止めるべく出撃していきました。

そして、ターンエーとドクのターンタイプの戦闘が始まりました。
ターンエーの戦闘力は凄まじく、ドクの乗るターンタイプの胸部には「X」の形の消えない傷を付けられたと伝わっています。

そして、事態は最悪の方向に進みました。
二機のターンタイプの共鳴により、「月光蝶」の光は地球圏全土にいきわたり
結果文明は土くれと化し、人類の歴史は一旦幕を閉じました。
そして、ドクもまた、ターンタイプの共鳴により発生した「繭」に包まれ、ようやくその命を終えようとしています。
あらゆる毒物の効かない、人として有り得ないほどの生命力を持っていたドク・ダーム。
苦しみ抜き、仲間を、声を、あらゆる自由を…命以外の全てを奪われた彼のその命を
「繭」は優しく、包み込むように奪っていきました。
命を失う直前、ドクの脳裏には、かつて一緒に戦った仲間達の顔が、走馬灯のように流れていきました。
そして、もうほとんど動かなくなった彼の表情筋が、まるで笑ったかのように、少しだけ動きました。
それが最後の、ドク・ダームがとった行動になりました。
こうしてかわいそうなドク・ダームは、オリキャラ軍最後の戦死者となったのです。

その後、生き延びた人間達は、一部は荒廃した地球を捨て、月に移り住み「ムーンレィス」となり
月へ行けなかった人間達は地球に残り、新たな文明を造るべく奔走したといいます。
そしてドク達オリキャラ軍が戦ってきたそれ以前の歴史は「黒歴史」として封印されたのです。
おしまい。

総括:ドクはこのSSだけで何回も死んでますが、どうせ不死鳥のように蘇るので平気です。




クレア「これで…何もかも終わりだ…読書、完了! 面白かった?」
カチュア「いみわかんない」
クレア「だよね〜。
    お前等満足か…こんなSSで…俺は…嫌だね…とかなんとか言ったりして」

(了)