【デザートフォックス外伝「ティターンズ誕生」】Fire氏
宇宙世紀0085年7月31日 サイド1 30バンチにて
「おい!準備はいいか?」
ゆるやかに回転するスペースコロニー、その外壁部分、酸素供給装置のある場所に、数機のMSの姿があった。
緑色の塗装をされたその機体は、一年戦争のジオン軍を想起させる。まぎれもなくザクである。公国軍を代表するこのMSをまさか、公国軍の残党狩りを主目的とする組織に運用されようとは、運命のいたずらとして片付けるには、あまりにも皮肉なことだった。
型式番号RMS-106「ハイザック」、ティターンズの量産型MSである。連邦軍正式の青ではなく、わざわざジオンカラーの緑を採用したのはティターンズゆえの嫌がらせか、あるいは技術者の気まぐれか、ともかく、ジオンを象徴するこのMSは連邦のMSとして蘇った。
外装はジオンに似ていても、内部はさすがに連邦だけあって、一新されている。資金不足故か、技術不足のためかはわからないが、パイロットの保護など露ほども考えず、エースパイロットの技量と忍耐に頼りきったジオン軍のザクとは違う。
リニアシートを採用し、座席を浮かせることでパイロットの衝撃保護能力を向上させている。また、全周囲モニターの採用により、後方視界の確保も向上した。
一年戦争においてMSに絶えがたいほどの犠牲を強いられ、そのMSによって劇的な勝利を得た連邦軍は、MSへ宗教にも似た信仰を抱くようになった。
すなわち、MSは最強の兵器である。そしてその万能性は他の追随を許さない。よって、他の兵器は必要ない。最終的には兵器の共通化とコスト削減にもちょうどいい。
このようなある種、夏に大量発生する厨房と呼ばれる人間のような、ガキくさい考えを推し進めた軍事ドクトリンがAMD――オール・モビルスーツ・ドクトリンである。
連邦政府がどれほど無能なのかは、これでわかろうというものである。
だが幸いなことに、反乱を起こす軍も、同じようにAMDを採用するようになった。
どのような軍隊も、勝った軍隊のサル真似をやりたがるのが昔から続く常識なので、あり得ないことではなかった。
真似をしないところは、地政学的条件もあるが、大抵の場合は金が無くてできないか、民度が低すぎて知能が足りないかのどちらかなので、結局は弱い。
よって、MS最強論を覆すことはできなかった。
数機のハイザックが巨大なタンクを設置し終わると、隊長機らしきハイザックが作戦決行の合図をくだす。すると、酸素吸入口から得体の知れないガスが流れ始めた。
ブラッドは隊長機のコックピットに座りながら夢見心地の気分を味わっていた。これから数時間以内にコロニー内で地獄絵図が展開されることになるだろう。
やはり、ティターンズに入って良かった。これからは汚らしいスペースノイドのゴミどもを一掃できる機会が何度も訪れる。実に気持ちの良いことだ。ゴミどもはすべて強制収容所にぶち込んでやる。いや、それだと飼う費用が大変だ。やはり、退治した方が良い。
スペースノイドなど、優良なアースノイドに比べれば、ゴキブリのようなものだ。ゴキブリ退治には殺虫剤が一番だ、今回の作戦はまさしくゴキブリの掃討そのものだった。わざわざ巨大なガス室に住んでくれているのだから楽なものだ。
「クククク・・・・楽しいねぇ」
ブラッドはこれまでの苦労が一気に報われた喜びに打ち震えていた。
一年戦争が終わり、生き残ったブラッドは、職にあぶれた。いざとなれば、何でもやって生き残る自信はあったが、せっかくの経験を無駄にしたくなかった。
幸い、連邦軍は戦死の続出で士官が不足しており、予備士官を募集していた。民間人として暮らすなら予備士官学校で教育を受けた後でも遅くはない。
