【今日のコロニー。 】軍の犬氏




  第三話【アイドルれいちぇるマスター】

 U.C.M0079 スペースコロニー「UHK(宇宙放送協会)」

「ありがとうございましたー!」
そうスタッフに挨拶し、撮影は終了。
「レイチェルー☆おつかれー」
気の抜けた甲高い声、ワタシが所属するアイドルグループのメンバー、カチュアだ。
「おつかれ」
今度は落ち着いた成人女性の声、同じくメンバーのルナさん。
「おつかれさま。この後はラジオだっけ?」

 ワタシの名前はレイチェル・ランサム。最近ブレイクしている新人アイドルだ。強化人間だった気がしたがそんなことは無かったぜ!
「お前がトマトか」
「俺はポテトだ!」
和やかな空気の中、ラジオの収録が進んでいく。今日のゲストは歌手のエターナ・フレイルさん。その長い銀髪と、癒し系(笑)ボイスが人気で、同性のワタシから見ても美人だ。
「そういえば今度コンサートツアーをするんですってね?」
ゲストが話を振って、それにワタシたちが答える。いつもの宣伝パターンだ。
「そうなんです。そうだエターナさん?コンサートのときの挨拶とかって、なんかコツとかあります?」
軽い気持ちで聞いたのが間違いだった……
「あるわよ〜。例えば自己紹介のときとか」
そう言うとエターナさんはすっと立ち上がり、「ちゃんと合いの手を入れてね。」と一言前置きし、お約束の挨拶を始めた。

「エターナ・フレイル!17歳で〜〜す!」
「「おいおい!」」

それで済めばどんなに良かったか……そう、この空間にはワタシ、ルナさん、エターナさんの他にもう一人。このガキがいたのだ。お約束など知りもしない無知なガキが……
「あははは☆それはむりがあるよ〜〜!」

瞬間――空気が凍ったのを感じた。それは、まるでビグザムにコアブースターで立ち向かう時のように、死を覚悟してしまうほどの殺気が部屋を包み込む。
『オシオキシマスオシオキシマスオシオキシマス』
――そう、もし隙を見せたならば―――撃たれる!
あの【百発百中の光の槍】(ビームライフル)で―――!

 思わず奈須きのこ風になってしまいながらもワタシは我に返った。ラジオを続けなきゃいけない。そして何よりも芸能界で長生きするために、ここで道を失うわけにはいかない!
「カ、カチュアってば……何言ってるのもー……」
「……は、ははは…………は?」
引きつった笑顔のワタシ達二人と対照的に満面の笑みを浮かべるエターナさん。そしてその向かい側に座り、ようやく事の重大さに気付いたカチュアはNT能力をフル活用してこの危機を脱しようと試みている。
「あ、あと10ねんくらいたったら……っていう……いみで…………★」
「そうねー、カチュアちゃん『は』あと十年たっても若いのよねー?」
「そ、そんなこと…………」
「あら?じゃあカチュアちゃんより年上の私はどうなっちゃうのかしらー?」
まずい、エターナさんが全ての言葉をマイナスに捕らえ始めた……。こうなったら厄介だ。こちらが何を言っても聞く耳を持たないに決まっている。もし迂闊に「まだお若いですよー」なんて言っちゃったらそれで Game Over。しかもタイトル画面に戻ることなくリセット、セーブデータ削除、中古ショップのワゴンに放り込まれることになる。
 「な、何言ってるんですか?エターナさんは十年たっても17歳ですよ……?」
「あら、そうでしたねー」
良し!ナイスだよルナさん!流石隠れた実力者!!リストラされずに声付きになっただけの事はある!!!
「じゃあ今日はここまでー!みなさんまた聞いてくださいねー!!」
そして、タイムアップ。番組は強制終了。

 「「「ふ〜〜〜」」」
あの後、次の仕事があるからとダッシュでラジオ局を抜け出した私達は、某テレビ局の控え室にいた。
「今日の仕事これで終わり?」
「うん……★」
「カチュアちゃん、星が黒くなってるよ……」
「マネージャーさーん。換えの星買って来てあげてー」
「あ、でんちかえればなおるから★」
「ていうかそれって替えが売ってたり電池で光るものだったの……?」
そう言いながらテーブルの上の台本に目を通す。そして信じられない一文を見つけ、顔から血の気が引くのを感じた。
『ゲスト・バイス・シュート、Halloz工房(レイチェル、ルナ、カチュア)、エターナ・フレイル、他』
『、エターナ・フレイル、他』
『エターナ・フレイル』
 「……最近のドッキリはヤリ過ぎだと思うの」
「……現実を見ろ……」
「あ、バイスさんでてる★」

 U.C.M0079 今日も宇宙は平和です。