第6話「驚異! ジェントルマンのちょ〜兵器」
コンバットスーツ姿の男達が整列していた。背筋を伸ばして直立するその身体は、鍛えられあげた者であることを証明するかのように強靱な筋肉で武装されていた。その筋肉は、DG細胞によるものだけではなく、日々の訓練によって身につけたものでなければ不可能なほどの機能美に溢れていた。
その頭部には、栄光ある特殊部隊の証である赤いベレー帽が載せられている。
彼らが整列する正面では、指揮官であるカーネルが演説をしていた。
「聞け! 我々デスアーミーは、神に仕える選ばれた精鋭である。そして、我々の神聖な領土に今、一匹のネズミが侵入した。見よ!」
カーネルが指さした先には、赤毛の男の写真を貼り付けた垂れ幕があった。額に白いハチマキを巻いたその男の名はアキラ。彼らにとって、神にも等しきキングに刃向かう不逞の輩であった。
次の瞬間、そのアキラの写像がバラバラに切り裂かれた。破れた垂れ幕の後ろから、レッドベレーを頭に被った巨体の男が姿を現す。
黄土色――世紀末に合わせた砂漠戦仕様の迷彩服を着たその男は、やはり顔面にも迷彩ペイントを塗っていた。レッドベレーの副隊長、デニス・ナパーム軍曹である。
デニスは部下達へ命令を下した。
「胸に手形の傷を持つ男だ。見つけたら容赦なくぶち殺せ! 今日から俺が指揮をする! ウワハハハハッ!!」
デニスの高笑いが室内に反響した。
アキラはデスアーミーの本拠地へと向かっていた。この丘を越えれば街があり、そこに敵の拠点がある。だが、その丘の頂上には、赤いベレー帽の軍人達が待ちかまえていた。
「おまえが胸に手形の男か? なかなか良い面構えだ」
巨体の男、隊長のデニス軍曹が喋った。
「だが、その顔も今日でおさらばだ。我らの練りに練られた兵器の力を見るがいい!」
アキラは、敵より先にガンダムを呼んだ。武闘家がプロの軍隊を相手にするならば、決して先手をとられてはならない。孫子の兵法に長けた師匠から教わったことだからだ。
「でろぉぉぉ――! シャァァァイニング! ガンダァ――ム!!」
指を弾くと、丘の麓から砂埃を吹き上げ、シャイニングガンダムが出現した。アキラは乗り込むと、いつものように戦闘前の確認作業をする。シャイニングガンダムが構え終わった時には、デニス軍曹以外のレッドベレーがデスアーミーに乗り込んでいた。
いや、よく見ればデスアーミーではない、新たな亜種だった。デニスが嬉しそうに叫ぶ。
「ウワハハハッ! これぞ我らの開発した究極兵器! デスドラムだ!」
デスアーミーに脚はなく、代わりに両腕の部分が車輪になっていた。その両輪には、何本ものロケットブースターが備えられている。まさにレッドベレーにふさわしい究極兵器だ。
「デスドラム隊! 前へ!」
両輪のロケット・ブースターが点火した。その噴射力によって、デスドラムが回転しながら丘を転げ降りてきた。
「来るか!」
シャイニングガンダムは背部スラスターを噴かし、後方に飛び退いて、デスドラムが向かってくるのを待った。だが――
「どうしたことだ!?」
デスドラム隊は丘の麓に降りると、前へ進まずに、あらぬ方向へと転がっていた。ロケットの噴射が逆方向へ作用し、再び丘の頂へ駆け上がっていく機体もある。
それぞれがぶつかり合い、同士討ちを起こして爆発四散した。
「ぬぅぅぅぅぅ!何ということだ。”天災”的な科学者達が結集して開発した究極兵器だったのに。まあいい、いつものことだ。情報操作で適当に誤魔化しておこう」
さすがにレッドベレー。バカ兵器には慣れていた。
「それでは、俺が自ら相手をしてやろう。いくぞ!」
デニスがジャンプすると、それに合わせて飛翔した機体があった。デニスをコックピットに招き入れ、颯爽と地上に降り立つ。
XXXG-01H2「ガンダムヘビーアームズサージャントカスタム」である。通常のXXXG-01H2と正反対のカスタム化をした機体だった。
通常のカスタムはアーミーナイフを廃止し、両腕に連装ガトリングガンを装備、ホーミングミサイル36発、マイクロミサイル54発を積んだ歩く弾薬庫、重火力の機体だった。しかし、このサージャントカスタムは火力を一切取り払い、アーミーナイフを二刀流にした省エネに優れた機体だった。その造形は余計なものを一切取り払っただけに、シンプルで美しい。背中にゴテゴテとした何かを付ければ良いと思っている、どっかのカスとは雲泥の差である。
サージャントは2本のアーミーナイフを構えた。
「見せてやろう。何千人ものゲリラの血を吸い取った殺人技を! うりゃああ!!」
サージャントがアーミーナイフを左右交互に突き刺した。だがシャイニングガンダムは、連続で繰り出される突きをことごとく見切り、避けた。
「フゥハハハッ! そんなよけ方では逃げ切れはせんぞ! 俺のナイフは1秒間に10回突き刺すことができる。貴様が止まった瞬間に串刺しだ!!」
だが、シャイニングガンダムは、一瞬で姿をかき消した。デニスが気づいた時には、後頭部に光の掌が当てられていた。
「武闘家を相手に、正面から挑んだのが貴様の敗因だ。自分の腕に溺れたな」
「あ・・・あぁぁぁぁ! あべしィィ!!」
サージャントが砕け散った。
もしも、得意のゲリラ戦を挑んでいたならば・・・・・・まあ、後方からの鉄球攻撃では、結果は同じか。
アキラは再び、敵の本拠地へと歩みを進めた。