そう思い、士官教育を受け、いよいよ卒業して予備役になろうとした頃にデラーズ紛争が起こった。この事件は公式文書からは削除されたが、ジオンの残党を掃討する目的で新たにティターンズが結成された。機会主義者のブラッドは一も二もなく飛びついたというわけである。
間もなく、コロニー内に設置されたカメラからの映像がブラッドのスクリーンにも映し出された。
広場で、反地球連邦のプラカードを持った市民団体の連中が抗議のデモを起こしていた。まったく、悪質なクズどもである。ゴキブリに等しい存在のくせに、サボタージュなどとは勘違いも甚だしい。スペースノイドの貴様らに人権など無い。傲慢なゴミには正義の神の鉄槌が必要だ。連邦の甘い体制が生み出してしまったバベルの塔はティターンズが粉砕するのだ。
各地で小規模の暴動やテロが起こっていた。すでに治安隊は撤収しているため、止める者のいないコロニー内部は無法地帯になっていた。官庁の建物は興奮した民衆によって打ち壊され、どさくさに紛れて略奪をする者がいた。それを見て我も我もと同じように略奪にはしる者が続出する。
ククク・・・ぬるい人道主義者どもよ、目を開けてしっかりと視やがれ。これが現実だ。我々ティターンズが手を下すまでもなく奴らは自らの劣等性を証明しているではないか。
自分のことはすっかり棚に上げ、ブラッドはすっかり有頂天になっていた。
「そろそろ時間だな・・・」
急にスクリーンの情景が変わった。胸を掻きむしって悶える者、両手で喉を抑えて喘ぐ者が続出した。血反吐を吐き、痙攣を起こす者が相継いだ。苦しそうに助けを求める女、弛緩して脱糞している者もいる。先ほどまで我が物顔で君臨していた暴徒どもは今や、すっかり憐れな子羊に変わっていた。
「いや、ゴキブリと比べたら子羊に失礼だな。ふむ、まさにスリッパで叩いて潰れた後のゴキブリにそっくりな動きだ」
死の間際で痙攣するゴキブリに例えられたコロニー住民数百万人はこの日、文字どおり全滅した。
宇宙世紀0080年1月3日
「デザート・フォックス」隊長のゼノン・ティーゲルはアレキサンドリア基地にいた。ここは、自らが率いるジオン軍の占領地だった、ほんの一ヶ月前までは・・・。
12月5日に連邦軍のアフリカ大掃討作戦が始まり、アフリカの主要な拠点はほとんど奪回されてしまっていた。ゼノンが率いるデザート・フォックスも奮闘したが、さすがに20倍の戦力が相手ではまともな戦術など通用しなかった。連邦のMSは突出した性能ではなかったが、すべてにおいてバランスがとれていた。少なくとも、ザクよりは性能が上である。そして、こちらのゲルググは決定的に数が足りない上に、ザクとの部品の共有化もほとんどできなかった。
制空権は完全に連邦のものとなり、まともな作戦行動も不可能と悟ったゼノンは、遊撃戦の展開に戦術を変更し、MSのみの少数精鋭で戦うことにした。
まともな補給もままならない状態では、部品の調達もおぼつかない。砂漠戦仕様のザクとゲルググを残し、通常のザクはすべて解体して予備の部品にまわした。
主なMSパイロットと最低限の後方支援のみを残し、残りの者は中東アラビア半島の南端、アデン基地に向かわせた。そこからジオン本国へ帰ることができる。幸い、アラビア半島はまだ確保されていたので途中の行軍の危険は少なかった。エイブラムを撤収部隊の指揮官に任命し、ハルトたちのような戦車部隊も帰した。最前線の相継ぐ奮闘で負傷していたエルンストも後送した。熟練パイロットの喪失は痛いが、負傷者に無理な戦いをさせるような非効率なことはしたくなかった。
昼間は広大な砂漠に潜み、夜を待って連邦軍の物資集積場らしき場所を襲撃する。ただの嫌がらせにすぎないやり方だったが、これ以外に戦いようがなかった。
