「エリスとキリギリバイス」




むかしむかしあるオリキャラ軍に
力がある故に、望まない戦いを強いられる運命にある
大真面目な戦場の女神、エリス・クロードと
力が無いので常に待機、毎日歌って遊び呆けてばかりの
不真面目さ世界チャンピオン、バイス・シュートという二人のパイロットがいました。

その日も、エリスはIGLOOステージにて望まない戦いを強いられていました。
エリスの駆るMS「フェニックスガンダム」に、スピリッツで御馴染みIGLOOチンピラ連邦兵らの駆る
ジムやボール、そしてサラミスの艦砲射が次々と襲い掛かります。
チンピラ連邦兵達は口々に口汚くエリスを罵り、攻撃を加えます。
『HAHA、堕ちろってんだYO!』
『さっさとやっちまえYO!』
『遅ぇんだYO!』
しかし、エリスにも迷いはありません。
「戦うのはキライ………でも!
 今はやるしかないの!!」
チンピラ連邦兵らが乗るジムやボールでは
レベルがやりすぎレベルまで高められたエリス駆るフェニックスガンダムに敵うわけも無く
「しまった、うわぁぁぁ!!」
チンピラ連邦兵達は次々と経験値へと昇華していきました。
そして、フェニックスガンダムは狙いをチンピラ連邦兵達の母艦、サラミスに定めます。
「ごめんなさい…私にはこうするしか!!
 …バーニングファイア!!」
『メインエンジンに誘爆! クソッ、艦の制御がきかNEEEE!!』
『この艦が墜ちるってのか…BA☆KA☆NA!』
そしてサラミスは轟沈しました。
「………ごめんなさい!
 でも………仕方なかったの! 私にはこうするしか!」
そしてエリスは、そう呟きました。
今日もエリスの戦いは続きます。
そして明日も、明後日も…

一方、オリキャラ軍旗艦では…
「夢〜はな〜つ♪ 遠〜き宙に〜♪
 君の〜春〜は散った〜♪」
のんきに歌などを歌っているグラサン野郎がいました。
彼の名はバイス・シュート。
仲間の為、戦いを終わらせる為に戦い続けるエリスとは対極の位置に存在する
オリキャラ軍でも一、二を争うほどの怠け者です。
今日も今日とて歌って騒いでばかり。仕事?何それおいしいの状態です。

そして、戦闘を終えキャリーベースに帰還したエリスに
バイスが声をかけました。
「お♪ エリスちゃんおつかれ〜♪
 今日もバンバン敵堕としちゃってたね〜♪」
「バイスさん…」
「そのお姿はまさに戦場の女神ってか♪
 いや〜麗しい♪ところでさ♪今日もオレ様の歌は聞こえたかい?♪」
「ええ、それはもうしっかりと」
戦闘中、やる事がないので歌っているバイスの歌は
何故か、戦闘中のNTパイロット達の耳にも届くのでした。原理は不明です。
ともかくオリキャラ軍のNTパイロット達の間では、バイスの歌は「鈴の音の三倍ウザい」と評判でした。

「そ〜かいそ〜かい♪ そりゃ嬉しいねぇ♪
 じゃ♪ これからももっと頑張って歌うとすっかな〜♪」
などという事を言うバイスに、エリスは彼女なりに
厳しい顔を繕って、言いました。
「…バイスさん、貴方は仲間の為に、何をしていますか?」
「ん♪ 仲間の為ねぇ…♪
 んなこた〜考えた事も無かったぜ♪
 オレ様はオレ様が楽しけりゃそれでい〜ってライフスタイルだからさ♪」
「バイスさんもこの艦に所属しているからには、何か仲間の為になる事をするべきなんじゃないですか?
 整備の手伝いだって、雑務だっていい…
 ただ歌うだけより、何かあるハズです!」
「お〜怖ぇ♪
 ったくよ〜♪エリスちゃんは真面目過ぎんだよ♪
 もっと人生気楽に考えてよ♪ おもしろおかしく生きてりゃいいんだよ♪」
エリスの諭す言葉にも、この態度です。
バイスは、典型的なダメ人間でした。


そんな生活が長く続くわけもなく…
ある日、部隊内の会議でバイスの不真面目さが槍玉に上がりました。
「バイスさんの不真面目さ、そして部隊への貢献度の低さは目に余るものがあります」
「でも何言っても効果ねぇからなアイツは」
「つっても給料の分くらいは働いてもらわねぇとな」
「ハンパな覚悟じゃアイツは更正させられないぜ」
「いっその事、一回部隊から追い出してみたらどうだ?
 もう一度社会の荒波にもまれりゃアイツも心を入れ替えるかもしれないしな」
「それが一番いいのかもしれんな…」
「僕もそう思います」
「よし、ではその方向で」
かくして、バイスの部隊からのリストラが決まりました。

「さてさて♪ そんじゃちょっくら出てきますかな〜♪」
軍を去ろうというその時すら、バイスはまたすぐに帰ってくる気満々の態度でした。
「おおっと♪ オレ様を止めるなら今のウチだけど…止めんなよエリスちゃん♪」
「止めません」
エリスは冷静にそう返しました。
その目には、バイスが更正し、真面目な真人間となって
帰ってくる事を期待しているかのような色が浮かんでいました。
しかし…
「ま…オレ様は音楽で一山当てて、ビッグになってやっからな♪
 そん時ゃメシでもおごってやるぜ♪ …そんじゃ行くぜぇ♪
 止めんなよ♪」
「だから止めません。お元気で」
「お〜エリスちゃんこそ元気でな♪
 …止めんなら今のウチだけど」
そんなやりとりが数分続きました。
終わりがないかのように続けられる「止めんなよ」「止めません」のやりとり。
うんざりしたエリスは
「このくだりを終わらせるためには…!」
と言って、バイスを無理矢理艦の外に放り出しました。
「クソッタレが♪今日はこのぐらいで勘弁しといてやらァ♪」
そう捨て台詞を吐いて、今度こそバイスは艦を後にしました。
「あの人、ちゃんと更正してくれるといいけど…」
エリスが心配そうに呟きました。



