【学園ネタ】 359氏
ピ,ピ,ピ,ピ,ピピピピピ…
「フ…ァ〜ァ、もう朝?」
カーテンを開けた窓から日が差し込んでくる。
こんな晴れ晴れとした朝だが、少年の顔は曇ったままだった。
「あーあ…テストか…」
学期末テスト。世の学生の半分以上が嫌がるイベントの一つ。
それは彼も又例外ではなかった。
「結局、徹夜出来なかったな…」
もしこの日に休めたならどんなに素晴らしかっただろう。
だが、時は無情にして残酷である。
「シェルド!お友達、来てるわよ!」
「ああ、ハイ!」
「でも、朝御飯は食べるのよ!」
「わかってまーす!」
シェルドと呼ばれた少年はトーストを口にくわえつつ玄関を出ていった。
「よ、シェルド!勉強できたか?」
「ジュナス、僕がしっかりできると思ったかい?」
「ハハハ、そりゃそうだ!」
「そういうジュナスこそどうなんだい?」
「ん、ボクは…」
テストの朝は得てして こういった話になりがちなものである。
そして、彼らの背中に一つの影。まだ少年達は気付いていない。
その影はジワリ、ジワリと近付き、そして―
「ヨッ、勉強やったか!?」
ドンッという鈍い音。スキンシップを図るべく肩を叩くために広げたその腕は、
ラリアットとして少年達の延髄へと突き刺さり、彼らをうづくませる威力だった。
「ん、ドシタノ?二人ともしゃがんじゃって?
あ、お金でも拾ったんでしょ?」
「イテテテテ…」
少年達の声はほぼ同じタイミングで発せられた。
「痛い?今日がテストだからって仮病するなよ!」
「違うよ、クレア…」
「星が見えた…」
「星?今は朝ですよー。
徹夜でもしたの?」
トボけているのか、天然なのか…
「行こう、ジュナス」
「そうだな」
「アッ、ちょ、ちょっと待ってよー!」
少年達は立ち上がり、「我関せず」といった面持ちでクレアの前を後にしたのだった。
教室に着くと、既に人も揃い始めていた。
「おはよう、シェルド君」
「おはよう、エリスさん!」
エリス・クロードはシェルドのクラスメイトにして、学園のアイドル。
挨拶を交し、微笑みながら席に行くシェルドを見送っていた。
席に着き、教科書を開くシェルド。
最後の悪あがきである。
「なーにやってるのかね!今更遅い、遅い!」
「クレア、どうしたの?」
「へ?別になんでもないよ!?
ノート見せてとか、そんなの全然!?」
あっ、という顔を作るクレア。
それを見て素直に言えば良いのに、と思うシェルドだった。
「それにしても、なんで僕の?エリスさんに頼みなよ」
「ダメダメ、エリスのノートなんて一週間前から予約で一杯よ!」
さすがに誇張しすぎだが、彼女の優秀さは本物であることを伺わせるには十分だった。
「じゃユリウス君は?」
「いやー彼はチョット…」
「誰がチョット何ですか?」
「ユ、ユリウス!?」
ユリウス・フォン・ギュンター。
もともと中等部だったが、優秀さを買われ飛び級でシェルド達のクラスに入った秀才である。
これも、中高一貫校だから成せる技だろうか。
「イヤー、ソノ…
ノート、貸して貰えたら嬉しいなぁ、って」
「…?別に構いませんけど。
なんでそんなにあがってるんですか?」
「ア、アリガト!アハハ、ほら、迷惑かなって思ってさー」
「大丈夫ですよ。ハイ、コレ。
汚さないでくださいね」
「アハハ、ハハ、ハァ…」
「どうしたの?」
「やっぱねぇ…年下に頼むことへのレットウカン、コンプレックスってやつ?」
「…変なの」
「あっなによソレ!」
とまあ、こんな調子で時間は過ぎていった。
ガラガラガラ、ピシャン!
瞬間、空気が変わりこれまでの喧騒が嘘のように静まる。
コツコツというハイヒールの音が止む。
「出席を取る。まあ、みんな来ているだろう」
「いや、まだです」
「珍しい。誰だ?」
「それ―」
話を遮る爆音。
校庭に煙を上げて停まるバイク。
どよめく野次馬。二階で障害物がないため窓からよく見える。
このバイクは?そしてその主は?彼らの関心は尽きない。
そして、バイクのパイロットがヘルメットを取る。
そこには一人の女性の姿。彼女は急いで教室へと走った。それから数分後。
「ニキ先生!遅れて申し訳ありません!」
「まだ、チャイムは鳴ってません、キリシマさん、席に着きなさい。
それと私から言わせて貰うと、なるべくそういった登校は控えて欲しいものです。別に禁止ではありませんが」
「カッコイイー!」
「そんな一面があったなんて!」
ヤンヤヤンヤの喝采を浴びせる野次馬達とはうって変わって担任のニキは冷静な態度であった。
「静かに。今日は試験です、アナタたちの進級がかかってます。
そこをお忘れなく。」
簡潔にテストの意義を言い、プリントを配る。
ベテランだけあって手際が良い。
そして、彼らの長い一日が始まったのだった。