とはいえ、連邦の物量は半端ではない。こちらの20倍の戦力を用意できるということは、補給部隊の用意もそれに比例して準備しているということである。破壊しても破壊しても、しばらくするとそれに倍する物資が集められ、自分がむなしい戦いをしているのだと思い知らされるのだった。
やがて予備の弾薬も底を尽き、とても部隊としての戦いは不可能と思われた頃、終戦のニュースが飛び込んできた。
ずっと背負ってきた肩の荷が下りた気がした。だが、まだ最後の仕事が残っていた。ゼノンは部隊の解散を宣言した。
そしてゼノンは今ここにいる。終戦協定に基づき、部下達を本国へ帰すための交渉に来ているのである。徹底抗戦を主張した者たちはキリマンジャロへ向かった。ゼノン自身は戦争は終わったと思っている。平時に戻ったならば、ある程度は個人の自由意志が尊重されるべきだ。彼らは彼らで犯罪者として扱われるかもしれない覚悟はできているのだろう。止める気はなかった。
自分が仕えていたのはジオンという国である。国を形成するのは国土であり、社会である。いや、言い訳はよそう。つまり、勝てない戦をこれ以上続けるのは馬鹿馬鹿しいだけだ。政治など、どうでもいい。政治は政治屋の仕事である。自分は軍事ですべて判断する。軍事的に無意味なことはしたくなかった。
放送で聴いたグラナダ条約によれば、ジオンの戦争責任は問わないということだった。とはいえ、つい先日まで戦っていた敵同士である。基地の内部へ案内され、連邦の司令官室に通されるまで、激しい敵意の視線が注がれていた。
連邦軍の司令官はジャミトフ・ハイマンという男だった。階級は大佐で、アフリカ掃討作戦の指揮官らしい。
ジャミトフはゼノンを一瞥すると、興味深そうな顔で訊ねてきた。
「貴様が有名な狐の親玉か。それで、どの面下げて私の前に姿を現したのかね?」
無礼な物言いだった。とはいえ、予想済みなのでゼノンは動じることはなかった。
「戦争が終わったということなので、ジオン本国と連絡を取らせてもらいたい。それから、武装解除した兵員の本国への輸送手段、捕虜の処遇についても詰めていきたい」
「戦争が終わっただと?未だにこのアフリカではジオンの兵士が戦っているではないか。奴らのことはどうするつもりなのだ?」
「そのことについては私の管轄外だ。私が責任を持つのは自分の部隊であって、アフリカ方面軍全体ではない。抗議は方面軍司令官か、ジオン政府へ言ってくれ。投降を呼びかけるというなら、協力はする」
ジャミトフは「狐めが」と忌々しげに呟き、ゼノンを睨みつけた。どうやら頭は悪くないようだった。ゼノンは理の通じる相手で良かったと安堵したが、もちろん表面には出さない。
「よかろう、貴様らのアレキサンドリア滞在を許す、抑留に近い形式になるが、それで構わんだろう。なにしろ部下が殺気立っているからな。そうでなければ命の保証はせんぞ。スパイ疑惑で殺されたくなければおとなしくしていることだ」
「問題ない。それでは早速――」
ゼノンが話を進めようとすると、ジャミトフは待ったをかけた。
「その前に、訊きたいことがある」
「何ですかな?軍事機密に抵触するようなことは答えかねますが」
「なに、一般論だよ。貴様らスペースノイドに、ちと興味があるのでな」
ジャミトフは嫌らしい笑みを浮かべ、ゼノンに訊ねた。
「貴様らジオンは宇宙の独立を大義に掲げておったな。それが何故、コロニー市民の抹殺などをやったのかね?」
なるほど、そういうことか。ゼノンはうんざりした。どうやらこいつは政治色の強い軍人らしい。自分のような軍人とは絶対に合わないタイプだった。
