ジュナス篇K




部屋を駆け出して行ったマリア・オーエンスとクレア・ヒースローと入れ違う形で、ミリアム・エリンは、ジュナス・リアムの部屋の前に到着した。
(完璧よ、これで完璧だわ。もう誰にもマスコットなんて呼ばせない!)
そう思う彼女は、いま、セーラー服に身を包んでいる。
ドレス姿で走り去るフローレンス・キリシマを見て、彼女が思いついたのが、コスプレだった。
誰も気がつかなかった事実を、ここに記そう。
ジュナス篇Eの彼女の台詞、「そうだ!コレで行こう!!」は、実はここから来ている。
コスプレ、略して、コレ、である。
うん、情けなくて涙が出ます。

さて。
頭の中で、様々な会話パターンを想定したミリアムは、彼の扉を叩く。
その音に、ジュナスは勢いよく立ち上がり、扉を開いた。
もしかしたら、パメラが来たのではないかと、期待を抱いたためだ。
しかし、現実にそこに立っていたのはミリアムであり、しかも、何故かセーラー服を着用しているという信じがたい光景であった。
「…」
「…」
まさか沈黙で出迎えられるとは思ってもいなかったミリアムは、リアクションが取れない。
てっきり「何?その格好?」や「どうしたの?」とか「うはwwwセーラー服www」的な反応があると思っていたのに。
最後のはちょっと違うよ、ミリアム。

想定していたパターンとは違うジュナスのリアクションに、ミリアムは戸惑いながらも、何とか会話を始めようと、必死になる。
「か、か、か、っか、かん、か」
落ち着け。
「か、ん、かんかかい…」
そこでミリアムは、一つ、ゴクンと喉を鳴らしてから、えらい早口でこう言い始めた。
「か、勘違いしないでよね!私だって好き好んでこんな格好してるわけじゃないのよ。あんまりジロジロ見ないでくれる?まぁジュナスがどうしても見t」
「じゃあ、見ないよ」
心底どうでも良さそうにジュナスは言うと、部屋の方を向いてしまう。
瞬間、ミリアムにかつてないほどの羞恥心と虚無感と絶望感が襲った。
ほんでもって、その結果、彼女はキレた。
「何で見ないのよ!」
彼女はそう叫ぶと、どこからか出した竹刀を、ジュナスの脳天めがけて打ち下ろしてしまう。

スパァン!
後頭部と竹刀の接触音が、妙に心地よく響き渡る。

(どうしろって言うんだよ…)
そんなことを思いながら、ジュナスは気絶した。



ジュナス篇L



ジュナスが、目を覚ました瞬間、彼が目にしたのは自室の天井と、心配そうに顔を覗き込むミリアムだった。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
大丈夫なわけないだろう…と、ジュナスは思う。

ジュナスは竹刀で叩かれた後、気絶し、そのまま前方へと倒れこんだ。
ミリアムは、一瞬で我を取り戻し、前方へと倒れそうになるジュナスを抱きかかえた。
何とか床との直撃は避けたものの、とてもベッドまで運べそうにも無い。
彼女はそう判断すると、ジュナス前方へと周り、あらん限りの力を振り絞って、彼の上体を支えつつゆっくりと降ろしながら、その場にしゃがみ込んだ。
まぁ、分かりやすく結論を言えば。
ミリアムは、床に正座している状態で、ジュナスに膝枕をしているのである。

「ごめんなさい!本当にごめんなさい!つい、あの血が上っちゃって!タンコブになっちゃってますよね!?本当にごめんなさい!」
ミリアムは、今にも泣きそうな表情で、ジュナスに謝る。
彼女のあまりのテンパり具合に、ジュナスは、思わず笑ってしまう。
叩かれたショックで、ジュナスはいつもの冷静さを取り戻していた。
「大丈夫だから」
そう言って、ジュナスは起き上がろうとする。
しかし、
「まだ寝てなきゃ駄目です!」
ミリアムは、ジュナスの両肩を掴むと、自分の膝へと寝せてしまう。
「いや、大丈夫だから…」
「何言ってるんですか!?頭ですよ!後頭部ですよ?馬鹿になっちゃったらどうするんです!」
他にも言い様があるだろうに、馬鹿って。

結局、そのままの状態で二人は過ごし、少し話をしていた。
会話の内容は取りとめも無いものだったが、少しの沈黙のあと、ジュナスは素朴な疑問を持った。
「…ねぇミリアム」
「何ですか?」
「何でセーラー服着てるの?」
「え?あ!いや、これは、ですね!あの、その、えっと…」
上手く説明しようとすればするほど、ミリアムはたどたどしくなった。
「ミリアム…」
「あ、はい!?」
「僕のことが、好きなの…?」
おいおい、いきなり何を。
「え!?」
ミリアムは、返事に窮した後、目線をジュナスから外すと、小さく頷いた。
「そう、か…」
「あ、あの、ジュナスさんは…?」
若干の淡い期待を込めて、ミリアムは尋ねる。
「…ごめん、他に好きな人がいる」
それは、ミリアムが一番聞きたくない返答だった。



ジュナス篇M




「…誰、ですか?」
「…」
「…マリアさん?」
「…違う」
「クレアちゃん?」
「…いや」
「じゃあ…?」
「…」
「…答えて、下さい」
「パメラ…」
「…」
「…」
「なーんだ…両想いじゃないですか…」
「え?」
「訓練の最中に告白したんでしょう?パメラちゃん」
「え…?何を…」
「艦内で噂になってますよ」
「いや、違うんじゃ…。彼女、何か怒ってるように見えたし…」
「怒ってるように見えた、だけ、でしょう?」
「…いや、それに、噛みまくりで、何言われたか全然…」
「何て言われたんです?」
「確か…「私たぅつききかかっかだっさい」とか、何とか…」
「…」
「…」
「それ」
「え?」
「それ、多分、私と付き合ってください、だと思います」
「そんな…!」
「何て返事したんです?」
「いや、そんな…」
「ジュナスさん」
「え?」
「何て返事したんです?」
「…何を言われたか、分からなかったし…怒ってるようにも見えたし…ごめんって、謝って、それで、とりあえず今は訓練続けよう…みたいなことを…」
「…最低ですよ、それ」
「僕は…」
「謝りに行かなきゃ駄目です」
「え」
「今すぐ、パメラちゃんのところに行って、謝って来なきゃ駄目です」
「ミリアム…」
「私のこと、いいえ…私たちのことを思うのなら、尚更です」
「…僕は」
「行って、謝って、伝えて、幸せになってもらわないと、困ります」
「僕は」
「ジュナス・リアム!」
「は、はい!」
「とっとと行って来い!」