【今日のコロニー。 】軍の犬氏



第二話【キューティーにきー】

 U.C.M0079 スペースコロニー『マク○ス7』

 「やっぱりレイチェルだろ」
「お前は分かってねえよ……ルナちゃんが一番だろーが!」
「いや、俺はカチュア派だね……」
「「ゴメン、それは引くわ……」」
なにやら男性クルー達が騒がしいですね。レイチェル……ルナ……ああ、あのアイドルグループですね。最近流行っているとか。
「でさ?うちの艦で一番可愛いのは誰だと思うよ?」
「あ?うちに女性クルーなんかいたか?」
「えーと……いたいた!フレイとか言うのが!」
「顔はいいんだけどな。態度とか……とにかく仕事女って感じでな……」
「あと誰?……ブランド大尉?」
「「アレは違う」」
どうやらこの戦艦の女性クルーの話をしているようですね……
「もういないよな?」
「「うん」」
な!?わ、私の名前があがっていないじゃ……!!大尉の名前が出て何故正真正銘生物学的にも女性である私の名前が……そもそも私はこの艦の艦長なのに忘れられている!!?

 「今年でもう二十……ん歳ですか……」
私の名はニキ・テイラー。戦艦メーインヘイムの艦長である。
「そりゃ忘れられますよね。女として生きてきたことないですし」
そう言いながら、自室の姿見で肌の状態を確認。
「人から可愛いなどと言われたところで軍人として何のプラスになろうか」
そう言いながら腰周りの贅肉を……つかめない。余計な脂肪などなくそこにはただ腹筋があるのみ。
「そうです。軍服しか着ていない人間があんなフリフリを着て踊っている小娘と比べて可愛いはずがないのです!」
その瞬間。先日ミス連邦を受賞していたエターナ曹長の姿を思い出した。ムダにいい記憶力は返って自分を傷つけてしまうものだ……

 現在メーインヘイムはコロニーに燃料補給のため入港している。停泊中は休日扱いとなり、艦長である私も一日ぐらいなら自由になる時間がある。
「こ、これが今の若者の可愛い……なのですか?」
私が向かった先は本屋だ。何でもまずは知識を蓄えるのが私の性分である。そこに売られている膨大なファッション雑誌に圧倒されつつも、ふと目に入った『今流行の可愛い系キャラ大変身特集(笑)』という表紙の見出しにつられ一冊の雑誌を手に取った。
 まず向かったのはその雑誌に載っていた女性服専門店。
「いらっしゃいませーー」
恰幅が良く妙に甲高い声の店員が現れ、強引に服を勧めてきた。
「こーれなんかーいますっごい人気なんですけどーー」
「ああ……ええっと……」
「ていうかー軍人さんですよねーーちょーウケる(笑)」
「は、はあ……?」
「やっぱり軍人さんって敬礼とかしちゃうんですかーー?イワンそーいうのダメな人じゃないですかー?」
「あ、そ、うなんですか?」

 「ハァ……ハァ……!」
結局その場から全力で走って逃げてしまった……今度はもう少し大人しそうな店に入ろう……おお、ちょうど目の前に、あの店にしよう。
「ファンシーショップ『ケンドーミリアム』にようこそ!」
私より年下だが、今度は激しく捲くし立てるタイプではなさそうだ。
「服を見に来たのですが」
「はい、お洋服ですねー。こちらのコーナーになります。」
見ると、フリルや、蝶のモチーフの入ったドレスが沢山並んでいる。そういえば件のアイドルもこういう格好をしていましたね。これで間違いはないでしょう。
「お客様は身長がありますからロングスカートがよろしいかと思いますが?」
「いえ、可愛い系でお願いします」
「……可愛い系……ですか?」
「はい。可愛い系です。さらにモテ系というのも興味があります」
「……」
フフ……これでクルーから馬鹿にされることもあるまい。私ももう結婚していてもおかしくはない年。この私が寿除隊などということは考えたこともありませんでしたが……悪くはない。ふふふ……

 「おい、昨日のあれ見たか?」
「ああ、夢に出てきた……」
どうやら男性クルー達が私のことを話しているようです。あの後、あの格好で颯爽と現れた私はクルー達の視線を釘付けにしてしまいました。……少し刺激が強すぎたようですね……まあ、そういう目で見られてしまうのは美しい女性の宿命というべきか…………フフフ……
「休暇中はあの格好でいても良かったのですが。まあ、それは今度の機会にしましょう。それに、ブリッジに座る時はやはり軍服が一番ですね」

U.C.M0079 今日も宇宙は平和です。