エイブラムの政治談義にも苦しめられたものだ。彼は優秀だったので、本人の自由に語らせておいたが、ゼノンは派閥や政治には興味がなかった。
こういう連中は、戦争にやたら正義だの悪だのと語りたがる。そんなことは政治家に任せておけばいいのだ。大義など、士気高揚の一手段にすぎないだろうに。
「そのことについては、こう言うしかない。戦略的、作戦として必要な措置だったからやったまでです」
瞬間、激しく机を叩く音がした。ジャミトフは立ち上がり、憤怒の表情でこちらを睨んでいた。今にも襲いかかってきそうな勢いである。
「ふざけるな!必要な措置だと?貴様らはそれだけのことで地球の環境を破壊し、大多数のアースノイドを殺したのか?」
「ふざけてなどいない。自分は軍人だ。命じられれば必要なことをやる。戦争を勝つために与えられた条件の中でベストを尽くすだけだ」
実際、国力の圧倒的に弱いジオンは、あれ以上の戦い方などできなかった。少なくとも初期の頃は。戦力差を考えれば僥倖と言ってもいいだろう。
ましてや、ルール違反を犯したわけでもないのだから、文句を言われる筋合いなどなかった。
自分は正義のために戦争をしていたのではない、楽しんでやっていたわけでもない。それがただ、義務だったからだ。
だが、この男にそれを言っても、おそらくは理解できないだろう。
ジャミトフは肩を怒らせながら、荒く呼吸をしていたが、やがて落ち着いたのか再び腰掛けた。
「わかった。もういい、話はここまでだ。必要な手続きは部下に任せてある。そちらで話を進めるといい」
ゼノンは喜んで応じた。この男と自分がわかりあうことは絶対にないだろうという確信があった。
ゼノンは身を翻し、颯爽と立ち去った。
ジャミトフの副官はウッヒ・ミュラーという男だった。こちらは、かなり話のわかる人物だった。
ゼノンは、ミュラーと話をしていくうちに、すっかり打ち解けていた。もしもジオン軍にいたら、迷わず副官に欲しい人物だ。ニキには悪いが、作戦幕僚としてはともかく、副官にはこういう話のわかる人物がいい。
ミュラーはゼノンに対して申し訳なさそうに話した。
「どうか、悪く思わんでください。あれでもうちの親爺は責任感が強くてね。何もかも自分で抱えこんじまうんですよ。もうちょっと、肩の力を抜けば、本当にいい司令官なんですがね」
「仕方がないだろうな。こちらも立場上、ああ言うしかなかったが、連邦からしてみれば、我々は憎んでも憎みきれないだろう」
「まあね、そのあたりはみんな複雑なんです。何しろ総人口の半分をこの戦争で失ってますからね。単純計算しても、兵士の二人に一人は家族を失っていることになる」
ミュラーはさして深刻そうなそぶりも見せずにそう言った。この男は、どんな深刻な話題でも、すぐに明るくしてしまうような天性の才能があるのだろう。
「まあ、そんなわけでややこしいんですよ。何にしても、もう終わっちまったことです。俺の場合は元から天涯孤独なんで、あんまりピンとこないんですがね。俺たち連邦軍の中には、戦争で家族を失って、ジオン憎しで志願した奴がゴマンといる。そういった連中からしてみたら、今回の講和は納得がいかないんでしょう。俺に言わせれば、戦争なんて自然災害みたいなもんなんですがね。終わってくれて、ラッキーくらいに考えておけば良いんですよ」
「いや、大したものだ。貴官のように考えられる人物ばかりなら、戦争など起きないのだろうな」
ゼノンは改めて連邦軍を見直した。当たり前の話だが、彼らも軍隊である以上、雑多な人間の寄せ集めである。いくら規則で縛り付けたとしても、隠せない個性は出てくる。立場が同じなら、この男とはさぞかし気があったことだろう。
「それに、人として許せない味方よりは、気持ちの良い敵と話す方がマシってこともあるもんです」