しかし、心配はそのまま的中しました。
着の身着のままで部隊から追い出されたバイスは
ある時はストリートミュージシャン、ある時は流しなどをして
細々と生活していましたが、ミュージシャンとしては全く芽が出る気がしません。
「チッ♪
 現実さんもそうそう甘くはねえなァ♪」
生活費もほぼ、底をつきかけていました。
「こりゃあ……いよいよヤベえなぁ〜♪」
そしてバイスは、一つの決心をしました。
「ロクな求人もね〜し…ここはいったん♪部隊に帰りますかな♪」
やはりバイスは根っこの所からダメ人間でした。

そしてノコノコ帰ってきたバイス。
バイスの処遇を巡り、またも会議が行われました。
「もう帰ってきたぞ、どうする?」
「とても更正したようには思えませんが…」
「ここで許せば、バイスの為にもならん」
「よし、もう一度バイスを追い出そう」
「でもよ、誰に追い出させるんだよ?」
「前はエリスが追い出してくれたみたいだし、エリスでいいんじゃないかな」
そう結論が出ました。

そして、エリスがバイスにその旨を伝えました。
「…何?♪ オレ様またも追い出されちゃうってわけ♪」
「上で決まった事ですから…」
「やだね♪ オレ様はここをも〜テコでも動かね〜かんな♪
 心優しいエリスちゃんに♪ オレ様を追い出すなんて事なんてできんのかな?♪」
そう居直るバイスを前にエリスは、愛機フェニックスガンダムに乗り込み
「私にはこうするしか………ごめんなさい!」
と言って、フェニックスガンダムのマニュピレーターで、居座るバイスを無理矢理引きずり出し
そしてバイスを艦の外へ捨てました。
「今日はこのぐらいで勘弁しといてやらァ〜♪」
バイスは、そう捨て台詞を残してまたもキャリーベースを去って行きました。
「………ごめんなさい!
 でも………仕方なかったの!
 私にはこうするしか!」
エリスは、泣きながらそう言ったそうです。

その数日後。またもバイスが現れました。
「よ♪また帰ってきたぜぇ♪」
「私にはこうするしか!!」
エリスが叫ぶと同時に、バイスはエリスの乗るMF「ネーデルガンダム」の必殺技
「ネーデルタイフーン」を受け
「今日はこのぐらいで勘弁しといてやらァ〜♪」
またもそう捨て台詞を残して何処かへと吹き飛んでいきました。

その翌日、またもバイスが(ry
「オリキャラ軍よ♪オレ様は帰ってきた〜♪」
とバイスが言うと同時に
「私にはこうするしか!!」
エリスの駆るサイコガンダムマークLの「パンチ」がバイスにクリーンヒットし
「バイバイキ〜ン♪」
バイスはそう叫んで、何処かへと飛んで行きお星様になりました。
「ごめんなさいでもしかたなかったのわたしにはこうするしか」
エリスが棒読みでそう呟きました。大分感覚が麻痺してきたようです。
そして、こう思いました。
あぁ、あの人明日もまた来るんだろうな。
そしてまた追い出すんだろうな。そして明後日も…

こうして、戦闘外でも望まない戦いを強いられるハメになったエリスでした。


そんな不毛な戦いが、一ヶ月あまりも続いたある日。
「オレ様…もしかしてホントに帰れね〜んじゃね〜かな…♪」
流石のバイスも現実に気付き始めました。
「オレ様…いよいよヤベぇ〜なぁ♪」
そう呟き…そして、決心しました。
「…ちょっとハロワ行って来る♪」
バイス・シュートの、新たなる人生が幕を開けようとしていました。

そして、意を決して突撃したハローワーク。
そこは、平日だというのに人でごった返していました。
「なんだこの人の量はよ〜♪ どんだけ不景気なんだよ♪」
そしてバイスは、ある事に気付きました。
「ん…♪ ちょい待ち♪ アンタら全員レンタル兵じゃねぇか♪」
バイスの言うように、平日のハロワを埋め尽くしていたのはレンタル兵…
…いえ、元レンタル兵のみなさまでした。
その中のヒゲを生やした、元大佐と思われる人物にバイスは声をかけます。
「ちょっとアンタ♪ 何やってんのこんなトコで♪」
「求職だ。決まっているだろう」
元大佐はそう答えました。
「おいおい…♪ アンタら、レンタル兵の仕事は?♪」
「そんなものはもう無い! 変わったんだ、何もかもが…」
「はァ♪」
「F以降、仕事はほとんどなくなった…
 そして、トドメを刺すかのように、ワールドでの新会社「マイキャラ派遣会社」の登場…
 …我がレンタル兵派遣会社はとっくに倒産したよ」
「マジっすか♪」
「マジだよ……我々元レンタル兵は、今日も今日とて求人票を眺め続ける日々さ」
「大変だな〜♪ で♪ 何か良さげな求人ある?♪」
「めぼしい所では…ここだな。『サラミス艦長募集、ビグ・ラングに撃沈されるだけの簡単なお仕事です…』」
「…寒い時代だねぇ♪」

キリギリスのように遊び呆けようと、アリのように働こうとも
どちらにしても報われない者は報われないのですね。

めでたしめでたし。

総括:めでたくない