【贋作・罪と罰】 4296氏
「奴が宇宙に上がっている隙を狙って、私は実行にうつした…」
「…正直、驚きましたね」
そして、同時に考えていた。
この博士の仕掛けを使えば、上手く奴を追い込めることを。
「奴は、娘を救う方法ばかりを考え、娘自体を見てはいなかった。いや、見ようとはしていなかった…」
「…」
「完成した人工NTは2体。その内1体を反宇宙連邦政府軍へと、ゼノンを通じて送り込んだ…」
レイチェル・ランサム…
「…もう片方は?」
「もう1つのスポンサーのところ。宇宙連邦政府軍上層部…」
それが、シス・ミットヴィル…か。
博士の論文に着目していたのはゼノンだけではなかった、ということか。
宇宙連邦の上層部も、戦争したがっていたのか…
人工的NTという概念のために。
まさか連邦軍自らが、戦争を起こすわけにはいかない。
反宇宙連邦政府軍が宣戦布告したのをいいことに…
人工的NT。
悪魔の呪文だ…
軽蔑と嫌悪感。
吐き気がしてきた…。
「ゼノンと宇宙連邦政府軍、二つのスポンサーを得ていたわけですか…」
「自分の研究が、人を殺すことを知った。でも、止められなかった。私の、生涯の研究だ。非人道的なのは、分かっていた。だが、どうしても、その行く末を見たかった…」
狂ってる。
「ある日、反宇宙連邦政府軍の本部に行く機会があった。そこで私は、一人の少女に会った…」
僕は、息を止め、彼の話に耳を傾ける。
「無垢なNTの少女だった。宇宙の名無し子。この少女の未来を奪うわけには、いかないと、その時、思った…」
「それで、すべてを爆破したわけですか」
「そう…。塵に返した」
「全てを、ですか?」
「いや、最後の一欠けらが、私の体内に埋まっている」
「…」
「君に、渡そう…」