「同感だ。どこの軍隊にも似たようなことはあるようだな」
「ええ、お互いたいへんですね」
周囲の視線がある手前、ゼノンとミュラーは握手こそ交わさなかったが、アイコンタクトでわかりあっていた。
宇宙世紀0080年2月
「ヒャヒャヒャヒャヒャッ!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!」
ニードルは味方の部隊と共にジオンのMSと戦っていた。味方はすべてデザート・ジムで統一されていた。砂漠戦に適応した陸戦型ジムの改修型である。
酷暑の砂漠戦では、最も使用頻度の高い射撃用のビーム兵器は、銃身がすぐにオーバーヒートを起こしてしまう。そのため、通常のビームスプレーガンの他に、実弾兵器を発射するレールガンを装備していた。だが、何といっても最大の特徴は装甲にリアクティブアーマー――爆発反応装甲を用いていることである。
この爆発反応装甲、簡単に言えば、通常装甲の表面に、爆薬内蔵の特殊装甲を貼り付けたものである。銃弾が当たった瞬間に爆発させ、その衝撃力で特殊装甲を剥がす。この時、貫いた弾頭も一緒に剥がされるので、攻撃を逸らすことができるのである。
ザクマシンガンの命中に耐えるジムのルナ・チタニウム装甲だったが、敵はそれに対してザク・バズーカを多用して対抗するようになった。また、敵のMSにドムが登場したことにより、バズーカの弾を防ぐ目的で取りつけられたものである。
「まったく、弱い弱い弱い弱い弱いぜ!ギャハハハハハハハ!」
とはいえ、ジオン軍にドワッジやデザート・ゲルググ等の高性能MSはほとんどなく、あっても部品が足らないため、稼働率が極端に落ちることになる。
よって、主力はやはりディザート・ザクだった。ここで先ほどのリアクティブ・アーマーの欠点が露呈することになる。
なんと、ザク・マシンガンでさえも反応して装甲が剥がれてしまうのだった。所詮、新たな装備など、実際の戦場ではそれほど貢献しない。
しかし、ジオンの残党は主力のザクすらも数は圧倒的に少ない。
連邦の戦術マニュアルでは、1機に対して常に3機以上で襲いかかるように訓練されていた。戦場で最も貢献するのは天才が生み出す突出した技術ではなく、天才パイロットが操縦する超性能を秘めた試作機でもない。極論すれば最終的には戦術すらいらない。必要なのはとにかく物量である。ドズル中将が生きていれば「戦争は数だよ、兄貴!」とでも叫んでいただろう。
アフリカでの掃討戦はすでに戦いではない、狩りだった。ニードルが攻撃しているのはキリマンジャロ基地周辺で無駄な抵抗をしているジオンのMSである。
ザクとドワッジが1機ずつ、対してこちらはジム6機。1対3の戦いが2つ行われていた。
歩行移動のザクと、ホバー移動するドワッジは、移動速度が格段に違うため、連係など到底無理な話だった。
ジム3機がドワッジを牽制している間に、ニードル達の小隊がザクを仕留めてしまった。
これで1対6。いかにドワッジといえど、絶望的な戦力差である。
6機で囲んで逃げ場を狭め、多方向からの攻撃を加えると、ドワッジもついに被弾して動きを止めた。
「ハッハァーッ!お待ちかねのショーターイム!」
ニードルはこの瞬間が一番好きだった。敵が抵抗する力を失ったところでビームスプレーガンをぶっ放す。ブラッドやドク・ダームと3人で、泣き叫ぶ女を強姦した時のような、征服して蹂躙する快感があった。6体のジムにより、よってたかって抵抗できない敵MSを犯しまくる。敵のMSがスカート付きなのは、皮肉が利いてて、なかなかいい感じだ。
ドワッジは、頭部と腕部をビームに貫かれて沈黙した。すると、胴体部分のコックピットが開き、パイロットが飛び出してきた。
「待ちやがれ、逃げるんじゃねぇー!」
ニードルのジムはジャンプした。そのまま逃げるパイロットの前に立ちふさがると思いきや、敵パイロットの真上に着地した。敵パイロットは断末魔の悲鳴をあげる間もなくヒキガエルのように踏みつぶされた。
「おっと、いけねぇ、ミスっちまった」
もちろん、わざとであった。
連邦軍は、戦車からMSへの操縦者の機種転換の際、短期間でMSパイロットを育成するため、MSの機動をプログラム化することに力を注いだ。射撃、格闘戦などにおける一流パイロットの戦闘機動をトレースし、射撃の時は始めにこの動作から入り、格闘戦では、このように斬り始める、などの基本の型をセミ・オートで行うようにした。これは、超一流のエースパイロットを相手にした場合、簡単に動きが読まれ、まったく相手にならないという欠点があったが、そんなものは数で補えば事足りる。実際、この方法なら、1人の一流パイロットを育てる間に10人、1人の超一流エースパイロットを育てる間に100人の二流パイロットを育成できた。
そして、このアフリカで、動きを見本にされたのは言うまでもなく、マーク・ギルダーである。ギルダーはニュータイプ能力に関係なく、超一流の技量を有していたので、その残したデータは大いに参考にされた。
マーク・ギルダー個人はデザート・フォックスというチームに敗北した。だが、ギルダーの残した遺産は、連邦軍に受け継がれ、デザート・フォックスを打ち破り、ジオンを叩き潰したのである。
カチュア・リィスは礼拝堂へ向かっていた。タマネギのような屋根を持つロシア正教の建物は、共産党により掲げられた「宗教は麻薬」というスローガンにより、内部を破壊され、荒らされていたが、それで人々の信仰心が簡単に消えるものではない。人々はアカ(共産党員の蔑称)の目を盗んでは、祈りのために礼拝堂の跡地へと通っていた。
礼拝堂へと到着すると、入り口のある半円形になった観音開きの木扉を押し開け、中に入った。中は広いホールになっていた。昔ならば、イエスや聖母の壁画が刻まれた聖壁や、祭壇が安置されていたのだろうが、今は瓦礫ひとつ無い。中央で、ある人物が窓から射し込む小さな光に包まれながら膝をつき、一心不乱に祈りを捧げていた。
「マリアお姉さま〜!」
カチュアが声を掛けると、マリア・オーエンスは組んだ両手を解き、振り向いて微笑んだ。
「まあ、カチュア。今日は早いのね。あなたも礼拝に来たのですか?」
「うん!」
「でも、あまりここへ来てはいけませんよ。どこで共産党員が見張っているかわかりませんからね」
「へいきだよ。だって、あの人たち、子どもには優しいもん」
「まあ、カチュア。それはね、とっても大事な理由があるのですよ」
マリアは突如、肩を震わせて俯いた。すると、いきなり不気味な嘲笑いを始めた。
「どうしたの、マリアお姉さま?」
「クククク・・・・・・馬鹿め。私はマリアではない。私の名は――」
マリアは顔のマスクを剥ぎ取った。その下からは、マリアとは似ても似つかない変態野郎の容貌が出現した。
「フハハハハハハハハハハハハハハハ!秘密警察長官ラブレンティ・ベリヤ見参!」
カチュアは絶句した。悪名高い秘密警察の噂は子どもでも知っている。この男がここにいるということは
「マリアお姉さまは?マリアお姉さまはどこなの?」
「同志カチュアよ、同志マリアは重大な罪を犯した。禁じられた宗教を信仰していたのだよ。よって、今頃はシベリアで木でも数えてるだろう」
「ひどい!なんでそんなひどいことができるの?」
「ふむ、いい質問だ。それはな、15歳より上には興味がないからだ」
「――えっ?」
「というわけで、同志カチュア!君の身柄は私が預かる。潔く攫われるがいい!子どもを攫うのは犯罪ではない、とあの紫式部も言っている」
「それは美男子の場合だけよ!」
「問答無用!フハハハハハハハハハハハハ!」
「イヤ―――――――――――――――ッ!」
「何を書いているのだ、何を!」
エルンスト・イェーガーは、ハルト・ランガーに頭を叩かれて執筆を中断した。
「なんでぇ、ハルトかよ。邪魔するんじゃねぇよ」
「趣味は人それぞれだから、あまり言いたくないんだがな。おまえの趣味は人として許せる範疇を超えている」
ガンルームの中で二人は向かい合って座っていた。ハルトは、相変わらず戦車本を読んでいた。
「ケッ!てめえみたいな荒んだ戦場話ばっかりだとな、読者はこういう癒しが欲しくなるんだよ。大体、てめえに言われたくないんだよ。この戦車狂いがっ!」
「おまえほど狂ってはいない。それに、おまえの読む本はいかがわしいものが多すぎる。『社会主義はメイドスキー』だとか『社会主義はミコスキー』とか、二重の意味で人として終わってる本ばかりじゃないか」
「てめえが他人のことを言えた柄か?その本はなんだよ!その本は!」
イェーガーが指さした本、それは先程までハルトが読んでいた本だ。その題名には『猫耳戦車隊』の文字が含まれていた。
「ニキお姉様!たいへんです!」
通信兵のラ・ミラ・ルナは、ニキ・テイラーに助けを求めに来た。
「何ですか?騒々しい。それから、そのお姉様というのはやめなさいと前から言ってるでしょう」
「それどころではないんです!ハルト様とイェーガー大尉が取っ組み合いの喧嘩をしてるんです。どうか止めてください」
やれやれ、またか。ニキは飽きれて溜息をついた。MSパイロットと戦車乗りの仲が悪いのは、よくある話だが、あの二人は極めつけだった。
ニキは気が進まなかったが、足を向けることにした。
ガンルームに到着すると、案の定、ハルトとイェーガーが殴り合いの真っ最中だった。
「地獄に堕ちろ!このペド野郎が!」
ハルトの右ストレートがイェーガーの顔面に炸裂した。
「うるせえ!戦車と渋いオッサンにしか燃えないホモ野郎に言われたくないんだよ!」
イェーガーの左フックがハルトを捉える。
「メイドとか巫女とか、萌え萌え気持ち悪いんだよ、この腐れ外道が!」
ハルトのボディーブローがイェーガーの懐に吸い込まれた。
「てめえこそ、時代遅れなんだよ!教導隊に戻って、ジャンキー教官のケツでも舐めてこい!」
イェーガーのケンカキックがハルトの顔をぶっ叩いた。
「少佐の悪口を言うな!流行に飛びついて、周りに媚びを売る女の腐ったようなオカマ野郎が!」
「んだと、コラァ!てめえの話は暗いんだよ、この根暗が!」
「おまえのような、人間失格の変態よりはマシだ!俺は男のプライドまでは捨ててない!」
二人の殴り合いは永劫まで続くかと思われた。だが、物事には終わりがある。共に最高の一撃を繰り出した。
「死に晒せ!戦車男!」
「くたばれ!変態制服野郎!」
二人の腕が交錯した。最高の一撃はクロスカウンターとなって同時に炸裂した。
「く・・・・・・燃え尽きたぜ」
「ふ・・・・・萌え尽きたぜ」
ガクンと膝が曲がり、両者は崩れ落ちた。
「・・・・・・終わったようですね」
ニキは冷たい眼差しで二人の寝顔を見つめていた。まったく、これだから男という奴は馬鹿ばっかりなのだ。
気がつくと、ルナがハルトの寝顔をみつめながら、嬉しそうに微笑んでいた。
「やったー、これで新しいカップリングができる、嬉しいな〜。考えてみれば、ハルト様とイェーガー大尉なんて最高の組み合わせじゃない。さっそく、みんなに知らせようっと」
この腐女子が・・・。前言撤回、これだから男も女も馬鹿ばっかりなのだ。